25 変なエルフとの出会い
しつこいナンパ男に連れて行かれそうになるキューラ。
だが、彼は相手が怪我を負う事に躊躇し抵抗を出来ないでいた。
そんな時、彼女を助けるエルフ女性が現れ見事ナンパ男を退散させる……
しかし、キューラにはその女性がとてもエルフとは思えないようで……?
変なエルフと出会った俺は彼女を呆れた表情で見つめる。
すると彼女はその鷹のような瞳を俺へと向け――
「なんだい? もしかしてアタシに頼み事でもあるのかい?」
「い、いえ……」
ただ単に煙草を吸うエルフに驚いてるだけだ。
「仕方が無いね、依頼はどんなのだい?」
「い、いえ……だから依頼は無くて」
ん? 依頼?
「お姉さんは冒険者……なんですか?」
「なんだい、お嬢ちゃんはこの街が初めてかい? アタシはトゥス・ターナどんな依頼も受け付けてあげるよ、魔物退治から殺しまで……なんでもね」
ん? 今なんでもって……いや、よそう……
この人にそんな冗談を言ったら殺されそうだ……
「で、本当に依頼は無いのかい?」
「あ、ああ……ない、です……」
「そうかい、じゃ……別を当たろうかね、お嬢ちゃん何処に行くのか分からないけど、気を付けて行きな」
彼女はそう言うと俺の肩へと指を向ける。
その指の先を見てみると其処にはライムが居る訳だが……
「スライムなんて懐きにくい魔物を連れた美少女が歩いてたら注目の的なんだ……さっきのはヘタレだったけど、運が悪いと捕まって売られるよ。抵抗出来るんだろ? だったら遠慮なんてしない方が良い」
そう言ってニヤリと笑う顔はエルフらしからぬ……というか悪人そのものの笑顔だ。
この人の所為で俺が思い浮かべるエルフと言う種族が粉々所か塵になって風に飛ばされた気がするぞ……
「は、はい……気をつけます」
「気をつけな……じゃ、火ィありがとう」
彼女はそう言うと片手を上げて去って行く……
何か街に出て数十分もしない内に色々あったな……城はすぐそこなのに……
しかし、冒険者か……クリエの護衛に選ぶなら冒険者を選ぶのは良いかもしれない。
うちの卒業生……つまり先輩もいるだろうし、それならあの話は聞いてるはずだ。
まずはどんな人が居るか分からないからな、会ってみないといけないけど、クリエが回復したら一緒に酒場とかに顔を出してみよう……
「それよりはまず――」
城に行って今日の事を話さないとな――
「ねぇ、そこの子! 一人なの? 俺、暇でさぁ……」
「はぁ……」
そう思った矢先にコレだよ……
あれから何人に声を掛けられただろうか……
最初ほど強引ではないものの代わる代わる声を掛けて来る男……お前らな……俺は男なんだぞ、いや誰も信じないだろうけど男なんだぞ!?
声を掛けられる事に面倒になった俺はその場を走り去り……ようやく城の前までたどり着いた所で……
「クソ……なんなんだよ……」
そうぼやく……帰りは路地の方へと向かった方が良いな……大通りは一人で歩いちゃいけない。
あいつら何処から湧いてくるんだよ……
「君、どうしたんだい?」
俺が城を前に地面へと目を向けながら小さくつぶやいたのが気になったのか、門兵が近づいて来て俺へと声をかけて来る。
「何か困り事かな?」
「あ、いえ……その、俺は勇者の従者で……」
そうだ、城に来たのはちゃんと理由がある。
ナンパ男達の所為で忘れかけていた。
慌てて俺は従者の証を見える様にすると近くに来た兵士は瞳を丸め大慌てで敬礼をし始め――
「こ、これは従者殿、勇者様が来ていると言うのは本当でしたか……所で――」
その様子から察するにちゃんと話は伝わっていたのだろう……だが、肝心の勇者が居ない事に首を傾げる兵。
「その事で話があるんだ、勇者クリエが長旅の影響で疲れてしまって今日の謁見は出来そうもなく……」
そう言うと向こう側の門兵の顔があからさまに変わった。
嫌悪というか、こちらを睨みつけてる様だ。
対し、目の前の兵は――
「なるほど、そう言う事でしたか……分かりました、私から王へと伝えておきましょう」
「あ、ああ……」
何か対照的だな。
この人はすぐに俺のところに来てくれたのにあっちの奴は我関せずだったし、クリエの話にしてもだ。
そんな事を思っていると――
「おい、勇者の体調よりも王との謁見だろう!? 王はわざわざ時間を割いてくれたのだぞ!!」
近づいてくるなりもう一人の門兵は俺を睨み、そう怒鳴る。
こいつ……ま、まぁ相手は王様だ折角の時間を無下にしてしまったのは悪いとは思っている。
「申し訳ございません……どうしてもすぐれず今は寝かせています。謁見時は勿論、これからの旅に影響が出ないよう少し休ませていただけないでしょうか?」
とは言えここで引く訳には行かない。
そう思う俺は彼に瞳を向け伝えたのだが兵は腰にある剣へと手をかけ――
「――っ!!」
「まぁ、まぁそんなカリカリするな……」
金属の音が聞こえると共にその人を押さえたのは先に声を掛けてくれた兵士だ。
「先ほども言ったが、王には私が伝えて置く……そうだな、5日以内には足を運んでほしい」
「は、はい! ありがとうございます」
俺は頭を下げ礼を告げる。
すると――
「勇者様の体調が早く戻る事を祈るよ」
そう言う兵士と――
「勇者風情がまるで人間の扱いを……」
という声が聞こえ、思わず顔を跳ね上げもう一人の男へと俺は目を向ける。
「なんだ、その目は?」
「………………っ! ……いえ」
ここでやり合って俺の所為で勇者が危険な存在だと勘違いされる訳には行かない。
睨んでおいてなんだが、すぐに目を逸らし目を伏せたまま来た道を戻る。
それにしても、気分が悪い……
「なんなんだよ……勇者は人扱いされてないのか?」
いや、それは無いだろう……もしそうだったら、カイン達の反応だって違ったはずだ。
コボルトの時に助けて当然と思われたはずで、お礼も謝罪も無かったはずだ。
ましてや、本当にぞんざいに扱われるのならカインが手を煩わせるなんて言葉を使わないだろう……
「つまり、本当に貴族や王、学校の連中以外は奇跡を知らないって事か……?」
その上で貴族達や王は勇者を道具扱いしている?
だとしたら、あの柔らかい印象の兵士はウチの卒業生なのか?
ともかく、王の方は期待しない方が良さそうだ……
「おっ! ねぇねぇ! 今暇? ――っ!?」
考え事をしつつ歩いていたら大通りに入ってしまい、早速声を掛けられうんざりしつつ瞳を向けると、思わず睨みつけてしまっていたのだろう……
俺の顔を見るなり何も言わず去って行った男の背中を睨み続ける……
「なるほど、不機嫌ですって分らせると逃げてく奴もいるのか……」
そんな事を考えていると頬に冷たくプルプルするものが擦りつけられた。
「……ライム」
もしかして、そう怒るなって言ってるのか? ……はぁ
「そうだな、少なくてもあの兵士さんは優しかったんだ。王のクリエに対する扱いが酷いとは限らないよな……」
そう願い、俺は宿へと戻る為に大通りを歩き始めた……