233 目覚め
伏兵を探すキューラ。
彼の目には怪しい樽が映った。
しかし、その樽の裏にはなにも潜んではいなかった。
寧ろ最初から伏兵など存在せず堂々と彼らは現れ……。
キューラは敗北を感じるのだった。
「キューラちゃん!!」
クリエとファリスの声が響き渡る。
それと同時に氷の矢は俺達へと当たる――筈だった。
「――――――!!」
だが、そこから俺が覚えているのは……。
氷など一瞬で消し飛ばす炎の魔法が、空に浮かび……それは俺達以外に降り注いでいったことだ。
すぐに誰がやったのかを探すが、何処にもいない。
そうだ! 皆……皆は無事か!?
そう思い仲間達の方へと目を向けると視界の端には怒り狂った貴族たちは剣を引き抜き、彼らへと向かっている。
勿論、俺の方にも――迫って来ていた。
何が起こっているのか分からない。
理解しようと必死になっていると、今度は突風が吹き荒れ――。
「っ!?」
俺は――その後の事を一切覚えていない。
次に目を覚ました場所。
そこには大きなベッドがあった。
ここは何処だろうか? それともあの脱出劇は夢だったのだろうか?
そんな事を考えていると横に誰かが眠っている事に気が付いた。
クリエか……全く、人の寝ている所に……。
「……ん?」
だが、そこにいたのは愛らしい寝顔の少女。
彼女は……。
「ファリス?」
何故ここにファリスが居る?
疑問に思い辺りを見回してみる。
そこは俺が居た牢屋の部屋ではない。
一体ここは……? 窓の外を見てみるが知らない景色だ。
だが、確実に言えることがある……ここは普通の街なのだと……。
「さっきまで、いや……さっき?」
俺が次に気が付いた事は腕の傷だ。
元通りの肌色になっている。
一体なにが起きた? 一体なにがあった?
クリエは? クリエは……どこなんだ?
それに――。
「ライム? ライム――!!」
使い魔であるライムが傍にいない。
名を呼んでもここに来ない……まさか、ライムは死んだ? そんな……だって氷の魔法は受けてないはずだ!
俺はベッドの下とかを探すが何処にもライムの姿は見つからなかった。
クリエもライムも居ない、居るのは俺とファリスだけ……? 疑問と不安を感じつつ部屋の中を歩き回る。
すると――こんこんというノックの音が響き渡った。
「……」
家の住人だろうか? 答えるか迷っていると――。
「物音が聞こえましたので、参りました。お目覚めになられましたでしょうか?」
丁寧な言葉遣いの男性の声が聞こえる。
彼は誰だ? 聞いたことの無い声だ。
俺は警戒し答えずにいると……もう一度ノックの音が聞こえた。
そして続く言葉は――。
「何かあったのでしょうか?」
本当に心配しているような声だ。
そう思った俺は……。
「ごめん、何でもない……ただ、此処は何処なんだ?」
扉越しにそう答える。
すると、外に居るであろう男性は――。
「ああ、よかった……お目覚めになられたんですね。此処は何処か……でしたね。今旦那様を呼んでまいります」
そう言って男性の足音は遠のいて行く……旦那様とやらを呼びに行ったのだろう。
さて……。
今の会話から分かった事がある。
見回してみると、その考えは正しいであろう事も分かった。
ここは貴族の屋敷……そして、俺達はその貴族に捕まっている。
何故拘束をされていないのかは分からない。
だが、そうする必要もないという事なのかもしれない。
「状況は最悪だな」
あの時何が起きたのか分からない。
今、分かっているのはファリスが居て、此処が貴族の家という事だけだ。
クリエは? トゥスさんは? 他の皆やライム。
何処にいる? そもそも無事なのだろうか?
そう思いつつ、立てかけてある鏡を見た。
「え?」
そこで気が付いたのは俺の右目だ。
「ど、どういう……」
視界がぼやけたりとかはしていなかった。
だから気が付かなかった。
だけど、その瞳の色が少し変わっている。
色が薄くなっているのか? なんでまた……そんな変な変化が起きているのだろうか?
疑問に思いつつ鏡に近づく……左目もまた少し色が鮮やかになっている気がする。
「なん、なんだ……?」
体調に変化がある訳じゃない。
だが、そんな事よりも今俺に起きている不気味な変化。
それに俺は……畏怖を抱かざるを得ない。
「ファリス、ファリス!!」
彼女なら何か知っているかもしれない。
そう思い、急いで彼女の元へと寄り体を揺する。
すると……呻き声の様な声を出しながら少女は起き上がり……。
「キューラ……お姉様……?」
何処か怪しい言葉を吐く。
だが、そんな事はどうでもいい。
「俺の目が変なんだ! 何か知っている事は無いか?」
彼女に尋ねると眠そうに目を擦り、欠伸を一つする。
そして、俺の目を覗き込むのだが……。
「変な所、ない……よ?」
と言われ、俺はそんな馬鹿なと立て鏡を見る。
すると、そこに映った俺は……。
「嘘だろ……?」
以前と全く変わりの無い姿だった。




