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243 乗合馬車

 キューラ達は道なき道を進んでいた。

 だが、それも街道を見つけることが出来取りあえず安堵をする。

 そんな彼らに幸運はまだ続いた。

 後ろから馬車が来たのだ……しかも御者は商人でもあったようでキューラ達を乗せてくれるというのだった。

 御者の好意に甘える事にした俺達は、馬車に乗り込んだ。

 いっぱいではあったが二人ぐらいなら座れそうだと隙間を見つけて座り込むと、ファリスは身を寄せてきた。

 流石に恥ずかしいな、と思い注意をしようとすると彼女はうとうととし始めてしまった。

 そう言えば、休憩と言ってもまともな休憩ではない。

 ましてや昨日は安全が確保できているかも分からない小屋だ。

 熟睡は出来なかったのだろう。


「お休み……」


 俺はそれだけを言うとファリスをそのまま寝かせてやることにした。

 そんな中、俺は妙に視線を感じそちらの方を向く……。

 そこにいたのは冒険者風の格好をした男性たちだ。

 彼らは剣や弓を持っていた。

 俺が見ている事に気が付くと慌てたように視線をずらす。

 嫌な予感がするな……。

 そんな事を考えつつ俺は毛布を取り出すとそれをファリスにかぶせてやる。


「うわぁ……」


 乗客の中の誰かが嫌そうな声を上げるが関係ない。

 寧ろこれしかないのだから勘弁してくれ。


「あ、あの……」


 そんな事を思っていると声をかけられて俺はそちらへと目を向ける。

 すると先ほどの冒険者の一人がいつの間にか近くに来ていた様だ。


「魔法使いですか?」


 そして、いきなり質問をしてきた。


「そうだけど、あんた誰だ……?」


 名も名乗らない奴に反応しない。

 なんて事はするつもりはないが……というかしてないが名前を知らない相手とはあまり話したくはないなとも思い尋ねてみる。

 彼は慌てたように苦笑いを浮かべ……。


「ああ、アッシュって言うんだ……」

「そうか、俺はキューラ……それで、なんの用だ?」


 今度は俺が訪ねると彼は苦笑いから普通の笑みへと切り替えた。


「ああ! どうかな? 俺達の仲間に――」

「断る」


 冒険者であれば嬉しい申し出だ。

 だが、俺は違う……あくまで勇者の従者であり、冒険者と違う目的を持っている。


「な、何で? 見た所貧乏のようだし――」

「これは全部盗まれたんだ……毛布は偶々見つけたボロ小屋の中からもらって来た」


 本当は盗まれた訳じゃなく取り上げられたんだけどな。

 まぁ、装備が無い事には変わりない。


「だったら尚更……」

「見た所魔法使いっぽいやつは居ないし、仲間に欲しいんだろうけど生憎俺達には目的がある。冒険者稼業は出来ないんだ」


 正直に伝えると彼はがっくりと項垂れて仲間の元へと向かっていく。

 それを仲間達もがっくりとした様子で迎え入れていた。

 まぁ、魔法使いが居るだけで冒険者としては助かるもんなぁ……とはいえ俺には俺の目的がある訳で、申し訳ないがやっぱり冒険者は無いな。

 だが、懐かしいな。

 俺は元々冒険者になろうとして学校に通い始めた。

 それがクリュエルという魔王の手下と出会い、呪いというか、女になってしまい勇者クリエと出会い旅立つ事となった。

 今にして思えば、クリュエル……今はファリスだが、この子いなければクリエに出会う事すらなかっただろう。

 何せクリエは女の子を仲間にしようとしていたしな。

 相手が男なら学年トップ、いや学園トップさえも断るほどだったのはびっくりしたが……。


「…………」


 だが、もし出会わなければ俺も‥…俺にも彼らの様な冒険者に‥‥・・あんな未来が待っていたのだろうか? 気にはなるが、今となってはなりたいとは思わない。

 その理由はやらなきゃいけない事があるからだろう。

 だからこそ羨ましいとも思わない。

 クリエがきっと俺達を待っていてくれると思うから……いや、彼女の事だ自分一人が犠牲になれば良い、なんて考えてるかもな。


 そんなこんな考えながら馬車に揺られる。

 彼ら以外は別に俺達の事を気にしているって事は無い様だ。

 暫く馬車の中で揺られていると馬車が停まり。


「街に着いたよ、さっ! 検問を受けて来てくれるかい?」


 馬車の中へと御者は告げる。

 俺は内心、不安を抱えながらファリスの肩を叩き。


「ファリス、起きろ……街に着いたみたいだぞ」


 と告げるが、彼女は余程疲れているのか、起きる気配はない。

 仕方がないか、そう思い彼女を背負い俺は馬車を降りる。


「うへぇ……」


 相変わらずと言うかなんというか、検問の列は長いな。


「ありがとう」


 俺は御者に感謝の言葉を告げ、検問の列の方へと歩き始めた。

 今は日があるが下手をしたら日暮れまでかかるんじゃないか? そう思いつつもさっそく並ぶと……。


「お嬢ちゃん達」

「ん?」


 先程の馬車の御者に呼ばれ俺はそちらへと顔を向ける。

 すると彼は――。


「色々大変だとは思う、だけどくじけるんじゃないぞ?」


 彼はそう言うと馬を走らせ、その場を去っていく……。

 街の中に入らないのだろうか? それとも馬車専用の検問でもあるのだろうか?

 疑問ではあったが、俺は去っていく彼に対し頭を下げた。

 本当に彼のお蔭で助かった……後は何もなく街に入れればいいんだけどな。

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