234 目覚めた街
自身に起きた変化、それに戸惑うキューラだったがすぐに今自分達が何処にいるのかを考える。
唯一一緒に居るファリスに状況を確認するも彼女も分からないという……。
一体なにが怒っているのだろうか?
キューラ達が考える中部屋の中にノックの音が響き渡るのだった。
俺が訪ねるとすぐにノックをした者は答えてくれた。
「この屋敷の主ゼス・フェルタス……と言えば良いかな?」
まぁ、さっき呼びに行ったんだしそうだろうな。
俺は扉へと近づき開けてみる。
すると、そこには優しそうな貴族? なのだろうか? 服装は目立っていない。
装飾も何も無い、寧ろ俺達と同じような服を着た男性が立っていた。
「……目が覚めたようだね」
彼はそう言うと俺達二人を見る。
「……ありがとうございます」
俺は礼儀として感謝の言葉を伝える。
だが、いくつか気になる事があった。
「ここは何処ですか? それに、俺達は一体なにが? 他にも仲間がいたはずだ! そいつらは――!?」
「待ってくれ、一度に答える事は出来ない……順を追って話そう」
彼はもっともな意見を言うと机の方へと指を向ける。
そこにある椅子に座ろうという意味だろう。
「ファリス……」
俺は警戒したままのファリスの名を呼び椅子の方へと顎で案内する。
「…………」
するとファリスは男を睨んだまま、椅子の方へと向かって行き俺も彼女を追うように椅子へと座った。
「まず、此処は地図に無い街だ……名前はセイブ……その昔、てんせいしゃと言う者が集めた人々の街だ」
「……てんせーしゃ?」
ファリスはその言葉気になったのだろう。
「転生……つまり、誰かの生まれ変わりと言う事か?」
俺は本来の意味で尋ねてみる。
すると彼は首を振り……。
「いや、そうじゃないんだ……伝承でしか答えられないが、どうやら元々はこの世界じゃない何処かに生まれたものらしい……そこで死にここに来たと……本当かどうかは分からない」
なるほど、つまり俺と同じって事か……。
あの魔法陣の爺さんも転生者だったみたいだし、やっぱり他にもいる訳だな……。
「それで?」
「彼らは生まれながらにして知識を持っていた……訳ではなく成長と共に記憶を取り戻したらしい……そこである事が起きた」
彼は語り始める。
その者はある人の妹として転生した。
そのある人とは……勇者、勇者とは生まれながらにして勇者という訳じゃないみたいだ。
ある日突然髪の色と瞳の色が変わる。
そして、それは10になる前に起きる変化だと言う……そして当然――。
「奇跡の力を得た……」
「ああ、そういう事だ……だが、同時に家族にはその奇跡がどういう物か告げられない。だが、その勇者は禁忌を破り妹に告げた自身に確実な死が待っている事を……」
「そして、貴族でもなく王族でもなく……この世界の住人でもなかった妹は勇者を助けようとしたって事か?」
俺がそう尋ねると彼は首を振った。
違うのか? どういう事だ?
「そうしたい、そう願っても出来なかったんだ。知識はあれど彼女には力はなかった」
ああ、そういう事か……。
つまり転生者は万能じゃないって事だな。
これは俺自身も同じ事だ……確かに俺は恵まれている方だ「魔法の才能」があり「以前の知識」が使える。
年相応の考え方ではないだろう……。
「だからこそ、彼女は兄が奇跡の力で亡くなった事を知り……嘆き苦しみ……救うという意味が込められた街を作った訳だ。勇者の家族……その血を引くものを集めて……」
「………………せいぶが救う? でもそんな言葉知らない」
ファリスがすぐさま彼に告げる。
確かにこの世界でセイブって言葉はない。
だが、この街にはその意味が込められている……なるほど、つまり俺と同じ地球からの転生者って事だろうか?
まぁ、そこはどうでもいい。
「街の事は分かった……続きは」
「ああ、君達は処刑寸前だった……その話聞き私達はこの街から監獄の街へと向かったギリギリだったよ。だが、君達二人を助ける事は叶った。だが――」
間に合わなかった……?
「そんな! じゃぁ!!」
「落ち着いてくれ、転移の魔法が込められた道具で君の仲間は助ける事は出来ている……問題は……」
なんだ助かっているのか、なら良いが……気になるのは……。
「勇者だけは助けられなかった……助けようとしたのだが、彼女は彼らに掴まってしまった」
「――――は?」
意味が分からなかった。
何故? 俺達を助けられクリエが駄目だったのか……。
「真っ先に助けるべきじゃないのか!? アイツは――」
そこまで口にして俺は――呪い染みたこの世界の事を思い出す。
王や貴族王はクリエを道具として扱い。
死して世界を救うのが当然と思っている世界――。
「まさか――まさか――助けることが出来ないのか?」
これまでも貴族の中におかしいと気が付いた者は居たはずだ。
だが、行動に移している者は少ない。
ましてや行動に移した者は処罰を受ける事になる。
そう考えると……今の暮らしを捨てるというのは難しいだろう。
だが、本当にそれだけで動けないのか? もしかして本当に呪いがあるのではないか?
そう思った俺は彼へと目を向ける。
「私達は稀なんだ……だが、躊躇した……人の命が掛かっているという状況で……ただ、助けようとしている相手が勇者というだけで……」
俺はその日、この世界にかけられた呪い……いや、この世界の人間……その事実を知った。




