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270 出撃!

 修行に明け暮れるキューラの元へと情報が舞い込む。

 それは孤児院にキューラの仲間らしき人……おそらくはチェルがいるとのことだ。

 そして、そこに盗賊が向かっているとのことだった……。

 俺達は数人の兵と旗を持ち、チェルの居る孤児院へと向け、歩き始めた。

 先頭を歩くのは勿論カインだ。

 彼はチェルと聞き、気持ちが焦っているはずなのに、決して前に出すぎるという事はしなかった。


「………………」


 だが、心配な物は心配なのだろう、そわそわとしている。

 その孤児院までは近いらしいからな。

 すぐに着けるだろう……だが、盗賊が向かっているのだからそこが心配だ。

 ましてやチェルは神聖魔法使い……。

 攻撃のための魔法が使えない訳じゃないが……そうだとしても限度があるし、俺達混血の使う魔法とは違うものだ。


「馬車を借りてくるべきだったな」


 俺は自分の間違いを悔やんでいると……。


「いや、そこまでする必要はない! 大丈夫だって」


 カインはそう言うが、そわそわとしている……。

 さて、どうしたものか……と俺は考えるも……。

 この場でカインを先行させるのは楽ではある。

 しかし、チェルの以前の話から彼一人では迷子になってしまうかもしれない。

 何せ枝で道を決めるような男だ。

 今は兵士が真っ直ぐだのなんだのと言ってくれているから、その通りに進んでいるに過ぎないんだ。


 となると、先行させるにふさわしいのはある程度の速さを持って、道を間違えず先に進める人材。

 …………不安だ、凄く不安だ。

 主に俺達の戦力的にという事ではない、何が不安かというと俺の見てない所で何をするか分からないから不安だ。

 だが、そうも言っていられない。


「ファリス」

「なに? キューラお姉ちゃん」


 俺に呼ばれた事が嬉しいのだろう、尻尾があったなら全力で振ってそうな笑みを浮かべた少女。

 彼女に頼むしかない……。


「先に孤児院に行ってチェル……いや、チェルが居なくとも孤児院の安全を確保することはできるか?」

「んー?」


 俺の質問に可愛らしいくも人差し指を唇へと当て首を傾げるファリスは……。


「殺してもいい?」


 などと物騒な事を言っていますが……うん、不安だ。


「駄目だ、と言いたい所だが、他の子供が見てない所なら許可する」


 相手は盗賊、ファリスは子供で見た目も良い……彼女に変な手加減をさせて危機にさらすよりは彼女の好きにさせて身を守らせたほうがいいかもしれない。

 ただ、子供には見せられないよな。


「分かった、良いならキューラお姉ちゃんの望むままに……」


 子供と言うには妖艶すぎる笑みを浮かべた少女。

 それを見たからだろう、連れてきた兵士がごくりと生唾を飲んだ音が聞こえるが、聞かなかった事にした。


「なら、頼む早速向かってくれ」

「はぁい! あはは……あははは」


 楽しそうに笑う少女はその場から走って行き……カインは手を伸ばした。


「お、おい!? 良いのか!?」

「大丈夫だ、ファリスは強いよ。俺よりもな」


 さてと……後は俺達も急がないとな。

 俺はファリスの去って行った方へと目を向け、前へと進む。


「急ぐぞ」


 ファリスは強い、だけど女の子だ。

 心配するなら向かわせるな……って話だけどな。

 だけど、現状では仕方がない。

 だからなるべく急ぎ、彼女の後を追う。

 そうするしか……無いよな。






 俺達……というか俺の心配だが、結果から言えば無用だったみたいだ。

 盗賊はまだ来ておらず。

 孤児院へと辿り着いていたファリスは切り株の上で座り込み足をぱたぱたとさせて待っていた。

 その周りには小さな子供達だ。

 どうやらファリスが気になるようだが、ファリスの方は気にした様子もなく、ただ一点……俺達が向かって来る方へと目を向けていた。

 そして、俺達の姿が見えたのだろう彼女は立ち上がり、此方へと駆け寄ってくる。


「キューラお姉ちゃん!」


 満面の笑みを浮かべて真っ直ぐと走って来た少女を受け止めると頭を撫でてやった。

 たったの数十分、その違いではあったが、ファリスはきっと盗賊が来ないかあそこで見張ってくれていたのだろう。


「ありがとうな、ファリス」


 俺が礼を告げると気持ちよさそうに目を細めた少女は「えへへ」と笑った。


「チェル!!」


 そんな事をしていると横から声が聞こえ、カインは走っていく。

 そうだ、チェル……! 俺はここに来た目的を思い出し前へと目を向けた。

 そこには法衣に身を包んだ少女が居り、彼女は俺達を見て驚いていた。


「カイン君? それに……キューラちゃん」


 だがすぐにその表情を柔らかくし……。


「良かった無事だったんだね!」


 と笑う。

 いや、心配したのはこっちだよ……なんて言葉を言おうと思って踏みとどまった。

 事実心配はしてるがそれはお互い様だろう。

 あえて口にする必要はない、そう思ったからだ。

 彼女は微笑むと……カインの元へと小走りで近づいて行く……。

 だが、すぐにその足を止め……。


「どうした?」


 カインは首を傾げたが、俺はチェルの見ている方向へと目を向けた。

 後ろを振り向くと走ってきている何かが見える。

 確認するまでも無い、盗賊だ。

 盗賊がこの孤児院を狙って来たんだ。

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