262 トロール討伐開始
トロールを倒すために偽勇者の力を借りることにしたキューラ。
はたして、彼は裏切らずに戦ってくれるのだろうか?
そして、うまくトロールたちを倒せるのだろうか?
集められた兵士は数十人。
相手がトロールだし、近接が得意な人は除いたからだ。
勿論、集まった兵達は男性。
女性はいない……。
今回、女性で向かうのはファリスだけだ。
後は俺も一応女って事だしな、気を付けないといけない。
俺とファリスは街で残っておいてくれとノルンには言われたが、それも出来ない。
カインは作戦を聞いてはくれたが、予想外の事が起きるかもしれないからな。
万が一に備え、俺も行くと言う訳だ。
「それで風下にならないように移動をする」
俺は仲間達にそう言うと、彼らは静かに話を聞く。
「良いか? 誰も犠牲を出さないようにするんだ……分かったら出発だ!」
難しい注文だ。
そう理解しながらも俺が出る合図を送ると「おおおおおー!!」と言う声が響いた。
故郷を出た時はこんな大所帯で移動をすることになるとは思わなかった。
いや、そもそも俺は勇者の従者として旅立ったのだからこんなことを予想できないのは当たり前か。
そんな事を考えながら俺は……いや、俺達は街の中を歩き……外へと向かった。
地図を確認し、風の向きを確認し……トロールを発見したと言う場所へと向かう。
俺とファリスは臭いをかがないようにしないといけないからな。
間違っても風下には立てない。
今のままだとぐるりと回る必要がある。
それだけじゃない。
トロールは鈍感で頭はあまりよくない。
だが、何処に人間の街がある。
程度の事は理解が出来る。
つまり、人間の街の方から大群が押し寄せてきたら反応をしめすかもしれないっという事だ。
あえて別方向から近づく事で万が一バレた時に混乱をさせる。
と言う意味合いもある。
だが……。
それで混乱をするかは分からない。
事実、俺はトロールと戦った事は勿論、遭った事すらない。
力が強く、女性は避けて通らなければならない魔物だと言うぐらいだ。
「……キューラお姉ちゃん」
俺が不安を感じているとファリスが布を差し出して来た。
これで臭いを防ごうとういう事だろう。
俺は受け取りファリスの頭を撫でてやる。
「ありがとう」
それだけ伝えると彼女は目を細め「えへへ」と笑った。
それから暫く進むと不格好な集落が見えてきた。
木や葉っぱを重ね合わせ出来た家。
だが、丁寧なつくりではなく、見かたによってはゴミの様でもある。
いや、それはゴミなのだろう……遠目からも家に入ろうとしたトロールが見えたが、家は見事に崩れた……とてもじゃないが入れるように出来ていない。
要するに家を作ったが作り方が分からず取りあえず積み重ねただけ、だろう。
身体だけは丈夫な魔物だ風邪をひくことが無いし、雨風も平気だろうが……なぜ家なんて作り始めたのか、まさか人間の家を見て真似したのか?
初めて見たけど本当に馬鹿だな。
とは思うもののあれで人間の女性や動物や魔物の雌には強いからな。
「止まれ」
俺は仲間達に制止を指示をする。
俺とファリスはここまでだ。
万が一風が変わったとしてもここまでは臭いは届かないはず。
そう思いつつ、俺は作戦通りに動くよう兵達に告げる。
てきぱきと動く彼らは頼りになる。
最後にカインとええっと名前は何だっけ? 相変わらず覚えちゃいないが勇者へと目を向けた。
カインは力強く頷き、勇者は緊張からかぶるぶると震えている。
「カイン頼むぞ、それとお前は余計な事を考えるなよ?」
俺は念を押すように勇者にそう言うと彼は頷き返した。
「あ、当たり前だ! 僕は奇跡なんていらないんだ!」
そういう声は小さめだ。
気がつれないようにと思っているのだろうが、トロールは鈍感だから普通に喋る位なら見つかりはしない。
だが、彼はそう思ってはいないのだろう。
なんだか不思議な奴だな。
勇者として旅をしてきたはずなのに魔物に対する知識が少ない様な?
まぁ、俺もトロールは教科書で読んだぐらいだし、実際に見るのは初めてだが……。
「それじゃ……始めるぞ!!」
俺はこれ以上彼に何か言う必要はない。
そう思い告げるとカイン達は兵士を連れて先へと進む。
俺達の周りには魔法使いが残り、此処から魔法を撃つと言う訳だ。
だが弓兵はここにはいない……弓は風の影響もうける。
有効的な射程へと動く為カイン達と共に行動だ。
勿論俺達が見えないと困る事から、一人は連絡役として中間に立ってもらう。
彼が手をあげた事で俺は周りの兵へと指示をする。
「行くぞ、詠唱……開始」
そう告げると彼らは一斉に詠唱を唱え始める。
ここにいる兵の中で魔法を唱えるのは混血の者だけだ。
神聖魔法の使い手は最小限。
だからこそ数が少なくなったと言っても良いが、攻撃の為なら混血の方が良い。
俺も勝手を知ってるしな。
そして、合わせる詠唱は同じ使う魔法もだ……。
「撃て!!」
俺がそう叫ぶと次々と炎が飛び、トロールを襲う……。
頼む上手く行ってくれよ!!




