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252 従者と言う名の人質

 勇者ルイス一行。

 彼は勇者とは到底呼べない人間だった。

 キューラはそんな彼と戦う事になったのだが武器は無い。

 その上、敵に居るエルフの少女は銃を持っている。

 果たして、どう戦うのだろうか?

 幸いな事に銃は単発式だ。

 太ももにあるホルダーは一個。

 これ以上銃を隠している素振りは無く、エルフの少女は慌てて弾を込め始めた。

 すると……予想外の事が起きた。


「この、役立たずが!!」

「ひっ!? ――っ!?」


 怒鳴り声と共に、鈍い音が辺りに響く。

 同時に周りからは悲鳴や驚きの声が発せられた。

 そう……自称勇者がエルフの少女を殴った。

 剣ではなかったのにホッとしつつも、俺も固まってしまった。

 残る二人の少女はそれを見て目を見開き小刻みに震えている。

 それに気が付いた彼は――。


「お前ら何してるんだよ!! 早くそいつらを捕まえろ! 2人して辱めてやる!!」


 何も答える事はなくびくりと震えた二人の少女は慌てて俺達の方へと向き直る。

 エルフの少女と言えば、ガチガチと歯を鳴らし……胸の辺りを押さえ苦しそうな表情を浮かべた。

 ああ……誰が見てもこれは――。


「何だよアイツ! 女の子を殴りやがった!!」

「奴隷だって言っても扱いが酷過ぎない?」

「嬢ちゃん達! やっちまえ!! そんな奴勇者でも何でもねぇ!!」

「この街でそんな事してフリン様に言いつけてやるんだから! 早く倒しちゃってよ!」


 今のを見て、勇者が自分達の知る勇者ではない事に気が付いたのだろう。

 住人達は声をそろえて叫び、今度は俺達の味方をしはじめた。

 だが、そんな事はどうでもいい。

 いくら決闘だからと言って、割り込むことも無く声だけを出す奴なんかどうでもいい……。

 俺はただ目の前にいる男を睨み――。


「おい! 鈍間共、あのガキどもを早くなんとかしろよ!!」


 真っ直ぐに手を伸ばし魔法を唱える。


「グレイブ!!」


 無詠唱魔法……俺の切り札だった魔法だ。

 だが、上に上には上がいた……かと言って有効手段じゃない訳ではない。

 突然放たれた魔法に男は驚き表情を歪めた。

 しかし――怯えた顔の僧侶が間に入り――。


「――ッ!! シャドウブレード!!」


 俺は慌てて自分の魔法を魔法で防いだ。

 同時にファリスも仕掛けていたが、俺の殺すなと言う命令と必要以上に傷つけるなと言ってしまったが為にどうにもやりにくそうだ。

 その間も男はエルフの子に対し蹴りを入れたり怒鳴り声をあげたりしている。

 泣きながら弾を込める彼女を見て……何も思わない人間は居ないだろう。

 いや、居るとすれば屑だ。

 勇者に対する非難の声はどんどん大きくなっていく。

 だが……俺達が絶対的な不利である事に気が付かされた。

 そう……彼の仲間である3人の女の子。

 彼女達はこうやって支配されている……被害者だ。

 傷つけることが出来ない俺達には――身を挺してまで守られしまうと何もできない。


「クソ!!」


 俺が悪態をついたその瞬間。

 目に映ったのは震えたまま弾を込めようとしていたエルフの少女が弾を落とした瞬間だった。

 何故それが目についたのか……その理由は簡単だ。

 勇者は苛ついているのだろう、抜身の剣を少女に向かって振り下ろす。

 彼女と言えば目を見開き、涙を流しながらもそれをしっかりと見据え、動けないでいた。


「――!!」


 勝手に体が動き、俺は真っ直ぐへと走る。

 だが……間に合わない上に二人の少女が割り込んできた。


「邪魔だ!! 退け!!」


 俺が怒鳴っても怖い声にはならない。

 だが、怒鳴られるという事自体が怖いのだろう二人はびくりとし、俺は彼女達をかき分け手を伸ばす。


「止めろ――!!」


 俺の考えを知り、ファリスが目の前を走っていくのが見えた。

 だが――もう間に合わない。

 残酷にも剣は振り降ろされ、少女の命を奪う寸前だ。


 もう駄目だ……そう思った俺は目を逸らす事も瞼を閉じる事も出来ず、ただ……ただそれを見ている事しか出来なかった。

 いや、だからこそ気が付いたのだろう。

 人混みの中から誰かが飛び出したのを……それは風を巻き起こした。

 続いて聞こえたのは金属音だろうか?

 いや、それで間違いない。

 勇者の持つ剣は刃が二つに折れ……彼は何が起きたのか理解できずにいた。

 だが、俺はそうじゃない。

 まったく……本当に良い所で現れる。

 勇者とは彼の様な存在を言うのだろう……彼自身はちょっと頼りない所もあるが……本当に、いざって時は頼りになるな。

 もし俺が本当に女だったら彼の様な人に憧れるのだろうか? とにもかくにも……助かった!


「カイン!!」


 勇者から離れた場所に立つのは見覚えのある少年カイン。

 彼は抜身の剣を持ち「ふぅ」と一息を付くと、俺達の方へと目を向け笑った。


「よう! キューラ……間に合ったか?」

「ああ! 助かった! だけど、まだ手を貸してくれ!!」


 旅の始まりの日に出会った少年はそれに答える事無く呼吸を整えると勇者睨み剣を構え直すのだった。

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