24 注目の理由
スライムを連れているなんて珍しいからな。
そう考えていたキューラ。
しかし、注目を浴びていた理由は別にあり……
罪悪感を覚えつつ焼き鳥屋から離れた俺だが……恐らく心底面倒そうな表情を浮かべているだろう。
その理由が……
「ねぇ彼女、その格好は旅でもしてるの? 何処から来たの? にしても可愛いねー!!」
「…………」
注目を浴びていた理由、ライムじゃなくて俺だったのか……
ベントから出た事無かったし失念していた。
俺は元から女の子でも通じる程の容姿だったわけで、俺自身も残念に思うほど可愛いとは思う。
つまり、ナンパをされている訳で――
「でさ、でさ! あそこにあるお店! なんだけど……甘くておいしい食べ物がいっぱいな訳だよ、一緒にどうだい?」
「いえ、腹は一杯なんで……それとさっきから言ってるけど用事があるんだよ!」
俺は何度も言った言葉を彼へと告げるが、当人は笑顔を崩さず笑い声を上げ――
「見た目に反して気ぃツエー! 良いね! 俺好みじゃん!」
おいおい、話を聞いてくれよ……
そう思いつつも助けを求める様に周りに目を向けるが、そっと目を逸らされる始末だ。
酷いな都会って…………
「なぁ、行こうぜぇー美味いから間違いないから!」
「だから、腹は一杯だって言ってるだろ!!」
なぜ人の話を聞かないのか……クソ、一人で出てこないでカイン達に頼むべきだったか?
「分かった分かったってそんな怒んないでよ! なら君の用事が済んだ後で良いから! な?」
「いや、な? じゃなくてだな……」
興味が無い以前に俺は――ん? 待てよ?
こいつは俺が女だと思ってついて来てるんだよな?
「どうしたの? 考え込んでる顔もまた可愛いじゃん」
「はぁ……悪いけど俺は男だ、だからお前と飯を食べる気も遊ぶ気も無い!」
というかこいつ誘うか、可愛いと言うかのどちらかだな……
まぁ流石に男と言えば大丈夫だろうっと思ったんだが――
「はははははは、何それ新しい冗談? 君が男だったら世の中の女の子ぉ皆男なんだけど!?」
おま、なんて失礼な事を……と、とにかくこいつ話を聞かない!?
だめだ、早々に何とかしないと――でも、どうしたらいい? まさか魔法で退散させる訳にはいかない……
「なー本当は用事なんて嘘なんだろ? ほら、行こうぜこの時間本当混むから! 早くしないと席無くなっちゃうよ?」
「なっ!?」
何でそう言う結論になる!? というか、何度も行かないって言ってるよな!?
そう思うもあっという間に俺の手を取った男はずるずるとその店へと連れて行こうとする。
当然振り払おうとするんだが……これ、俺が急に引っ張ったら怪我、するよな? せめてもの抵抗をして行きたくないと言うのを示すか……
そう思い、その場に踏みとどまろうと足に力を入れようとした所……
「その子は嫌がってるように見えるんだけどね……」
「……は?」
後ろから声が聞こえ、ようやく誰かが助けに来てくれたのかと振り返ると其処には――
「って、ぇえ!?」
銃、そう……俺が知っている中では某海賊映画に出て来そうな銃を持った長くとがった耳を持つ女性が居た……
彼女は俺よりも長く、赤い髪を揺らし……その端正な顔の中にある鷹のような目で俺……ではなく男を睨む。
「な、何お姉さん? っていうか、それ物騒だよね?」
流石に銃を向けられている事に驚く男だが――
「嫌がる女の子を引きずって行こうとするのは物騒じゃないってのかい? とっととその手を放しな、じゃないとその額に穴が開くよ」
こ、怖ぇぇぇ……
思わず俺も固まってしまうと、女性は何を思ったのか引き金へと指をかけ――
「ちょ、ちょ……ま!? いくらなんでもそりゃないって!?」
当然怯えた男はようやく俺の手を放し、両手を女性の方へと向け――
「分かった、分かったから、ほら手ぇ、放したっしょ?」
「失せろ……」
「は、はいっ!」
彼女の一言でピンと背筋を伸ばした男はそのまま慌てて走り出し、何度もこけそうになっていた。
そして、エルフの女性は此方へと目を向け――
「あんたもちゃんと抵抗しないとあの手の男はしつこいよ」
「えっと……」
とは言われてもなぁ……確かにそうなんだろうけど、悪人って感じではなかった。
無理やりではあったが……
「と、とにかく助けていただいてありがとうございます」
お礼だけは言わないとな、そう思って頭を上げると――
「偶々目についただけだよ、所でアンタちょっと頼みがあるんだけど」
「は、はぁ……」
なんだ? お礼に金でも寄越せって言われるのか?
まぁ、それ位なら良い……
「火ィくれる?」
その言葉と行動に俺は思わず言葉を失った……
彼女が取り出したのは煙草、何処の世界に煙草を吸うエルフが居るのだろうか? いや、目の前に居るけど……
というか、火だって!? 魔族は神聖魔法が使えないんだぞ!?
「えっと、俺が使える魔法は火じゃなくて炎……」
「火も炎もどっちも同じようなものだ。大体アンタはその黒髪に宝石のような瞳……おまけにその身なりから冒険者かなんかのはずだ……魔法の扱いは得意だろ?」
いや、確かに俺もこの世界の魔法で火と炎と聞いた時は同じじゃないか! って思ったけど!?
それに魔法も得意だけどさ!?
「早くしてくれ、こっちは全額スってイライラしてるんだ」
「あ、え? ス……って?」
それも全額って言ったか? まさかこのエルフ……
「賭け……でもしてたんです、か?」
「他に何がある? 酒、賭け、煙草……この世の娯楽何てそれぐらいだろう?」
いや、ねーよ!? 他に持てよ娯楽を! エルフなら例えば、そう! 動物や草花を愛でるとかさ!!
貴方の所為で俺の持つエルフのイメージがガラガラと音を立てて崩れていくんだが!?
「ったく、のろまな小娘だね、さっさと火寄越しな!!」
こ、この人、駄目だ、エルフとか関係なしに駄目人間だ……
「――っ……フレイム……」
俺の中で完全に崩れたエルフのイメージにがっくりとしながら俺は彼女の煙草に火をつける。
すると――ニカリと笑ったエルフは――
「早くそうすれば良かったんだよ」
「はぁ……」
その言葉に俺は肩を落とした……
名前も知らない人だが、これなら百合勇者のクリエの方がましだな……