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274 チェルの不安

 見事盗賊を退けたキューラたち。

 彼らはチェルとの再会を果たし、仲間になってほしいと告げる。

 しかし、彼女にはある心残りがあるようだ。

 俺尋ねるとチェルは黙っている。

 しかし、すぐに口を開いた。


「ここは、ここには小さな子が居るの、だけど……ここの管理者さんは高齢で……」


 なるほど、そういう事か……。

 つまり子供達を放って置けない、だけど管理する人は高齢で後継ぎがいない。

 その上世話になったチェルはきっと子供達に愛着が生まれてしまったのだろう。

 助けたい、その一心で俺達との合流に躊躇ってしまっているのか。

 だが、それは大した問題じゃないだろう。


「大丈夫だ」


 俺はそう言うと兵士の一人に目を向ける。


「な、なんでしょうか?」

「話は聞いてたろ? この孤児院に支援をしてくれ、俺達にはチェルが必要だ。手を貸してくれないか?」


 俺がそう言うと、彼は頷いてくれた。


「分りました、キューラ様のお言葉ならノルン様も聞いてくださるでしょう、それに例え貴方の言葉ではなくとも孤児院となれば子供の居場所、子供は街の未来だと彼は言ってくれるはずです」


 なるほど、確かに奴隷になった自分の幼馴染を助けたんだ。

 それ位は言ってくれるかもしれない。

 とにかくこれで孤児院は安心だ。


「チェル頼む、さっきも言ったが、俺達にはチェルが必要なんだ」


 そう言うと彼女は迷った表情を見せる。

 だが……。


「本当に? でもどうやって……それにその人達って?」


 貴族の旗を掲げる彼らの事を気にはなっていた様だが、俺と一緒に居るからか何も言ってこないなと思ってはいたが、やはり気になったのだろう。

 俺だって彼女の立場なら気になるどころの話じゃない。

 何故ならこの世界の貴族は勇者の犠牲は当然だと思っている。


 そしてチェルもまた勇者は助けるべきだと考える俺達の仲間だ。

 だからこそ、彼女の疑問は最もと言える。

 しかし、ノルンは今のところは俺達の味方。

 なら……隠す必要はないだろう。

 俺はこれまで起きた事をチェルへと伝える。

 すると彼女は俺の話を信じてくれるのか頷いてくれた。


「そっか、そうだったんだね……」


 しかし、首を縦に振ってくれる事は無い。


「心配なら話を早く進めてもらうように行って来る。だから少しだけ待っててくれるか?」

「何なら俺が今すぐ行って来るぞ!」


 カインがそう言ってはくれた物の、彼が行くのは心配だ。


「私が行って来る」


 するとファリスはそんな俺の不安を汲み取ってくれたのか自ら名乗り出てくれた。


「良いのか?」


 俺が訪ねるとファリスは目を細めて頷く。


「私の方が早い」


 それだけ口にしたファリスだったが、確かにその通りだ。

 ファリスなら戦えるし、今の話もノルンへと伝えることが出来る。

 でも、一応一筆書いた方が良いか……。

 そう思った俺は荷物の中から羊皮紙とペンを取り出した。

 そして、今話した事を書き出し、なるべく急いでほしい事を書いておく。

 失礼だとは思うが、今回はチェルの不安を一刻も早く解いてやりたい。

 そして、彼女の力を俺達が借りたい。

 この孤児院を支える人は必要だろう……それは子供達が知っているチェルの方が良いのは分かっている。

 だが、クリエを助けるためには強力な神聖魔法を使えるチェルが必要だ。


 子供達には申し訳ないが……。


「これで頼む」


 俺は手紙をファリスへと託すことにした。

 ファリスは嬉しそうに頷き、手紙を懐にしまい込む。

 そして……。


「届けてくる」


 そう言って走り出そうとするので俺は慌てて口にした。


「ファリス!」


 彼女の名を呼ぶとファリスは首を傾げてこちらへと向いてくれた。

 彼女に伝えなければならない事がある。


「行ってらっしゃい……気を付けてくれよ?」

「頼むぞ!」


 俺の言葉に続けたのはカインだ。

 彼の方へと不機嫌そうな瞳を向けたファリスだったが、すぐに俺の方へと向くと可愛らしい笑みを浮かべてこくりと頷く。

 そして――。


「行ってきます」


 若干恥ずかしそうにそう言い残し走り去っていく。


「だ、大丈夫かな?」


 チェルは心配そうに口にするが、止めなかったという事は彼女の実力は認めているはずだ。

 俺は勿論ファリスを信頼している。

 もう、魔王の手下だったあの子はいない。

 だから――。


「大丈夫だ、ちゃんと無事戻ってくる」


 そう口にした。

 するとチェルは心配そうな表情を作る。


「でも、キューラちゃんをお姉ちゃんって呼んでるんだよ?」


 だから、どうしたというのだろうか?

 俺は首を傾げると彼女は眉の端を釣り上げて口にする。


「あれだけ懐いてるんだから、キューラちゃんの無茶をマネするんじゃないかな? そんなことしなければいいんだけど!!」

「ええと、チェルさん?」


 これはまさか話が蒸し返す奴じゃないでしょうか?

 俺はそう思いながら一歩後ろへと下がるが……。


「何で後ろに一歩下がるの? もしかして変な事あの子に教えてない?」

「そ、そんなことするかよ!?」


 俺はそう叫ぶが、チェルの狙いからは逃げられない様だ。


「ま、まぁ……大丈夫、だと思うぞ?」


 今度はカインも参戦してくれたが、それは……。


「カイン君も……」


 彼女にとっては火に油を注ぐ結果となるのだった。

 勘弁してくれよ……。

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