235 転生者
キューラ達は屋敷の主と名乗るゼスと出会う。
彼の話ではキューラと魔法陣の老人以外にも転生者が居る様だ。
そして、キューラ達が居るその場所はそのうちの一人が作った町だという……。
キューラは他の仲間の所在も問うが、どうやら今は詳しい事は分からない様だ。
しかし、クリエはどうやら敵に掴まってしまったとの事だった。
何故助けないのか? 問うキューラはある事に気が付くのだった……。
助けようと思う人々が稀……。
俺は信じがたいその言葉を納得してしまった。
何故なら、貴族達は皆クリエの……勇者の事を人だとは思っていない。
だが、クリード王は違った。
王という立場上、自らは動けないから俺を通してだがクリエを助けようとしてくれた。
王子はどうなのかは分からない。
だが……彼の言葉から人だと思っているだろう……残念ながら今はその真意は確かめることが出来ない。
「…………我々は心のどこかで勇者の犠牲を求めている。何故かはわからない……だが、それは逃れられない定めなのかもしれない」
「何を馬鹿な事を――!!」
思わず口にしてしまったその言葉。
だが……。
「……変えられないのか?」
彼の言う事は彼らにとっては真実だろう。
だが、それを変える事は出来ないのだろうか?
俺は訪ねてみる。
すると……。
「セイブを作った者はそのが定めから逃れていた……恐らくは転生者と言うのが鍵なのだろう、彼らを探せ、彼らなら――」
「でも、そのてんせーしゃって分りやすいの? 探すのは良いけどキューラお姉様の手を煩わせるのは…………ユルサナイ」
ファリスは最後の許さないという言葉を感情の無い声で口にする。
しかし、転生者か……。
「その転生者なら救えるって断言できるのか?」
俺は彼に尋ねてみる。
すると彼は頷き――。
「定めから逃れていた者、彼らは人を導く才がある者が多いのだろう、だからこそ、この街は生まれ……君達を助けに行けた」
「ゆうしゃ救えなかったくせに……」
「ファリス……少し口を慎め」
俺の目的を知るファリスはそれが出来なかった事に苛立ちを覚えているのか、それとも助けに来たのに結局どうなったのか分からないこの状況に苛立ちを覚えているのか……。
それは分からなかったが、どうやら目の前の人物はあまり好きではなさそうだ。
「それについては何も言えない、躊躇してしまったのは事実だ……」
「……なぁ、おかしくないか? 危険な所で人を助けるのに躊躇する……それは分かる、だけど……勇者という人間を犠牲にして何も思わないのか?」
俺はファリスを黙らせると彼に質問をした。
そして、言葉を続ける……。
「勇者の力は奇跡を起こすんじゃない、彼らの望みを叶える力だ……それなのに世界の崩壊を望まないなんて誰が決めた? それにアンタは転生者云々って言ってるけど、それに関係なく救おうと動いている人は居る」
それがきっとアウクだ。
彼は勇者を救えと言って来た……。
そして、俺に救うための力を与えてくれた。
とはいえ、俺がその力を使いこなすことが出来ないのは問題だけどな。
「……君は勇者の家族だけではなく、従者達の子孫が何処に居るか知っているか?」
「…………は?」
急に話が変わり、俺は思わず惚けた声を出す。
そして、少し考えた後……。
「いや、領地を貰って幸せに暮らしているんじゃないか?」
俺がそう答えると彼は頷き。
「そうだ、だが……それはほんの一部だ。従者となった人間はその理から外れる。つまり人々に牙をむいた事は何度もある……その度に処刑されて来た……そう、全てを抹消されてな」
「……は?」
だってチェルは……従者の子孫。
トゥスさんだって……そうだ。
なのに……処刑? どういう……。
「その様子では知らなかったみたいだな、勿論そうする為に徐々に殺す……毒を使って知らず知らずのうちに弱っていくように仕向けて……従者が理から外れても、他の者……その家族は感化されない。だからこそ……世界は秘密裏に彼らだけを排除していた」
ちょっと待て……それじゃ……。
「犠牲者は勇者だけじゃないのか?」
俺がそう言うと彼は頷く。
なるほどな……勇者の死んだ後、誰も世界には向かわなかった理由はそれか?
だが、そうだとしてもやっぱり彼の話にはおかしい所がある。
「だが、今は状況が違う」
そんな事を考えていると彼はそんな事を口にした。
「……どういうこと?」
答えを言わない事にイライラとしはじめた様子のファリス。
それには俺も同意見だ。
この世界の真実……なのかは分からないが、俺達はこいつの目的が分からない。
「何人かの従者達は反逆の意志を隠し準備をしてきた……そして、君達がその意志を見せた」
「………………」
ゼスという男は俺を見てゆっくりと口を動かす。
「君はそうなのか? もしそうじゃないとしても仲間を探すんだ……信頼できる転生者を」
ああ、なるほど……こいつは、いや、こいつらは――。
「お前達は勇者を助けないのか?」
「出来ていたならここに彼女は居る」
そういう事なんだ。
つまり、他人任せであるのは貴族と同じ。
自分達に出来ないと思い込んでいる訳だ……もし、本当に呪いがあり、それの干渉を受けないのが転生者だとしても。
皆はそうじゃなかった……トゥスさん、ファリス、カインにチェル……イリスにヘレン。
そうだ……皆は力を貸してくれた。
「転生者を探すのは容易ではない、だが……何かしら変な事があるはずだ。この世界にはない言葉や知識……彼らの力があれば――」
「勝手に決めるな――」
俺は思わずそう口にした。
するとゼスは驚いた表情を浮かべている。
「俺の仲間は俺が決める……お前の言い方だとどこかに居る仲間達は無視しろって言われてるように思えるけどな」
「………………」
そもそも、どうやって転生者を探す?
こいつは言葉や知識で判断しろと言った……つまり、判別方法は自分でも分からないって事だ。
「勇者を救うには転生者が必要だ。呪いに逆らっているようだが、確実ではないだろう」
「今までだって皆に助けてもらって来たんだ……仮に呪いがあるとしても、仲間を見捨てる理由にはならない」
俺はそう言うと話が馬鹿らしくなってきた。
転生者を探すのも、逸れた仲間を探すのも大変だろう。
だが、それでも俺が選ぶのは――。
「ファリス行くぞ……皆を探す」
――仲間を探し出すという選択だった。




