244 検問
運良く乗合馬車に乗る事が出来たキューラ達。
すると同じ馬車に乗っていた冒険者に仲間にならないかと誘われた。
しかし、もうキューラには冒険者と言う職業よりも大事なことがあった。
断った彼はあんな未来もあったのだろうか? と考えるのだった。
どれぐらいの時間が経っただろうか……後もう少しで街に入れる所まで来た。
「キューラお姉ちゃん……疲れた」
ファリスは長い時間待たされてしまった事でくたくたになってしまいそんな事を言って来た。
まぁ、まだ子供だし、仕方がないよな。
俺は彼女の手を引きながら申し訳ない気持ちになり……。
「もう少しだからな、街に入ったら休める所を探そう」
と言ってもまず金が無いんだが……。
流石に馬車の人も載せてくれた上に金をくれるなんて事は無かった。
ただで乗せてくれただけでも大分楽できた、それ以上望むのは良くないよな。
ぼんやりと考えていると……。
「おい、お前!!」
怒鳴り声が前から聞こえびくりと身体を震わせた。
そして、声がしてから少しの間を置き、前から誰かが走って来て予想外の展開に俺はその男に体当たりをされてしまった。
「うわぁぁ!?」
耐えることが出来ず情けなくも尻餅をついてしまった。
こ、これは痛いな……痕になってるんじゃないだろうか? まぁ、誰に見せる訳じゃないんだから良いんだが……。
などとぼんやり考えていると……。
「あやまりもしない……」
ファリスの雰囲気ががらりと変わった事に気が付いた俺は慌てて彼女の手を取る。
「ファリス! 大丈夫だほっとけ……」
「でも、アイツお姉ちゃんを……」
うわぁ……思いっきり怒ってるな。
目が座っている……このまま行かせたら絶対にまずい!
「列から出たら最初からだぞ? 良いからほっとけ」
俺の言葉にファリスはピクリと身体を震わせ、黙り込んだ。
そんなやり取りを暫く見ていた周りの人々はざわざわとし始め。
「いや、女の子にあたってなにも無しかよ」
「あの人指名手配だったみたいよ?」
「兵士が捕まえようとしたら逃げ出すって……」
「詐欺師、らしいけどそうは見えなかったねぇ……人は見かけによらん」
などという会話が聞こえてきた。
なるほど、そういう事か……やっぱり検問をしているだけあって犯罪者はそう簡単に街に入れない。
と言う事は俺達も油断はできないって事か……。
立ち上がった俺はスカートに着いた土をぱたぱたとはたく、するとファリスもまた土を落としてくれた。
「ありがとうな」
お礼を言うと実に嬉しそうに笑う少女は年相応に見えた。
そんな中、駆けつけてきた兵士は俺を見るなり、訝し気な表情を浮かべ……。
「キミ」
声をかけてくる。
嫌な予感がする……そう思いつつここで逃げたら駄目だと考え。
「なんでしょうか?」
彼に言葉を返す。
すると……。
「ご両親は? 見た所子供二人の旅の様だが……ってそれも気になるが、今アイツにぶつかられただろう? 怪我は? ある様な今すぐ神聖魔法の使い手を……」
「ああ、怪我は大丈夫です……両親は一緒には旅をしていません、これでも一応お……私は冒険者学校は卒業しています」
あくまで不自然ではないように振る舞い、答える。
少なくともこの人は心配してくれているだけみたいだ、変に警戒する必要はなかったようだな。
「そうだったのか、すまない、人を見かけで判断してはいけないな……だが見た所随分と荷物が少ないな」
それは突っ込まれるよな……。
武器はおろか防具さえも身に付けてないんだからな俺達は……。
「その、ゴブリンに盗まれたんです……何とか無事ではありましたが」
俺はそう伝えると彼は驚きを隠す事は無かった。
「そうだったのか! それにしてもまだ幼いとはいえ可愛らしいお嬢さんが二人だ……酷い事はされなかったか?」
まぁ、そうなるよな。
「ええ……魔法があったので逃げる事は出来ました」
「そうか! 聞いておいてなんだけど安心したよ……そうだ、そういう事なら宿に泊まるお金もないだろう? 流石に援助をしてあげるという事は差別になってしまうから出来ないが、街に入ったら西の方へ行くんだそこに一件宿がある。ちょうど今住み込みの店員を探しているよ」
おお! これは運が良いな。
あの犯罪者に体当たりをされて良かったかもしれない。
「ありがとうございます!」
俺がそう言うと丁度俺達の番が来たのだろう。
「次……そこの魔族か混血の少女だ」
恐らくは俺の事だろう。
他に魔族と言ったら近くにファリスぐらいしかいないからな。
俺は兵士に頭を下げた後、検問の所へと行く。
すると――。
「どこかで見た様な……」
と言われ、思わずドキリとした。
まずい、話が全体に伝わってないだけでもしかしたら俺の俺達の情報が――と思った矢先。
「私が保障しよう、その子達は門をくぐらせて良い」
先程の兵士がそう伝えてくれた。
「いや、しかし……これを見てください」
ありがたいと思った矢先、別の門兵が紙を一枚兵士へと見せる。
まさか似顔絵とかだろうか? 心臓がばくばくとなり始めた。
「……だからなんだ?」
「ですが、これは都市からの!」
「確かに黒髪の少女とあるが、魔族や混血だけが黒髪と言う訳ではない! それに一緒に居るのはエルフではなく魔族だ……そしてその件は先日話があったろう?」
「そうですが……」
「この子達に悪意はない、そもそも領主さまの判断に貴様は逆らうつもりか? 通してやれ」
彼らの会話を聞きつつも俺は心臓が鳴りやまなかった。
どうやら黒髪の人間が触れわたっているみたいだ。
おまけにちらっと絵が見えたが確かに俺に似ていた。
だが、兵士が言っただけで他種族では珍しいというだけで黒髪に近いのが居ない訳ではない。
彼の勘違いのお蔭で助かった……そう思いながら俺は頭を下げファリスと共に門を潜り抜けるのだった。




