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俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
10章 勇者《魔王》として
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224 怒りを力に戦う者

 クリエを守るため。

 不利な状況で立ちあがったキューラは戦う意志を見せた。

 そして、彼の得意である魔法。

 それを唱えると相手は驚いたような表情を浮かべ慌てたのだ。

 どうやらレムスは何故か無詠唱魔法の事を主人に伝えていなかった様だ……。

 彼は当然怒り、レムスを殴り飛ばした。

 キューラはそれに対し……レムスは例え偽っていたとしても仲間だったと傷つけられた事に怒りを表すのだった……。

 轟々と燃える炎。

 それを見てロッシュ達は一歩後ろへと下がった。

 俺は、焼ける感覚を感じつつも一歩また一歩と前へと進む。


「なんなんだ、お前……」

「そんな魔法……見た事も聞いた事も……ない、です」


 答えてやる義理は無い。

 この魔法は俺への負担が大きいんだ……待ってやる必要もない!


「うぉぉぉぉぉおぉぉおおおおおおお!!」


 床を蹴り、ロッシュへと接近する。

 相手は俺よりも強いはず。

 その事は十分に理解していた。


「このガキが!!」


 剣を構え、怒鳴り声をあげる。

 睨まれただけで腰を抜かしてしまったことが頭に過ぎるが……。

 今はやるべき事があるからだろうか、俺の脚は止まる事は無く……力強く踏み込みを入れ、拳を振るう。

 体術の基本、体当たりをするように体重をかけ放つ!!


「このぉぉぉぉ!!」


 ロッシュは素手の俺に対し大剣を振るう……しかし……。

 何かが焼ける音、そしてその後に金属が落ちる音が鳴り響く。


「な!? こいつ……化け物か!?」


 何が起きたのかその時俺は全く分からなかった。

 だが、ロッシュの動きは止まり、対し俺の拳はまだ振り切られていない。


「あったれぇぇぇぇぇぇぇええええ!!」


 俺の叫びは純粋な願いでもあった。

 その願いは通じたのだろうか……俺の拳はロッシュの腹部へと見事に命中した。

 しかし、相手は鎧を身に着けている。

 これじゃ、大してダメージにならない。

 そう思っていた。


「うわぁぁぁ!?」


 だが……鎧へと当たる衝撃を感じると同時に俺の腕に纏っていた炎は拳へ集中し轟音と共にロッシュを吹き飛ばし、俺も後方へと吹き飛んでしまった。

 一体なにが起きた? そう思いつつ何とか身を起こすと……。


「……ひっ!?」


 俺の顔と吹き飛んだロッシュを交互に見てガチガチを振るえるカミアの姿が目に映る。

 一体どうしたんだ? 何とか立ち上がった俺はその理由が分かった。

 ロッシュはその顔を苦痛に歪め動こうとしない。

 鎧は溶け、腹部は露わになっていて火傷をしている。

 対し、俺の腕は……。


「……つ、使いこなせたのか?」


 思ったより火傷をしていない、何故そう思うか? 痛みが無いんだ。

 確かに焼け爛れている場所はあるが……以前より遥かに少ない様に見える。

 代わりに右目が完全に見えない……その所為かふらつく……。


「う、嘘よ……あの男が簡単に?」


 カミアは怯えるように頭を抱え俺を見る。

 その時だ……。


「ぅぅ……ぅ?」


 ヘレンの声が聞こえ、目を覚ました様だ。

 彼女は頭を抱え、辺りを見回す。

 そして……。


「カミア!! …………ロッシュ?」


 二人の姿を見て俺の方へと目を向ける。


「……キューラ、その目……一体? それにこの状況……まさか……ロッシュを!!」

「………………」


 彼女はロッシュを信じていた、言い訳は出来ない。

 俺は沈黙と言う答えを返すしかなく……。


「ロッシュ? あははははあは……ロッシュですって? そんな奴とっくに死んでいるわ……そこに居るのはただの奴隷商名前は……ビルと言う男……」

「……カミア?」


 だが、名前は関係ない……彼女にとってそのビルって男はロッシュだった。

 例え騙されていたとはいえ、彼女はその事実を知らないのかもしれないのだから……。

 俺は恨まれて当然だ。


「……作戦は完璧だった……ビルを潜り込ませてヘレンを騙した……勇者だって捕まえた……なのになぜです……!? 勇者の仲間に化け物が居るなんて聞いていませんわ!!」

「だま……され……」


 パニックゆえだろうカミアは叫び頭を搔き乱す。

 その声を聞き、ヘレンは呆然としていた……。


「そう! 騙せていたんです! なのに、この化け物が!!」


 カミアの方は俺へと目を向け再び怯え始めると……。


「貴女! 貴女はなんなんですか!? そんな魔法見た事も聞いた事もない! 化け物め!! 勇者共々()()()()()()()()()のですわ!!」


 狂ったように叫ぶ……。

 俺は俺の事を化け物と呼ばれようともなんとも思わなかった。

 だが……許せないのは……。


「お前は……お前らは――!!」

「ひっ!?」


 たった一言……だが、それは人に対して口にしたらいけない言葉だ。

 誰もが言われてしまえば傷ついてしまう言葉……。

 本当にそれを実行してしまう人もいる言葉……。

 こいつは……今、その言葉を口にした。


「お前らは勇者を――――!! 人を何だと思っていやがるんだ!!」


 魔法はまだ解けていなかったのだろうか? 灼熱が再び俺の両腕を纏う。

 目の前の獲物はロッシュと違い何も出来ないか弱い存在だ。

 それは、すぐに分かった……。

 何故なら物言わぬ人形達を寄せ集め自分を守る様に壁を作った。


「嫌、嫌! 嫌ぁぁぁぁあああ!! 死にたくないですわ! 死ぬのは嫌ですわ!!」


 そして、狂った女は叫ぶ……。

 滑稽だ……こいつは同じ言葉を思い浮かべていた人達を……。


「お前がその言葉を思い、口にしていた罪も無い人達を殺したんだろうが!!」


 こいつは生かしておいてはいけない。

 俺はそう判断し床を蹴ろうとした。


「――駄目っ!!」


 そして、ヘレンの言葉が聞こえたが俺は無視をしてゴーレムたちを薙ぎ払う……。

 先程と同じように土塊の人形は吹き飛び、自らを守る術もない下種がそこには居た。


「終わりだ……お前のやってきた事は、な……」


 そして拳を振り下ろそうとした時――。


『カァ!!』

「――っ!?」


 黒く大きな翼が俺の前へと現れ、慌てて俺は後ろへと下がる。


「レムス……!?」


 こんな奴を守るだなんて本当に裏切られてしまったのだろうか?

 いや、元々レムスは一時的な仲間だったんだ……そう考える俺の耳に聞こえてきたのは……。


「駄目…………す……キュー……ちゃ……」


 うなされるクリエの声だった。

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