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237 街の実態

 本当は勇者が死ぬことを望んでいる。

 その事を告げたキューラは彼の答えを知る。

 手を組むことはできないそう言って彼は屋敷を去って行く……目に入ったのは何とも言えない街並み。

 そして人々の姿だった。

 転んだ子供にすら手を貸さない事に苛立ちを覚えた彼は子供の傷口を洗おうと井戸の桶へと手を伸ばす。 

 すると、兵士に止められてしまうのだった。

「その汚い――」

「待てファリス!!」


 俺は襲い掛からんとするファリスを止め、ここまで焦る理由について思い当たった。

 まさか……。


「その井戸、危ないのか?」


 子供を守るためだ多少感情的になっても仕方がない。

 まぁ、痛いしやり過ぎだとも思うが……。

 俺の質問に対し男は――。


「そんな訳ないだろう! 冷たく綺麗な水だ!」

「…………」


 返ってきた返答は予想しないもの。

 綺麗なら少しぐらい使っても良いだろうに……。


「なら、子供の傷口を洗ってやる位良いだろ?」


 俺は思った事をそのまま口にしてしまった。

 すると――。


「なに?」

「ぐぅ!? くっ…………っ!?」


 俺の腕を更に強く握り捻り上げる男。

 思わず呻き声を上げてしまった……。


「お前は今、自分が何を言ったのか分かっているのか!? この水は汲んで良い時間、量が決まっている!!」

「し、知るかよ……」


 そんな話初耳だ。

 すくなくとも俺はさっき起きたばっかりだ……そんな事を知るはずもない。


「知るかよ? 知るかよだと!? この街の平和を守ってやっている俺に向かってなんだその口のきき方は!! まだガキだ注意だけで済ましてやろうと思ったが……その身に思い知らせてやる!!」


 怒鳴り声をあげる男はそう言うと空いている片手で服へと手を伸ばす。

 恐らくは暴力を振るうか、それとも精神的にも追い詰めるかしようとしているのだろう……。


「……少しは役に立てよ? 俺の為に……」


 この街は今まで訪れた街の中で一番最低かもしれないな。


「ん?」


 そう思った直後、男の動きは止まり……俺の胸へと注目している。

 とはいえ、俺に胸は無いぞ? そう思っていたのだが、彼がニヤリと笑い、目を怪しく光らせ手を伸ばしてきたのは視線と同じ場所でそこにあるのは――。


「――っ!? ファリス!!」


 男の目的に気が付いた俺は咄嗟にファリスの名を呼ぶ。

 すると――。


「気安く触れるな――」


 感情の無い声と共に男の顔面は横にぶれ、男がこれを奪う前に手は離れて行った。


「何しやがる!!」


 男は殴られた頬を擦り、起き上がろうとしている。

 だが、そんな事はどうでもいい……こいつは今、クリエからもらったペンダントに触れようとした。

 いや、別に他人に触れられる位ならどうでもいい……けど、こいつは駄目だ。

 こいつは完全に目の色を変えてペンダントへと手を伸ばしていた。


「……お前こそ、何をしようとした?」


 俺がそう言うと、男はへらへらと笑いだし……。


「妹に守られて……それで強気か? 情けなくないのか?」


 そう言いながら剣へと手をかける男。

 こいつは正気か?

 そう思いつつ……。


「たかが水を少し汲むだけでそこまで騒ぐような事か? 怪我を洗うぐらい大した量じゃないだろ」

「……ふざけるな規則は規則だ! それに、お前が間違ってる理由としてさっきのガキは何処にいる?」

「…………は?」


 俺は男に言われ辺りを見回してみる。

 すると騒ぎを知り此方へと目を向ける人々はいるが、先程の少年は見つからない。


 何処に行ったのか困惑する俺に対し、大きな笑い声が聞こえた。


「あのガキの方が賢かったわけだ!」


 馬鹿にするような顔を浮かべた彼はそう言うとこちらへと向かって来た。

 そして、再び腕を伸ばし……。


「お前もガキだが、まぁ迷惑料としてそのペンダントと身体は貰っておいてやるよ」


 ああ……この街は本当に最低だな。

 現状俺は一応……男に襲われる女の子だ。

 だというのに、誰も助けに来ない……誰も助けようとしない。

 興味はあっても、動くことはできない。

 町の人には助けてもらった恩はある、だが……こいつらは今まであって来た俺の仲間達とは違う。

 彼らのように本当に心から誰かを助ける為に行動はしないんだ。


 だから、呪いだのなんだの理由を付けて助けなかった事を正当化しようとしているのかもしれない。

 そう思うと、自然と俺は笑ってしまった。


「あん?」


 滑稽だ。

 何が勇者を救うだ……何が転生者を探せだ……自分達でしようとしない事を……。

 この街を作った人の意志を継いでいるふりをして……ただただ、自己満足のためにしているだけじゃないのか?

 世界が本当に滅ぶかもしれない危険を持っている勇者。

 その事を知りつつも心のどこかではそれを否定しているのではなく、ただ単に誰かにすがって生きている。

 そしてこの街は認められていない街だ。

 だからこそ、貴族の支援も無く……水を少し使おうとしただけで騒ぐ。

 名もなき村……いや、キールとは大違いだ。


「お前こそ、迷惑料としてファリスの拳一発で済ませてやるよ……これ以上何もしないならな」


 俺はそう言うと、後ろへと振り返り、歩き始める。

 当然……。


「ファリス……行こう、この街に居る必要はない」


 そう告げる。

 するとファリスは俺の横に並び歩き始め――。


「ガキがふざけてるんじゃねぇ!!」


 怒鳴り声が聞こえた……。

 俺は振り返ると手を真っ直ぐに伸ばし……。


「グレイブ……」


 魔法を唱える。

 すると今回は形になった魔法は男の横すれすれを飛んでいき地面へと落ちた。


「次は外してやらない……大人してろ」


 そう脅すと、再び俺達は街を出る為に歩き始めた。

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