265 出会い
魔法を使いトロールのボスを撃破したキューラ。
しかし、目を覚ますとそこには妖艶な笑みを浮かべるファリスが居た。
彼女の力に抗えないキューラは声を上げ、彼女を止めると薬を飲ませるのだった。
ファリスが眠りについて、俺は何とか彼女をベッドへと乗せる。
そう言えば俺もどこか熱っぽい気がするな。
薬を取り出し、俺も飲んでおく。
さて、ここは……見覚えのある場所だ。
ノルンの屋敷……それを思い出し、扉を潜る。
夜だというのに灯のお蔭で明るい屋敷の中を進む。
すると、以前に食事をした部屋へと辿り着いた。
扉を開けると、食事の時間からは外れているのだろう。
「誰も居ないな……」
俺は扉を閉じ、別の場所へと向かう。
暫く歩いていると一人の女性がこちらへと向かって来ているのが分かった。
やけに露出の多い服を身にまとっているが、筋肉が見て分かるほどで、いやらしさは感じない。
寧ろ、良く似合っている……。
彼女もその事を理解しているのだろう堂々とした歩き方だ。
その顔は美しく……緑色の髪は首の所で一つでまとめられている。
彼女は俺が見ている事に気が付いたのだろう、特に慌てる事も無くゆっくりとこちらへと近づいて来た。
「キミは……確かそう、ノルンが言っていた勇者だね?」
「あ……いや俺は……」
いきなり話しかけられた事で驚いた俺だったが、何故か今の言葉に違和感を感じた。
「街の為にすまないな、トロール退治ご苦労だった。あの少女も心配していたが大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ……」
俺はそう答える。
寧ろ俺よりファリスの方が大丈夫じゃなかったんだが……。
そう言えば、俺はあれだけの魔法を使ったというのに魔力痛が無い。
「それにしても、君は混血だと聞いていたが……」
「へ?」
俺は彼女が何を言っているのか分からなかった。
混血で間違いない。
この世界では混血か魔族かというのは判断が付きやすい。
何故なら片方の目の色だけ違うからだ。
なのに何故、彼女は疑問に思っている?
「混血だ……何を言って」
「しかし……ん? ああ、いやすまない、どうやら見回りで疲れていた様だ」
何を言っているんだ? そう思いながら俺は近くにあった窓を見てみる。
ガラスもまだ高級品とはいえ、この頃は流通も増えて来て窓を入れる家は多い。
窓に映る俺を見てみるがいつも通りの俺がそこにいるだけだ。
「困惑をさせてしまった、本当にすまない」
「いや、気にするな」
彼女は本当に申し訳なさそうにしていて俺は思わず首を横に振った。
すると……。
「そうだ、まだ名乗っていなかったな私はレラ・スティルだ。今回はノルンの依頼を受けてもらい感謝する」
丁寧なあいさつに俺も合わせて返す。
「俺はキューラ・クーアだ……依頼も何もこっちも世話になるんだ。これくらい当然だよ」
そう言うと、彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが笑みを作る。
そうか、さっき感じた疑問。
この人は見回りと言う言葉から分かるが、この屋敷に仕える人であることは間違いない。
そして、その美しい筋肉が示すのはこの人がノルンの言っていた騎士だろう。
なのに彼女はノルンの事を呼び捨てにしている。
「なぁ……一つ聞いて良いか?」
「勿論だ、だがおおよそ想像はつく……ノルンの事だろう?」
俺は驚いたが、頷くと彼女は少し顔が赤くなり瞳が潤んだような気がした。
「その、私の家は裕福ではなくてな、私は武の才に恵まれていて将来兵士として働くために修行をしていた……が子供の時奴隷に堕ちた……それを聞き彼は自身の親を説得し、真っ先に助けてくれたんだよ」
ああ、なるほど……それで惚れたという事だろうか?
「信じられるかい? 身分が違うのに幼馴染を助けるためだと言い、私を引き取ったら凄腕の師を付けくれた……もし、憂いを感じるならその才を自分のために使ってくれれば良いそれだけ言ってな」
奴隷に堕ちる……。
それはこの世界では別に珍しくはない。
だが、この話を聞く限り彼女はノルンの奴隷だ。
なのにノルンはしっかりと騎士と呼んでいた……幼馴染を助けるため、か……本当の意味は違うのではないだろうか?
まぁ、それは本人にしか分からない事だ。
「君には二度借りがある。もし良ければ私に出来る事なら協力を惜しまない……きっとノルンもそれを望むはずだ」
そして、この二人には信頼があるという訳か……。
いや、信頼と言うにはちょっと違うか? まぁ、それも遅くはないだろうが、恐らくこの人が身分が―などと言っているのかもしれない。
それにしても出来る事なら協力を惜しまないか……。
「どうした?」
「ん? ああ……」
俺は生返事を返しながら考える。
アルセーガレンへと向け旅立った俺達、理由は俺の修行だ。
だが、今は状況が違う……クリエを助けなければならない。
仲間だって探さなきゃいけない……クリエが逃げ出しているのは嬉しいが、それだとしても追手はついているはずだ。
だが、今の俺じゃ例え探し出せたとしても護ってやれるのか? ノルンがレラさんを助けた様に……。
俺はクリエを助けられるのか? 手段や方法は違う、だけど……そんなのは些細な違いだ。
護ったという事実がある以上、俺は今のままではそれが出来ない。
事実俺はファリスを危険な目に合わせている。
「…………なぁ」
俺は考えを終えると彼女へと声をかける。
訝し気な表情になっていた彼女は首を傾げていた。
「なんだ?」
「その、どんなことが出来るんだ? 剣を使ったり槍とか……体術とか」
尋ねると彼女は……。
「人はそう何種類も武器を使うのは難しい……私にできるのは剣と体術だけだ」
そうか、それなら……師なら何人いても良い。
それにこの人は凄腕の師についてもらったとの事だ。
なら――。
「俺にそれを教えてくれないか?」
今は少しでも自分の力を高める事……それが必要だ。




