246 新たな出会い
兵士に聞いた宿へと向かうキューラ達。
そこでは働けないだろう……そう思った彼だったが支配人らしき人物は快く受け入れてくれた。
感謝しつつも指定された裏口へと向かうのだが?
予想外だ。
俺はそう思いながら店の裏手に回っていた。
今の見た目でこんな高級な宿で働けるとは思えなかった。
事情は確かに話したし、聞いても貰えた。
だというのに……。
「……なんか怪しいな」
俺は思わずそう口にするとファリスは首を傾げている。
まさか、この店いかがわしい店じゃなかろうか?
そんな事を考えるのだがすぐにその線は振り払った。
理由は客層だ。
男女ともに居たし、中には子供の姿もあった。
いかがわしい店なら客で子供が来る事はまずないだろう……。
「………………」
ただ単に俺が疑い深くなっただけだろうか?
いや、そうなってるんだが……。
「キューラお姉ちゃん?」
「あ、ああ悪い……入ろう」
俺はファリスに名前を呼ばれ慌てて扉へと手をかけた。
そこには先ほどエントランスで出会った男が言っていたように女性が二人立っており……。
作業着だろう、メイド服のような物を着ている。
それもスカートの丈が短いのではない、長いやつだ。
「少し遅かったようだけど?」
「何かありました?」
二人のメイドはそう言いながらにっこりと微笑む。
どちらも美人、美少女と言った感じだ。
思わず見とれていると……ふとクリエの顔がよぎり俺は慌てて首を横に振る。
「あら? 何も無かったの?」
「あ、ああ……その、驚いてて、俺がそのこんな高級な――」
そこまで言いかけると一人の女性が俺へと詰め寄る。
金色……と言うには少し茶色い髪を肩の所でそろえた彼女は青い瞳の色をしていた。
いきなり詰め寄られた俺は何も言うことが出来ずうろたえていると……。
「こんなに可愛いのに俺? なんか、変よ? ちゃんと言葉遣いから教えないと駄目そうね……」
とため息交じりで言われてしまった。
「女の子が俺というのも案外かわいいと思いますよ? とにかく、最初は身体を洗いましょう? それにお洋服も用意しないと!」
「キューラお姉ちゃん!?」
もう一人のメイドの声がしたと思ったらファリスの叫び声が聞こえた。
何だろうか? と疑問に思うといつの間にかファリスはメイドに掴まっている。
「……さ、行くわよ?」
そして、俺もあっけなく捕まると連行されていくのだった。
まぁ、連衡と言うよりは風呂……だ、が……風呂? なんか凄く嫌な予感がするな。
そう思ったのはやはり予感だったのだろう。
「…………」
いや、俺達だけが裸なのはマシなのだろうか?
「あら、恥ずかしいの? ほら、何時までも丸くなってないで早く、洗ってあげる」
「いや、自分で……」
そう言ったのも束の間、メイドは溜息をつく。
「背中とか洗えないでしょ?」
「そうですよ? きちんと綺麗にしないといけませんから」
そう言って手に持っているのはこの世界の石鹸ともいえる樹脂だ。
いや、それは良い、持っている樹脂は良いとして、何故俺はこう……洗われなきゃいけないのだろうか?
「キューラお姉ちゃんは私が洗う」
いや、ファリス? お前に洗ってもらうのは更に気が引けるぞ?
今は確かに女同士とはいえ、ファリスも俺が元男って言うのは知っている。
寧ろ一緒に風呂に入れられることになり拒否しないのはおかしいぞ?
そう考えるもファリスは何故かニコニコとしている。
「駄目です、貴女も綺麗にするのですから」
そして二人のメイドはやけにうきうきしてる。
こいつらも百合か? 百合なのか!?
そう思うも抵抗する術はなく……。
「ほら! さっさとする!!」
「うわぁぁぁああ!?」
俺はメイドに洗われる事になってしまった。
背中は分かる。
だが、身体のほぼ全部を洗われた俺は湯船につかりながら……。
「………………」
クリエゴメンと心の中で謝った。
そして、湯から上がると置いてある服を着せられる。
洗う前にサイズを測っていたから用意されたのだろう。
しかし、ファリスは子供だし、俺は年相応と言うには小さい。
良くサイズがあったなと思いつつ着せられた服の裾を摘まむ。
「……うへぇ」
まさか自分がメイド服……を着る事になるとは思わなかった。
「よし! じゃぁ、遅れたけど私達が貴方達の教育係……私はメアリー」
「あたしはエウレカと言います」
二人は微笑むと俺達を見つめ。
「ああ、可愛らしい後輩ですよ」
「そうね、今まで一番下っ端だったからね」
と嬉しそうな表情を見せた。
なるほど、つまり二人のこれまでの行動は……。
一番下っ端だった自分達に後輩が出来て張り切っていたって事か。
だが、見るに苛めとかはされそうにない。
2人とも優しそうだ。
「ええと俺は――」
「「俺?」」
俺の言葉に二人は張り付いた笑顔のまま此方へと向く。
怖いって……そう思いつつ――。
「キューラです」
「「……俺?」」
名を伝えても双子のように言葉を繰り返す二人のメイド。
これは……優しくなさそうだ。
「私は……キューラです」
言い直すと二人は柔らかい笑みに戻し、ファリスの方へと目を向ける。
今のやり取りで怖いと感じたのだろうファリスはやや震えながら……。
「ファリス……」
と名前を伝えるのだった。




