250 悪徳勇者
勇者が来る。
その話を聞き、キューラ達はその勇者を見に行く事にした。
見た目は確かに勇者だ。
だが、勇者の無茶な要求に声を荒げる支配人の姿が目立つのだった。
支配人の怒鳴り声がエントランスに響く。
彼が怒るという事はあまりないのだろう、客は勿論、従業員たちも驚いていた。
「ああ?」
ただ一人、勇者だけは彼を睨み、剣を引き抜く……。
「支配人!?」
従業員の声が悲鳴がその場に響いた、
もう我慢する必要はない――そう判断した俺は――。
「ファリス……やれ!!」
信頼する彼女に告げた。
するとファリスはその手に魔法で作った巨大な鎌を握り。
「あは――!」
俺と初めて出会った頃に見た妖艶な笑みを浮かべるとその場から消える。
いや、勇者が振り下ろした剣を柄で受け止めた。
酷い剣だな……俺にも分かるほど力任せな一撃……まるで素人だ。
「な!?」
勇者は驚いた表情を浮かべた。
いや、彼だけではない仲間とも見れる3人はファリスを目にして驚いている。
支配人を助けるなら今の内だ!!
「集え氷の粒……矛の形となりて敵を穿て――!! アイスアロー!!」
俺は勇者に向かって魔法を放つ。
するとそれに気が付いた勇者は此方へと向き剣で魔法を叩き落す。
同時にファリスは支配人を連れてその場から離れた。
よし、まずは安全確保だ。
とは言え、全くの素人と言う訳ではないのか? それとも流石は勇者と呼ばれるだけはあるのか……反応が早いな。
俺の魔法はファリスに当てない為とはいえ、それなりの速度はある……詠唱だってしたってのに全くの無傷だ。
「これは何だ? おっさん」
今の攻撃で怒ったのだろう、支配人を睨む勇者。
だが、彼が答える必要はない。
「なに、ただの恩返しだよ、昨日助けてもらった恩を返す、ただそれだけの事だ……」
俺はそう答えると勇者は此方へと目を向けわなわなと震え始める。
「お前に聞いてねぇよ!!」
「だろうな、だけどお前の問いに支配人は答えられないだろ? 命令した訳じゃない、俺が俺達が勝手にやってる事だ」
俺の言葉に顔を赤くして怒る勇者に対し、ファリスは怪しげな笑みを浮かべてころころと笑う。
「何がおかしいんだよ、子供の癖に」
そう言うとファリスは黙り込み、何かを思い出すように表情を変え唇に人差し指を当てる。
それに見惚れる勇者を見ているとファリスはサキュバスかなにかかと勘違いしてしまいそうになるな。
「同じように子供って言った、でも余裕も何も無い、キューラお姉ちゃんみたいに……余裕なんてない、すっごく弱い」
そして何故俺を比較対象に持ちだす?
「あぁ? お姉ちゃん……?」
そう口にした勇者は俺の方へと向き……余裕が無いと言われた事が余程のショックだったのか?
彼は――。
「僕は勇者だ! 剣術も国一番になった!!」
とは言ってるけどさっきの一撃を見るに力任せのぶん回しにしか見えなかった。
対しファリスは技術で受け止めた。
力がある事は確かに強みだろう、だが鍛練した技術には敵わない……それは俺自身が良く知っている事だ。
例え無詠唱を使えたとしてもその上があるんだからな。
「あんなガキにガキより弱いなんて言われたんだぞ!! お前達なんでぼーっとしてるんだよ!! 僕の為にそいつらを押さえろよ、女が男より劣るって所を身体に教え込んでやる」
酷い差別だな。
どの世界でも男女ってのは関係ないと思うぞ? っていうかお前が頼ってるの女性だからな? まぁ、そんな事を言ったら俺が頼ってるのは少女だけど……。
それにガキと言ってるが、そんな年が変わらないようにも見えるんだが?
俺がそんな事を考えているとファリスは「あははは」と笑いだし……。
「なら、なおさら……キューラお姉ちゃんの方が強い、アンタなんかよりずっと……あは、あはははははは」
ファリス? 俺を持ち上げるのはよしてくれないか? 今も君を頼ってるようにそんなに強くないからな?
そして、久しぶりに聞いたが笑い声怖いって……今は仲間である事が救いだよ。
「あんな弱い魔法しか使えないのにか? ははは! なら、お前の自慢のお姉ちゃんが僕の物になるのを見ておけよ」
そして、俺はお前の物になるつもりはないぞ?
「見れば、結構可愛いからな。壊れても楽しめそうだ」
「うわぁ……」
なんというかぬとぉ~っとした視線だな。
これが生理的に無理と言うやつなのだろうか? すっげぇ気持ち悪い。
「ないわぁ……」
俺は思わずそう口にしてしまった。
同じように性的対象として見られてもクリエの方が遥かにマシだ。
彼女が女だからと言うのもあるだろうが、そうじゃなくても彼女の方がマシだ。
「おいおい、僕の奴隷になるんだ……ご主人様に対しての無礼は良くないんじゃないか?」
彼がそう言うと仲間である戦士と僧侶そしてエルフが前に出た……あの子まで戦うのか、俺は驚いたがすぐに制するように手を前に出す。
「戦うのは構わない、だけど広い場所に行こうここじゃ迷惑が掛かる。それにお前達だって宿が無くなったら困るだろ?」
俺の提案に従う訳が無い。
そう思いつつ口にすると以外にも勇者は考え始め。
「そうだな、みせしめは人数が多い方が良い、大勢の前でひん剥いて辱めてやるよ」
下品な笑みを浮かべた勇者を見て所々から女性の悲鳴が上がる。
「キューラちゃん、下がるんだ……私一人の命で済むなら」
と支配人も言い始めた、この勇者の場合それだけでは済まないだろうに……本当にこの人は良い人だな……ますます助けてあげないとな。
クリエだってきっとそうする。
「いや、どんな相手だろうが恩人を見捨てる理由にはならない……ファリス、頼むぞ?」
俺は相棒に頼むと少女は可愛らしい笑みを浮かべ。
「殺して良い? アイツ殺して良い? キューラ様を気持ち悪い目で見るのむかつくの、ねぇ? 殺して良い?」
大層怒っていらっしゃる。
そして、様付けになってるぞ!?
「いや、殺すな、約束は守れ……」
俺が注意をすると黙り込んだが……。
「四肢とあれを奪うぐらいなら良い?」
すぐにまた恐ろしい事を言い始めた。
「死ぬぞ、それ……駄目だ、痛める付ける程度でな」
畏怖を感じつつ同時に呆れながらも俺は再び注意をするのだった。




