263 続・トロール討伐戦
偽勇者と兵士たちを連れ、トロールの討伐へと向かったキューラたち。
不格好な集落……いや、ごみの山にたどり着いた彼らは早速トロールに襲撃をかけるのだが?
炎の魔法は見事に命中した。
続いて放たれるのはカイン達が連れて行った弓兵の矢だ。
これにもちょっとした工夫をしていた。
通常弓兵とは一列に並び矢を放つらしいが、それでは一斉に矢を放てる反面、次の矢を放つのに空白の時間がある。
その間を狙って来るなんて言う事は多いはずだ。
ならどうする? そんなのは簡単だ。
嘗て銃を使った戦争で武将が考えた様に……連れてきた兵士の数の関係で何列もとはいかないが複数の列に並ばせ隣の列とは少し離れ道ができる様に並ばせる。
そして、あらかじめ移動したらすぐに撃ちやすいように用意をさせておく。
前の列が撃ち終わったら、後ろへと向かい次の者が撃つ。
それをひたすら繰り返す……。
大変ではあるが、これで空白の時間は短くなった。
後ろと前の距離もそんなに離れている訳ではないし、交代交代撃つことになるから矢の数も減る。
ましてや移動する分兵士の疲労も増えるしデメリットはある。
だが、それでもトロールの足止めをするには素早い攻撃が必要だ。
近づかれたら男女関係なく襲おうとする能無しだしな。
おまけに男なら逃げられるだろうが、こっちに来たら俺は……分からないが、ファリスに害があるのは間違いないからな。
彼女を危険にさらす訳にはいかない。
俺はそう思いながらトロールを睨む……。
するとトロール達は襲撃に気が付いたものの、街の方へと向いている。
要するに大したダメージにはなっていないと言う事だ。
頑丈すぎるな……思ったより、まずいかもしれない。
そう思いつつ、俺は再び手を上げた。
もう一度魔法を放たせる。
するとトロール達は混乱しているのだろう……。
街の方向から攻撃が来ない事に気が付き、おろおろとしている。
それは俺達の目論見通りだ。
だが――。
「矢も二回目が放たれた……けど」
立っている。
相当のダメージのはずだ。
普通の魔物であれば今ので全滅……と言うのもあり得る。
なのに、トロールは立っている。
「トロール馬鹿なのに……」
ファリスも呆れるほどの体力だ。
いや、だからこそ恐ろしいのだろう。
「頭が悪くても……あの体力自慢と怪力自慢に襲われたらたまったもんじゃないな」
運悪く腕が掠っただけでも死ぬ未来が見える。
いや、この場合俺達は死んだほうがましとなるだろうが……。
「……チッ」
俺はトロールを睨み様子を窺っていたが、舌打ちをする。
勿論倒れないから、と言うのもある。
だが……。
「こっちを向いた、気が付いたか……」
咆哮を上げゆっくりとこっちへと向かって来るトロールは俺達の方へと向いている。
「私達の匂いに反応した……」
「それはそれで嫌な気が付き方だな」
俺は一応自分が臭わないか確認するが、自分では分からない。
そもそも布で覆ってるしな。
「大丈夫、キューラお姉ちゃん、良い匂い」
それはそれで嬉しいのか嬉しくないのか微妙だぞ?
とにかく、今は目の前の魔物だ……。
そう思った俺はトロールを睨む。
ダメージは確実に与えてはいる……だが、どれも決定的ではない。
こうなったらもうカイン達の力に任せるしかない。
「カイン! 頼んだ!!」
俺はあらかじめ作っていたドールを取り出し彼へと頼む。
すると、カインと勇者は走り出しトロールの方へと向かっていく……。
だが、それを見つつ俺は不安に駆られていた。
先程魔法や弓と手加減はしたつもりはない。
だが、それでもトロールには決定打を与えられなかった。
この距離なら俺も魔法を撃つのに参加した方が良いか? もし、通じなく、魔力痛を起こしたら逃げ切れない。
そう思って避けてはいたが……そうも言っていられない状況かもしれない。
「…………甘い、におい……」
「どうする? どうする……」
俺は考え込んでいた。
だから気が付けなかったのかもしれない。
いや、何で気が付かなかったのか……疑問だ。
風向きが変わっていたのだ。
「キューラ……おねぇ……ちゃん」
やけにねっとりとした声が聞こえ、俺はファリスの方へと向く。
そこには怪しく光る瞳で俺を見つめる少女が居り……。
「ファ、ファリス?」
俺は彼女の名を呼ぶ。
「えへへ……」
笑いながらも息を粗くする少女。
何が起きている……そう考え始めた時だ。
自身にも変化が起きていた。
やけに熱っぽいのだ…………俺はまさか、と辺りを見回すがトロールはいない。
なのに……ファリスがおかしくなった。
風向きが変わっても匂いが届かないだろう場所にいるにもかかわらずだ。
って事は奴らの臭いは匂わなくても効果があるって事か……!?
「はぁ……はっ」
「ファリス! しっかりしろ!!」
俺は彼女の肩を掴みそう叫ぶ。
それにしても一人一人効果が違うのか? いや、この子は何処かませている部分があった。
それも影響しているのかもしれない。
とにかく――。
「もう、なりふり構っていられるか!!」
俺はトロールを睨み、魔法を撃つ準備へと移った。




