271 盗賊
孤児院へと急ぐキューラたち。
しかし、今のままでは間に合わないかもしれない。
それを感じたキューラはファリスへと先に向かうように告げた。
彼女を追い何とか孤児院へとついたキューラたちだったが、彼らを追うように盗賊たちが孤児院へと向かってくるのだった。
俺は兵達に指示をし旗を抱えさせる。
すると走って来ていた盗賊達は立ち止まった。
近くにある町、その貴族の関係者が来たと分かったのだろう。
「これからこの孤児院はノルンの持ち物だ! 此処に危害を加えるというなら俺達は全力で阻止する」
俺がそう言うと彼らは嫌らしい笑みを浮かべて俺をまじまじと見た。
「へへ、お嬢ちゃんよ……だから何だってんだ?」
「そうだな、俺達は盗み奪うのが仕事、それが貴族だろうが王族だろうが何だろうが関係ないね」
彼らはそう言うと……。
「まだガキだが、美味そうだ……たっぷり遊んでやるよ」
「お前子供好きだったか? 意外だな……いやだから急に孤児院を襲おうなんて言ったのか?」
うわぁ……なんというかこう、性的対象にされるのは慣れないな。
というか、ロリコン盗賊か……。
なんというか……危ない奴らだな……。
「おい、ガキ! 俺を変な目で見るな! 俺は違うぞ!!」
と言っているものの……いざとなったら普通に襲って来るだろう。
そんな事を考えているとチェルに腕を引かれた。
「キュ、キューラちゃん危ないから下がって、ね?」
そんな事を言われましても……と俺が困惑していると先ほどの盗賊の一人が口笛を吹く。
「良い女もいるじゃねぇか!」
なるほど、だが……チェルにはカインが居るしなぁ。
きっとカインが……。
「良かったなキューラ! 遊んでくれるらしいぞ!」
「そういう意味じゃねぇよ!?」
何でお前はそうなんだ!?
思わず突っ込みを入れてしまうと、盗賊たちは笑い始める。
当然だ……何を素っ頓狂な事をカインは言っているのだろうか?
この状況で遊ぶってなったら想像つくだろうに……。
「……カイン君」
チェルも頭を抱えているが、カインは首を傾げている。
「馬鹿かカイン! あいつらの言ってる遊ぶって言うのは襲うって事だよ!!」
「お、おお! そうだったのか、お前ら!!」
納得したようなカインクンだが、今のやり取りで盗賊たちはなお笑う。
ああ……いざとなると頼りになるカインはまだだろうか?
いや、とにかく盗賊を追っ払わないといけないよな。
俺は上着を脱ぎ捨て、師匠から貰った武器を構えた。
構えると言ってももうすでに拳に着けている。
鉄が仕込んである手袋だ。
「ぶっ! ははははははははは!! このガキ! 馬鹿か!? 体術だけで戦うつもりかよ!!」
盗賊は笑うが、俺は彼らが滑稽に見えた。
奴らの次の台詞はこうだろう……。
「「女子供に何が出来る」」
俺が声をそろえて、言ってやると彼らはぴたりと止まった。
「馬鹿にしてるのか?」
「それはこっちの台詞だ……お前が思っている以上に俺は強いぞ」
そう口にすると彼らはこめかみをぴくぴくとさせる。
勿論、相手がただの盗賊と言っても俺は彼らより強いなんて事は無い。
はっきり言おう、俺は修行中。
その力はたかが知れた物だ。
だからと言って…………。
「俺は、俺の仲間を守らなきゃいけないんでな……」
ここでチェル一人助けられない様じゃ……俺達にクリエを助ける事なんて無理だ。
「カイン、チェルたちの安全を、ファリスはもしも時は頼む」
俺は二人に向け小さな声でそう言うと前へと一歩出る。
すると兵士たちが俺の前へと出ようとしたが、俺は彼らを手で制する。
「お前達は子供達を……それと孤児院に大人がいるはずだ、彼らの保護も頼む」
そう言うと、複雑そうな表情を浮かべたが、すぐに頷いた。
俺は大地を蹴り、盗賊へと向かう。
勿論盗賊はすばしっこく、俺の拳何て簡単に避けた。
しかし、焦る必要はない……。
師匠にはまだ基礎的な事しか教わっていないが、俺には俺で……今まで戦って来た経験と言うものがある。
出来る事は何でも使って勝つしかない。
「フレイム!!」
拳を避けた瞬間、ナイフを構えた盗賊に対し、俺は魔法を当てる。
「――あがぁぁああ!?」
炎に焼かれ、叫ぶ盗賊には明らかな隙が生まれている。
俺はソイツへと改めて拳を向け、力の限り殴る。
まだまだ修行中相手を吹き飛ばすほどの威力なんてない。
だが、上手い事顎にあたってお蔭でダメージはあったようだ。
「なっ!?」
たった一人、そう、たった一人だが、俺が盗賊を倒すとそれが意外だったのだろう、彼らは一歩後ろへと下がる。
「こ、このガキ!!」
だが、皆が皆と言う訳ではない。
1人が自身を奮い立たせるように叫ぶと、一斉に襲い掛かってくる。
それが狙いだとも分からないのだろうか?
焦った時、不用意に大人数で襲うのは愚策ともいえる。
何故なら倒れていく仲間を見れば当然焦る……見た感じこいつらは仲が悪いわけではないだろう。
だからこそ、その仲間がガキ一人に勝てないと分かれば……動きは鈍くなり普段できる事が出来なくなる可能性があるからだ……。
俺は落ち着いて、そう……落ち着いて対処をすればいい。
大丈夫だ、何度かは成功している。
「シャドウ……ブレード!!」
再び魔法を唱えると彼らは魔法を警戒し、小さな盾を構えた。
しかし、魔法は出ない。
「ははははは!! 何だこのガキ!! 実は魔法が苦手なんじゃないか!?」
そう笑った奴が居た。
しかし、次の瞬間その表情を驚愕のものへと変えた。
理由は簡単だ……ありえない方角から来た魔法に対処することが出来ず、まともに受け、闇色の剣が刺さる肩へと目を向けたのだ。
「な、なんなんだよ――このガキはぁぁぁあああああ!!」
慣れない事をしたせいで魔法の威力はいつもより弱かった。
だが、相手を混乱させることは出来た。
「何なんだろうな……」
俺はそう言うと叫ぶ男への腹へと向け拳を向けた。
勿論鎧を付けている奴に効果は薄いだろう……だが、目の前の奴は胸当てだけだ。
今の俺でもそれなりの効果が見込めるはずだ。
事実こいつは腹を押さえ苦しそうに息をしている。
「じゃあな……グレイブ!!」
そこへと向け魔法を放つ、今度は威力を考え正面からだ。
避ける事も出来ずまともに魔法を受けた男は後ろへと吹き飛んだ。
「次は……誰だ?」
そうは言ったものの今ので結構疲れた……全員を倒し切る事は……無理、だろうな。




