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26 旅館へと戻ると?

 ナンパ男達から逃れ、なんとか王城までたどり着いたキューラ。

 そんな疲れ果てる彼を心配し歩み寄る兵が一人……

 キューラは彼に王城へと赴いた理由を話し、クリエを休ませてもらえるよう頼む。

 快く受けてくれた兵だったが、奥に居たもう一人の兵は嫌悪感を隠すことなく――

 キューラはクリエに対する扱いに憤懣を覚えるのだった……

 やっと宿に着いた俺は部屋へと辿り着くと奇妙な光景を目にした。


「……クリエ?」

「キューラちゃん?」


 あの短い間に起きたのだろうか? それはまぁ、良いとして……何で備え付けの棚を開けているのか?

 そしてなぜ中身をぶちまけているのか? クリエは一体なにをしているんだ……


「うぉわぁ!?」


 そんな事を思っているとクリエがものすごい速さでこちらへと迫り、抱きつこうとするので何とか避けると彼女は残念そうな顔を浮かべる。

 ゆ、油断も隙も無いな……などと呆れてるとその目が赤く腫れているのに気が付いて……もしかして、また泣いてたのか?


「よ、良かったです……どこかにいってしまったのでは、と……」

「へ? 書置き残してたろ?」


 そう言いつつ俺は机の上にある羊皮紙へと目を向ける。

 クリエは首を傾げつつも俺と同じ方へと目を向け――羊皮紙を手に取ると読み始め。


「ちょっと、王様の所へ行ってくる……キューラ……」

「そんなに遅くなるとは思わなかったし、事実すぐに帰ってきたんだが一応それを書いておいたんだ」

「…………うへへ」


 いや、うへへって……クリエこの書置きに気が付いてなかったのか……

 でも、なんで棚を……いや、まさか……


「もしかして、俺を探してたのか?」


 そんなことは無いだろう、そう思いつつおずおずと聞いて見ると、彼女はこくりと頷き……嘘だろ?


「あ、あのなクリエ……棚に俺はいないと思うぞ?」

「そ、その……ふと目が覚めたらキューラちゃんが居なくてですね……その……」


 焦った余り俺を探し始めたという訳か……良く見れば部屋は散らかっていて何故かベッドのマットレスが移動してる。

 そこにも俺はいないと思うんだが……


「よ、良く考えればおかしいですよね、何も言わずにキューラちゃんがどこかに行くわけがないですよね」

「ああ」


 頷くと彼女はほっとしたような顔になり――


「それになんで棚の中とかを探してたんでしょう……うへへ……」


 余程テンパってたんだな……というかもしかしてクリエは一人が苦手なんだろうか?

 学校に来た時も司祭と一緒だったはずだ。

 いや、でも……棚はないだろ……ベッドとマットレスの間もな……


「そ、それで何しに行っていたんですか?」

「ああ、謁見を遅らせてくれってな、頼みに行ってたんだ」


 そう言うと彼女はその顔を青くし――


「……え?」

「え? ってわざわざ時間を割いてくれた王に何も言わない訳には行かないだろう、門兵の人が王に伝えておいてくれるって言ってくれたよ」

「え? な、なんか言われませんでしたか!?」


 クリエは青い顔のまま俺に詰め寄る。

 ち、近い!? クリエは俺が男だって言うのをちゃんと理解しているのか?

 美人にそう近づかれると俺の心臓がやばいんだが……


「え、えっと、特に何も言ってなかった」


 俺は嘘だとばれないようなるべくいつも通りを装いそう告げる。


「そ、そう……ですか……本当に?」


 そう言われてもな……言える訳が無いだろう。

 俺が黙っていると――


「本当に何も? 例えば勇者なんかお願いできる立場じゃないとか……言われませんでしたか?」

「………………」


 クリエは以前同じ事でも言われたのか?

 まぁ、確かにそう言った事を言われた訳で……俺が黙っている事で不安になったのか見つめられる。

 それに負けた俺は深く溜息をついた後に――


「気にするなってのは無理だろうけど、あまり考えすぎるな」


 そう答えともいえる言葉を口にした。


「やっぱり、そうなんですね……キューラちゃんはそれを聞いて、その……」


 ああ、分かったクリエって一回不安になるととことんなのかもしれないな……


「気分が悪くなったな……クリエの立場が悪くならないのなら我慢せずに殴ってた」


 そう言うとクリエは一瞬びっくりした後に口元を緩ませる。

 う、う~ん、あまり穏やかではない言葉だったんだが……一言で満足するのか? まぁ、ずっと不安がられるよりはましだけどさ……


「とにかく、体調が戻ったら謁見するようには言われてる。まだ本調子じゃないだろ? 寝て置け、後は特に用事もないからこの部屋で本を読んでる」


 俺はそう言うと先生から受け取った本を取り出す。


「はい、絶対に黙ってどこかに行かないでくださいね?」

「分ってる、大丈夫だって……」


 クリエにそう言われずとも今日はもう一人で行動するつもりはない……何故なら俺の魔法はまだまだ弱い、折角無詠唱というチートを持っているにも関わらずにだ。

 だが、これからは強力な魔法を使えるようにしないといけない。

 何せ俺達の目的は魔王を倒す事、それも勇者の奇跡に頼らずに、だ。

 ……その道は長く険しいモノになるはずで最初の仲間であり、言い出しっぺの俺が弱いままじゃ話にならないからな。


「では、折角ですから休ませてもらいますね?」


 ようやく落ち着いたのか、クリエはマットレスを元の位置に戻すと再びベッドへと横になる。

 って……


「こりゃ先に片づけた方が良いか……」


 部屋の惨状をそのままにしておくことも出来ず、俺は取り出した本を机の上に置くと部屋の片づけから始める事にした。

 それにしても、クリエってよく泣くのか? 勇者ってよりは本当にただの女の子だな。

 この世界では女性の冒険者ってのは普通に居るんだし、だとすると勇者ってただ人が使えない魔法を使えるってだけの存在だ。

 ただその魔法が運が悪い事に世界の命運まで握るものであるってだけで……


「…………あんな事を言われないといけないのか」


 そう思うと特別待遇って言うのは勇者自身を納得させるためのものじゃないのか?

 だが、それは全部が全部許されるって訳でもないだろう、犯罪などがそれにあたるはずだ。

 つまり、要約すると大抵の事は許すから世界の危機には命を差し出せって事か……不愉快だな。

 そして、それは一般市民には告げられずにこう伝えられている……

 勇者は絶えず生まれ、世界を股にかけ旅をする。

 そして、世界に何かしらの危機が訪れるとそれを解決する神の使いであり、使命が終わると神の元へと戻る。


「…………」


 これが学校とは別に俺が耳にした伝説だ。

 よく考えて見ればこの話には疑問がある。

 勇者の子孫が何処に居るのかってことだ……それはプライベートな事だし、誰も知らなくてもおかしくはない。

 前からそう思っていたが考えてみたら妙だ。

 誰が見ても勇者だと分かる瞳、それなのにその子孫はおろか死ぬまでに過ごした街の名前も伝承に残っていないって言うのは妙だ。

 つまり、これまでの勇者はずっと……世界の犠牲になってきたんじゃないか?

 よくもまぁ、今まで世界を見捨てる勇者が出なかったもんだ……


「何が奇跡だ……やっぱり呪いじゃないか……」


 俺は今朝思い浮かべたその言葉を口にし、すやすやと寝息を立てるクリエへと瞳を向けた。


「ただの女の子……なのにな……」

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