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俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
10章 勇者《魔王》として
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227 少女の策

 キューラが目を覚ますと其処は見知らぬ部屋だった。 

 鏡には普段の自分の姿はなく、繰り返される死に彼は魔拳を使ったものの末路を見ているのだと悟る。

 そして、再びキューラとして目を覚ますと……。

 そこは普通の部屋に見えたが、牢獄だった。

 俺の問いに何も答えない少女。

 いや、待てよ、俺は最後に何かを見たはずだ……そう、あれは――。


「どういう意味だ!? イリス!! なんでヘレンがあんな所に!!」


 俺は声を上げ、彼女の名前を呼ぶ……すると……。


「どういう意味も何も……皆は捕まったんだよ?」

「……………は?」


 意味が理解できず俺は固まってしまった。

 じゃぁなんでイリスは外に居るんだ?


「本当に魔族も人間も馬鹿ばかり……金金金、そんなのがなんの役に立つんだろう? って思ってたけど私はお金になるって……技術を売ったの」


 あの清楚なエルフは何処に行ったのだろうか?

 その言葉しか思い浮かばなかった。

 一体なにが起きてるのか俺には……。


「なぁ、イリス……何を言ってるんだ?」


 イリスが技術を売った?

 つまり、俺達は彼女に見捨てられたのだろう?


「私は精霊石を直す為に雇われた……皆は捕まったの……」

「……イリス!? 何を言ってるんだ! 俺達を売ったのか!?」


 俺がそう話す間も窓の外ではヘレンが売りに掛けられている。

 元貴族で可愛らしいあの見た目ではすぐに買い手が見つかってしまうだろう……。


「………………」

「どうなんだ!!」


 俺は黙り込むイリスに尋ねる。

 すると……。


「焦らないで……私は、技術を売った……だから、外に居る……」

「外に……居る……」


 まさか、この子……。

 いや、そのまさかか? 俺達が捕まると予想として自分だけは外に居られるように考えた。

 彼女は自分を売り込むための技術がある。

 実績もある……なら、貴族達なら喉から手が出るほど欲しいものだろう。

 これが彼女の演技だというのはあり得るが……彼女は俺達を騙すような子だろうか?

 我ながらちょろいとは思うが……。


「トゥスさんは?」

「分からない……」


 トゥスさんの事だ何処からか様子を窺っているに違いない。

 だが、俺はもう動けない。

 魔力痛でここまで来るのもやっとだった。


「そうか……」


 完全に詰んだ。

 つまりそう言う事だ……逃げ出しても戦うことが出来ないんだからな。

 見れば装備も全部なくなってる。

 きっとライムは何処かに隠れててくれたおかげで離ればなれにならなかったんだろう……。

 だが、脱出の手段はあっても足が無い以上何も出来ない。

 結局はまた戻る羽目になるだけだ。


「……かといって諦める事は出来ないか」


 そう思いつつ俺はクリエの方へを目を向ける。

 ドアの向こうからは小声で――。


「今、鍵を見つけてくるから……」

「まて、それじゃイリスが危険だ」


 彼女はか弱いエルフだ。

 たった一人で行動するのには限度があるし、今はまだ無事でも気が疲れればあっという間に奴隷だろう。

 だが、俺だって大人しく捕まっているなんて事はしたくない。


「何か手はないか?」


 俺は辺りを見回し水を汲んだ樽がある事に気が付いた。

 恐らくは飲み水じゃないだろう……。

 その隣には壺、汚物を処理する物だろう。

 窓の外には手を上げ何かを叫ぶ男……ヘレンに残された時間は少ない。

 窓は鉄格子があり魔法が使えないこの状況じゃ何もできない。

 それどころか……ん? 待てよ広場には大きな池がある……池……。


「――そうか!! イリス!!」

「な、なに?」


 怯えた声で俺の声に反応したイリス。

 彼女はこのままここに置いて行っても貴族たちは害を与えないだろう。

 だが、彼女はきっと俺達を残し一人外に出ていた事を後悔する。

 その上、元々俺達と行動していた事はばれているはずだ。

 なら、俺達が逃げ出したのならば彼女にその罪がかぶせられる可能性だってある。

 彼女がちゃんと生活できるように手伝うなら……ちゃんと助けてやらないとな。


「逃げるぞ!! 広場に行ってくれ俺達もすぐに行く!!」


 俺はそう叫ぶとライムに目を向け――。


「ライム!! 水を吸って大きくなれ! 窓割って広場の池も飲んでくれ!!」


 問題は広場に何人の混血や魔族が居るかだ。

 だが、そんな事を気にしていられない。

 脱出の手は他にはないんだ!! 今の俺は魔法で対処は出来ないだろう、それにイリスが戦えるとは思えない。

 だが、ヘレンは魔法が使えるはずだ。

 それに、他にも奴隷は居る……幾ら正規の奴隷とは言っても全員が全員納得している訳じゃない彼女達の手を借りれれば……。


「逃げるの? でも……私……」

「何してるんだ! そんな所にボヤっとしてるとおいて行くぞ! 早く広場に行け!!」


 俺はイリスに怒鳴ると大きくなったライムへと目を向け、ライムは命令通り窓に向かい音を立てて窓を割り、鉄格子を抜けた。

 そして、広場に落ちていく……。

 同時に聞こえてきた悲鳴……そりゃそうだろう空からスライムが落ちてきたら俺だって叫び声をあげる。

 RPGじゃ雑魚と分類されても実際には何でも溶かす上、氷の魔法以外に対処が無い魔物なんだ。

 最弱ではなくむしろドラゴンに匹敵する魔物だ。

 その上、ライムは頭が良い……強く賢い魔物なんて最悪の相手だ。


 窓の外を見るとライムは池の水を飲み、どんどんと膨らんでいく。

 イリスは驚いた様子だったがすぐにこっちを向き、俺の意図に気が付いたのだろう……何やら大きく口を開けて叫んでいる。

 だが、それは悲鳴の所為で良く聞こえなかった。


「けど……なんて言ってるかは想像が出来るな」


 俺はそう呟くとクリエの方へと目をむける。

 この騒ぎの所為で気が付いたのだろう彼女はゆっくりと顔を上げ……。


「キューラちゃん?」


 彼女は今の状況知っているのだろう不安そうな顔で俺を見る。


「クリエ、逃げるぞ? 悪いけど俺の身体を支えてくれ……」


 これで準備は整った……後はこの牢屋から逃げるだけだ!

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