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264 魔法

 トロールとの戦いは始まった。

 しかし、思いのほか作戦はうまくいっていた……。

 だが、風向きが変わってしまい、その体臭はファリスを襲う。

 彼女を守るためもあり、キューラはなりふり構わず魔法の準備をし始めるのだが?

「我願う……焔の精へ、地獄の業火を招きて、我が前に立ちはだかる者へと裁きを――」


 詠唱を唱え、俺は魔法の強化をする。

 初めて使う魔法だが、下手に中途半端な魔法は使えない……魔力痛も仕方がない、今はファリスを守る方が先決だ!!


「焔の精よ! 我が怒りを糧に狂い、焼き尽くせ!!」


 詠唱を終え、向かって来るトロールへと目を向ける。

 流石はカインだ、あの勇者と協力しいつの間にか数は減っていた。

 だが、一匹だけやけにタフなトロールが居る。

 身体もデカい、恐らくはあいつがボスなんだろう狙いはあいつだ!!


「インフェルノ!!」


 放った魔法はまるで踊り狂う様にトロールへと向かう。

 それは瞬く間にトロールを包み、火だるまへと変えた。

 ボスらしきトロールの後を追うトロールはそれを見て驚いたのか足を止める。

 そして、咆哮の様な悲鳴を上げ、来た道を戻って行った。

 頭が居なくなれば……混乱するのは当然だ。

 ましてや、その頭はたった一撃の魔法で殺された。

 こっちは相当の無茶をしたせいで身体中が痛くなっているがそんな事は関係ない。

 トロールは馬鹿だ。

 こっちが力を見せつければまた同じ事をやってくると思い込むはず。

 俺の体の状況何か気が付くはずがない。

 事実、今も逃げまどっているトロールはカイン達の剣で倒されていく……。


「はは……っ!?」


 勝利を確信し、俺は笑う。

 同時に痛みが走り、その場にうずくまった。


「かはっ…………けほっ」


 息が満足にできない。

 無茶をし過ぎた……。

 そう思いながら俺はその場に倒れ込み――。


「キュ、キューラさん!?」


 誰かの声が聞こえた。

 恐らくは近くに居た魔法部隊の一人だろう。


「お姉ちゃん?」


 同時にやけにねっとりとした声でファリスが俺を呼ぶ。

 答えてやらなきゃ、そう思いつつも何も出来ず、何も言えず。

 俺の意識は……途絶えた。




 次に目を覚ましたのは真夜中だ。

 身体に違和感を感じ、俺は起きた。


「なん……だ……?」


 疑問に思いつつ、俺がまず最初に視界に収めたのは……。


「えへ……えへへへ……」


 怪しく光る瞳で俺を見つめる少女だった。


「ファ、ファリス!?」


 彼女は怪しく笑い、俺は起き上がろうとする。

 しかし、押さえつけられてしまった。


「な、なにを?」


 そう問うも彼女は答えない。

 ただ、濡れた瞳で俺を見つめ、舌で自身の唇を舐めた。

 妖艶。

 彼女に似合わないだろうその言葉は不思議なほどに似合っていた。


「キューラお姉ちゃん……起きたぁ」


 彼女はそう言うと俺の胸へと頭を乗せすりすりとしてきた。

 間違いない、何かがおかしい。

 彼女に何があった!? 俺は倒れる前を順番に思い出していく。

 トロールの討伐へと向かった俺達、だが思いのほかトロールは頑丈だった。

 その所為で何匹かこっちへと向かって来ていたはずだ。

 その時に風向きが変わって……。


「……ファリスまさか!?」


 まさか臭いの所為でおかしくなってるのか!?

 いや、だがそうだとしてもおかしい。

 あの臭いにあてられた女性は無抵抗になるほどの快感に襲われるらしい。

 だが、ファリスはどうだ? 力で俺を押さえつけている。

 つまり、彼女は無抵抗ではない。

 寧ろ今襲われてるのは俺だ。

 幼女に襲われる……なんか自分で考えてショックも良い所だが……。


 昔のゲームでは友達イコール死んでくれる? と言う幼女が出てきたゲームもあるらしい。

 なんでも拒否すると超強いボスが出てくるとか、しかもそれが正規ルートだと言うのだから恐ろしい。

 ってそんな事はどうでもいい!!

 問題は今だ。


「良い匂い、甘くて……美味しそう」

「ファ、ファリス……さん?」


 思わず敬称を使ってしまうほど、彼女はおかしかった。

 しかも、笑いながら俺の腕を動かしていくと片腕でそれを押さえ、空いた方の腕で服へと手をかけられてしまった。

 うん……クリエではなく、ファリスで貞操の危機に陥ることになるとは思わなかったって悠長に考えている場合か!?


「ファリス!!」


 俺は彼女の名前を呼ぶ。

 だが、此方へと向けた目は相変わらず怪しく光り……正気ではない。

 相手が男であれば魔法や急所を狙うなど出来るが、残念ながらファリス相手じゃそれは出来ない。

 ましてや彼女はまだ小さい子供だ。

 だからと言って知識が無いわけではない、彼女は賢い。

 だからこそ、こんな事で狂わせちゃいけない。


「辞めるんだ!! これは命令だ!!」


 力の限り叫ぶと、彼女はビクリと身体を震わせた。


「良いか!? それはお前の意志じゃない、トロールの所為だ!! そんな事で自分を安く売るな!!」


 本人の意思なら仕方がない。

 そうは思えるが、それだとしても俺は拒否するだろうが……今はそうじゃない。

 ファリスは自分の意思で俺を襲うような子ではないはずだ。


「…………」


 動きを止めた彼女はその手から力を抜き、荒い息を上げる。

 熱っぽいのだろう、やけに蕩けた瞳をしていた。

 普通なら無抵抗になるはずがそれでも力があるのはどういう理屈かは分からないが、トロールの臭いにあてられたのは間違いない。

 確か、そうなった時の対策はあったはずだ。


「待ってろよ……今助けてやる」


 俺はそう言うと鞄の中をあさる。

 ノルンに用意してもらった荷物の中にもしもの時の物が入っていたはずだ。

 それを取り出すと、ファリスへと飲ませようとする。

 大人しくそれを飲む彼女は何処か色っぽくこちら迄変な気になって来そうだったが、なんとか飲ませ終わると彼女はぐったりとし、ゆっくりと瞼を閉じた。

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