22 キューラの夢
のぼせて倒れてしまったキューラは勇者クリエに介抱されていた。
そんな中、彼はどうやら夢を見ている様で……?
「うへ、うへへ…………」
ん? なんだ……? なんか変な声が聞こえる。
俺はどうしたんだっけ? そうだ、風呂に入って……そうだ、俺は急に頭が……
のぼせたのか?
そう思いつつも俺の意識は再び落ちて行き――
「…………」
次に意識がはっきりすると、そこは薄暗い洞窟の中だった。
ここは何処だ? 夢の中か? そう思いながら辺りを見回すと大きな石が見えた……
目を凝らしつつその石へと向かうとなにやら文字が彫ってある。
「これは墓、か? 掠れて読めないな……それにしても夢にしてはやけリアルだな。まるで本当にある――っ!?」
何かが動く音と気配に俺は咄嗟に身構える。
すると、墓の陰から大きな男性が姿を見せ――
「なっ!?」
その姿を見て俺は言葉を失った……
短髪でぼさぼさの黒い髪、そして両目が澄んだ紅色……純血の魔族……
なんで夢に!? もしかしてこれって俺が想像する魔王か?
そんな疑問を感じつつ、一歩後ろへと足を動かそうとして俺はその足を止めた。
「…………違う?」
これは夢だ確かに夢だ……
だけど、こいつは俺の想像から生まれた魔王なんかじゃない、なら別の誰か、一体誰だって言うんだ?
「………………」
「お前は誰なんだ?」
その瞳は何処か優しさと悲しみを含んでいて、俺が声を掛けると彼はその視線を墓へと向ける……
「……お前の墓か?」
「………………」
その問いには答えずに彼は再び俺へと目を向け――
「――――――」
「は? なんだって?」
夢だからだろう、その声は聞こえず……ゆっくりとその世界は白くなっていく――
「お、おい?」
なんだこの夢……一体なんなんだ?
「――――――」
最後の最後までその魔族は俺に何かを伝えようとしているのだけが分かり――
「っ!!」
俺は目を覚ます。
「……なんだったんだ…………今の夢……」
思わず呟くほど不思議な体験だった。
ゆっくりと身体を起こすと俺はどうやらベッドの上に居て、頭からなにやら落ちてきた……
「布巾?」
それを手に取り、疑問を浮かべていると近くにクリエが居ない事に気が付き部屋の中を見回す。
すると彼女はすぐに見つかり――
「ク、クリエ……一体なにをしてるんだ?」
「……な、何も! 何もしてません……断じて誓って何もしてません」
何かに耐える様に震えながら壁へと頭を押し付けているクリエを見つけ俺は苦笑いを浮かべた。
全く何をしてるんだ……百合以外にも変な特徴があるのかクリエには……
「まさか、ずっとそうしてたのか?」
俺はすっかり明るくなっている外へと目を向けクリエに問う。
「……はい、殆ど……」
「風呂で倒れた俺が言うのもなんだけど、昨日は疲れてるだろ……謁見は明日にしてもらって今日は休め」
「そ、そうはいきません、ちゃんと行かないと!」
いや、そうは言ってもだな……
振り向いたクリエは疲れ切った表情を浮かべており、まさか一晩中悩んでたのか?
ぶっ倒れて変な夢を見ている場合じゃなかったな……
「駄目だ、俺達は生き残ったまま魔王を倒すんだ。仲間を集めるにも情報を集めるにも王に謁見するのにも体が資本だちゃんと休んでおけ、何か理由が必要なら初めての旅で疲れが出たって言えば良い」
「そ、そうは言っても……」
「クリエに倒れられたら困る」
ましてや、それで魔王討伐が無理な物とされてクリエに命を使うように要求させる訳には行かない。
絶対に奇跡なんて言う呪いは使わせない……使わせちゃいけないんだからな。
「ほら、どうせ何も食べてないんだろ? 食事は持ってくる、だから食べたら寝ろ良いな?」
まるで子供に言い聞かせるようにそう言うとクリエはしぶしぶと言った感じで頷き――
「はい……分かりました」
疲れ切っている、その表情に笑みを浮かべた。
「うへへ……キューラちゃんは良い人ですね」
「その良い人ってのは止めてくれ……」
「え? 何でですか? 優しくて気遣いをしてくれたのに……悪い人なんですか?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
昔、好きな女の子にその一言で振られたんだよ……良い人だから付き合えないって……
後々その理由が俺の耳に伝わり良い人だからの意味が都合の良い人だったと知った時は――ああ、思い出したくもない。
「そ、その……ごめんなさ……」
「いや、クリエが謝る必要はないって」
悲しそうな表情を浮かべたクリエに焦ってそう言うと彼女はほっとした様で――
「昔何があったかは知りませんが、私はキューラちゃんを裏切らないですよ」
「あ、ああ」
そう言われると思わず心臓が早くなるんだが……
「じゃ、じゃぁ約束だ。昨日も言ってしつこいと思うだろうが奇跡は絶対に使うな絶対だ……」
俺がそう言うと彼女は迷った素振りを見せる。
「分かりました絶対使いません……」
「ああ、それで良い……もし使ったら俺は従者を辞めるからな」
彼女の答えに満足し、俺は笑いつつそう言うとクリエは焦ったようで――
「絶対に使いません!」
「い、いや……そう声を張らなくても」
ま、まぁ使わないって約束してくれたんだしな。
ここまで強く言って使うって事は無いよな?