240 小屋での一夜
キューラとファリスは当てもなく進む。
そして、彼らは目の前に小屋があるのを見つけた。
どうやら旅小屋の様だ……。
取りあえず一晩を過ごす事にし準備を進めるのだった。
食事が林檎だけというのは実に寂しい。
ライムなら喜ぶんだろうけど、野営と言えばクリエの料理を食べていた俺にとっては味気ない物だ。
「……ぅぅ」
というか、この林檎はまずかった。
酸っぱいだけならまだしもちょっと苦みがあり、美味しくない。
ファリスも涙目で唸るぐらいだ。
「我慢しよう」
俺はそう言って林檎を齧る。
音だけは美味しそうに響くのだが、詐欺ではないかと思うほどまずいな。
食事を終えた俺達は干した布団をで眠る。
だが、布団は大きいのが一枚だ。
独り占めする訳にはいかない。
その上この小屋は寒い……隙間風が入り込み冷え込んだ。
「……っ」
俺は思わず身をブルりと震わせるとファリスは身体を摺り寄せてきた。
「大丈夫?」
幼い少女は心配そうに俺を見てきて……俺はその言葉に頷いた。
「大丈夫だ、俺よりもファリスは平気か?」
そして、ファリスに尋ねると彼女は頷き……。
「一人の時より寒くない」
と答えた。
そうか、そうだよな……。
この子は魔王に利用され、挙句の果てには呪いをかけられ……捨てられた。
その時この子は一人だった。
捨てられる原因を作ったのは俺だ……それは言い訳するつもりはないし事実だ。
だけど、それでも魔王のやったことは許せない。
子供とはいえ相手は女の子。
そりゃ嫁だのなんだのには憧れるだろう……なのにそれを利用して騙した奴だからな。
その上、魔王本人は出てこないというヘタレだ。
「……ほら身体ちょっと出てるぞ、毛布ちゃんとかぶれ」
俺は……俺は例え魔王になるとしてもそうはならない。
そう誓いながら俺はこちら側に何故か余っていた毛布をファリスの方へと送る。
するとファリスは首を振り、此方へと毛布を戻して来た。
「寒くない……」
「駄目だ、風邪引いたらどうする?」
俺は意地を張るファリスにそう言うと毛布を戻し、頭へと手を乗せる。
現状ファリスと俺しかいない。
そして、ファリスは十分すぎる戦力でもある……でも、まだ小さい子供だ。
旅の途中疲労する事もあるだろう、そんな現状で風邪でも引いたら命に係わるかもしれないからな。
ちゃんと俺が見てあげないと駄目だ。
そう思っていたらファリスは一瞬驚いたような表情を浮かべすぐに笑みを浮かべた。
「キューラお姉ちゃんはやっぱり、優しい……」
そうなのだろうか? 俺は心配しつつも誰かを殺した彼女を許せないそう思っている自分も居る。
だから利用しているのではないか? 自分でもそう思うが……。
「お姉ちゃん?」
「何でもない」
俺はそう思いつつも何でもないと答えた。
どう足掻いてもこの子を利用しているのは間違いない。
それに魔王の配下クリュエルは死んだ。
ここに居るのはファリスだ、魔王の配下とは関係ないんだ……そう頭で考えてること自体が利用している証拠なのかもしれない。
「さ、今日はしっかり休もう」
俺はそう言うと毛布がちゃんとかかっているかを確認し、出来る限り優しい声を出した。
すると、ファリスは安心したのか、それとも不安なのか身を寄せ……。
「うん」
と一言だけ口にする。
そして……暫くの沈黙の後。
「わたしはキューラお姉ちゃんの役に立つから、消した人への償いにはならないけど絶対……ゆうしゃを助けて見せるから」
とどこか不安そうな、しかし、意志を固めたようにも聞こえる声が聞こえた。
なるほどな、全部見透かされているって事だ。
そして、彼女は彼女なりに自分の罪をしっかりと分かっている。
なら、もう迷う必要はない……この子は自分の意志で罪と向き合おうとしている。
それに、俺だって彼女とは関係ないとは言っても命を奪ったんだ……こっちの勝手な都合でファリスだけを責める訳にはいかない。
元々それを口にするつもりはないが、態度でこの子は感じ取ってしまうのだろう。
「ファリス……」
俺が名前を呼ぶとピクリと身体を震わせたファリスは暫く固まっていたが、俺が何も言わない事を不安に思ったのだろう。
顔を上げてきた。
暗闇になれたとはいえ、辛うじて表情が分かる程度だ。
だから、分かった……分かってしまった……この子は泣いている。
「例えクリエを助けることが出来ても、ファリスが犠牲になったりしたら駄目だ……もし、そんな事を考えているのなら、俺は君を連れて行けない」
だが、これだけは言わなければならない。
大人だって思い詰めたら何をするか分からない。
だが、ファリスはまだ子供だ……その時の感情で動くかもしれない。
俺の為にと自分を犠牲にしてクリエを助ける……そんな様子が目に浮かんでしまい、俺は忠告をする。
「…………でも」
そして、それは確信に変わった。
理由は短い返事と表情が強張ったからだ。
「お前はクリュエルじゃない、ファリスだ……いいか? 俺はクリエが助かってもファリスが犠牲になるなら意味はないと思う」
そうだ、それじゃ意味がないんだ。
俺は口にしてようやく……そう思えた。
「だから、死ぬな、怪我も出来る限り避けろ……良いな? 俺は魔王じゃない! そうなるかもしれないが、今はまだ勇者の従者だ。そして、その勇者であるクリエは人が傷つくことを嫌うんだ……ファリスが俺を姉と呼びたいならそれには従ってもらう」
そして、言い切った後、ファリスの頭を撫でる。
「安心しろ、守ってやる、それにクリエだって絶対に助け出す」
俺はその夜、誓いを口にし……静かに意思を固めた。




