241 旅小屋での朝
まずい食事を終え、キューラ達は眠る事にした。
自分は幼いファリスを利用しているのではないか?
そう思うキューラだったが、彼女と話している内に一つの不安を覚えた。
それは彼女が自身を犠牲にする可能性だった。
確信に変わったそれをさせないために彼は彼女と話すのだった。
翌朝、俺は目を覚ますとあらかじめ汲んでおいた水で顔を洗う。
「さて、と……」
ファリスの方を見ると彼女はまだすやすやと寝息を立てている。
まだ寝かせてあげても問題はないそう判断した俺は地図を眺めはじめた。
「街は入れない可能性が高い……か」
俺はそう口にし、これからの事を考えるも……。
ふと気になった事がある。
本当に街に入れないのだろうか? 確かに俺は貴族達の敵として認識された。
挙句、勇者を救おうと考えている世界への反逆者でもある。
「だが、犯罪者でも普通に街に入るやつは居る……」
それに俺達の場合、クリエに奇跡を使わせないように気を使ってはいたが、元々使えない体にされてしまっている。
それは俺達の所為ではない。
闇奴隷商がやった事だ……。
とはいえ、それを聞き入れてもらえるとは到底思えない。
そもそも、俺達が神大陸、魔大陸そのどちらでも指名手配になっているのかすらも分からない。
だというのにあの街のお偉いさんは俺に仲間を探せと言って来た。
考えてみたら不自然だ。
街に入れないというだけで探すのは苦労する。
「…………罠の可能性がある……けど、行ってみる価値はあるか」
俺がそう呟いた時、ファリスはゆっくりと起き上がり、横に俺が居ない事に気が付くと辺りをキョロキョロと見始める。
そして、俺と目が合うとほっとしたような笑みを浮かべ、まだ眠そうな眼を擦りながらこちらへと歩いて来た。
「どこに、いくの……?」
「街だ……一番近い、街に行ってみよう、もしかしたら入れるかもしれない」
入れたからと言って出られる保証はどこにもない。
だが、仲間達を探すには情報が必要だ。
それに武器も防具も無い現状じゃ旅を続けるにも無理がある。
今回はたまたまこの小屋があったから良いが、今の俺達には野営道具は勿論、食料だってない。
「そこで少しお金を稼がないと駄目だな」
今持っているものはクリエからもらったペンダント、ファリスが取り戻してくれた本。
そして、身に着けている衣服……これだけだ。
金になりそうなものはないし、酒場かなにかで仕事をするしかないだろう。
うまくいけばそこで寝泊まり出来るかもしれない。
そう思えばますます街に入るというのは重要になってくる。
確かにこういった小屋にも商人は来るが、金がない事はすっかり忘れていたんだからな。
例え会えたとしても何も出来ない。
さて、まだもう一つ問題がある。
「何処に街があるか、だな」
運良くこの小屋は見つけた。
だが、此処には街道が無い。
それさえ見つかれば辿って行って街に着く可能性はあるが……。
「ファリス、此処から街までの道は分かるか?」
俺は此処が神大陸である事を口にしたファリスにダメもとで聞いてみる。
だが、予想通りファリスは首を横に振った。
だよな、俺もファリスも気が付いたらあの街に居たんだ。
それじゃ、分かるはずもない。
「なら、歩いて探すしかないか……」
この小屋に地図でもあれば良いんだが、残念ながらそんなものは無かった。
空を飛ぶ魔法があれば周りを確認することが出来るが、生憎そんな魔法は無いしあったとしても風の魔法だ。
混血である俺には使えない……かと言って無駄な体力を消費するのは避けたい。
なら、此処で生活するか? それじゃ意味が無い……振出しに戻るだけだ。
「取りあえず使えそうなもの、毛布と薪を持って行こう」
食料は現地で調達するしかない。
武器になりそうなものが欲しいがやっぱりそんなものは無かった。
「どのぐらいかかるの?」
「分からない、だけどこのままここで生活する訳にはいかないさ」
俺はファリスにそう言うと彼女の頭を撫で旅支度を始めた。
旅支度と言っても特にする事は無い。
持ってく物をまとめても日の高さは変わってないだろう。
「さて、行こうファリス」
俺はファリスの手を取り、そう口にした。
彼女は頷き、トコトコと俺の横を歩く。
最初はクリエとの二人旅だったのが、今度はファリスとの二人旅か……。
なんだか不思議な物だな。
俺はそう思いつつ、来た道を確認する。
「あっちから来たんだよな……なら……」
俺達が居る小屋から見えるのは特別変わった景色ではなかった。
とは言っても永遠に続いている訳ではないだろう……とにかく目印を見つけながら歩いて行くしかない。
そうすれば何かあってもここに戻って来れるはずだ。
「よし、あそこにある大きな森を目指そう」
俺は此処から少し高い位置にある遠くに見えた森を目指すことにした。
森ならば食料となる物もあるだろう。
同時に魔物の隠れ家になる可能性もあるから油断が出来ないが……そこは何処に行った同じ事だ。
そう思いつつ俺は真っ直ぐそちらへと歩き始めた。
「…………」
その横でファリスは一人ガッツポーズのような物を取る。
どうしたのだろうか? 疑問に思った俺は彼女の方へと目を向ける。
すると彼女は……。
「や、約束! まもるために……がんばるから、キューラお姉ちゃん!」
「……ああ」
約束……昨日の夜の事だな。
何とか彼女には俺の考えは伝わったみたいだし取りあえずは安心だな。
「頼むぞ、ファリス……俺にはお前の力が必要だ」
「うん!」
笑顔で頷く少女は嘗ての敵だ。
だが、今は頼もしい仲間だ……きっと、これならきっとクリエを助けられるはずだ。
俺もう迷わないし、憎しみで戦わないと誓おう……アウクからもらった切っ掛けを――魔拳を――使いこなすためにも……クリエをそしてこの子ファリスを助けるためにも!




