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俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
10章 勇者《魔王》として
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222 捕らわれの勇者

 クリエとヘレンの二人が屋敷から消えた。

 ロッシュと言う名を偽った老人が連れて行ったという事だが、何処にいるのだろうか?

 キューラは彼女達を探し街の中を走り回る。

 するとレムスが現れ、彼を導いてくれたのだった。

 だが、相手にはばれており……。

 どうやって俺を騙した?

 その疑問の答えにはなんとなくだが気が付いていたのかもしれない。

 ただ、信じたくはない、そう感じていただけなのかもしれない……。


『カァ! カァ!!』


 その声は……まるで俺を馬鹿にするかのようで、大きな羽ばたきの音と共にロッシュの腕へと舞い降りる。


「……レム……ス」


 使い魔レムス……大烏の魔物。

 あの時、手懐けたはずの魔物は……俺を見て首を傾げつつ再びカァ! と鳴き始めた。


「違うな、こいつの名はビルと言ってな……ワシの使い魔だ」


 ロッシュはそう言うと大笑いし……レムス、いやビルも笑う様に鳴き声を上げる。

 つまり……。


「出会った時から騙されてたって事か……」

「ああ、勇者ご一行だとは思わなかったが、商売敵を追い込んだ小娘を捕まえればさぞかし悔しがると思ってな」


 商売敵……つまり、あの混血の剣士の事だろう。

 なるほど、こいつの目的は最初から俺……。

 だから、レムスを俺に懐くように指示をしたって事か……。


「まさか、勇者が居るとは思わなかったが、な!!」


 言葉と共に向かって来る拳を避け、俺はクリエ達の元へと走ろうとする。

 すると……。


「っ! クリエ!! ヘレン!!」


 二人の首にナイフを突き立てようとする二人の男が居た。

 俺はそれを見て駆けつけようと足に力を込めるのだが……。


「動くな、動いたら殺すぞ?」


 ロッシュの声に俺は身体を止める。

 人質を取られている以上従うしかない……。

 俺にあそこ迄、駆け抜ける実力があれば別だけど、そんな実力はないからだ。


「さてと、それじゃ私は私の目的を――」


 そう言ってカミアは俺へと近づくと堂々とまさぐってくる。


「……さぁ、本はどこにあるのですか?」


 そう言って笑う貴族の目は怪しい……というか、気持ちが悪い触り方だ。


「その目、ぞくぞくしますね……出来ればあなたはアレに渡さず私が飼いたいぐらいです。屈服した時はどんな表情を見せてくれるんでしょう? 考えただけで……堪らないですよ」

「変態の相手はごめんだな……」


 そう何とか言ったものの、立場は悪いままだ。

 俺にどうこう出来る状況じゃない、その上援軍は見込めない。

 暫く俺の身体に手を合わしていた貴族は鞄の中に手を突っ込み、本を取り上げるとニヤリと笑い。


「ご苦労さま」


 と言う言葉をかけてきた。

 どうする? そう考えても何も出来ない。

 俺は酷く情けないな……これじゃ、本を託してくれたやつに申し訳ない。

 だが、相手の目的も一つ達成された、このまま無抵抗で居ればきっと油断して逃げ出すチャンスがあるはずだ。


「じゃぁ、3人とも処刑して……と、一人は売り飛ばすのでしたっけ?」

「な!?」


 その言葉を聞き、俺は目を見開く……。


「いや二人だ……元貴族の美人なんて奴隷としては良い価値が付く、しかも生娘だ。そのままでも落としても良い商品だ。それから、最初から言ってた様にこのガキは貰って行くぞ?」


 二人……処刑? 奴隷?

 話からするとヘレンと俺は奴隷にされそうだという事は分かる。

 だが、クリエは? 勇者であるクリエを奴隷にするなんて事は流石に王や貴族達もしない。

 それは分かってる。

 しかし、カミアの口から出た処刑と言う言葉は……。


「何を驚いているのです? 魔王討伐から逃げた勇者、奇跡を使う事から逃げた勇者なんて生きてる価値なんてありませんよ?」

「な、何を言って……」


 俺はぐったりとしている二人の方を見つつ、カミアの声に答える。

 すると……。


「レムスと呼んでいたあの魔物は賢いようですよ? 全部教えてくれたそうです……魔王を人の力で討伐する? 奇跡が使えない身体? そんなの最早価値のない物です。物で言うならそうですね、まだ乞食の方が役に立ちます、餌を与えれば喜んで汚い仕事でもするのですから……」


 そう言うと、カミアはくすくすと笑い、それはやがて高笑いに代わる。

 暫く彼女は笑った後ふと何かに気が付いたように……。


「ああ、殺さないでも、私が言い値で買えば良いのかもしれませんね、貴女共々……苦痛に歪む顔は何とも言えない快楽を生み出してくれそうです……そうですね、丁度頑丈な道具と愛玩動物が欲しかったんですよ忠実な、ね? ヘレンは生意気ですし……意外と脆いですからね、お二人なら丁度良いかと」


 こいつ……どこまで……。

 そう言いたいが、俺は思わず黙り込んでしまった。

 何故なら、その瞳は怪しく光り、俺を見つめていて……思わず震えてしまった。

 つまり、俺はこの貴族に対し恐怖を感じているって事だろう……。


「ふふふ……ああ、考えるだけで良いです……ねぇ、その子はいくらなら売ってくれますか?」


 そして、ロッシュに対しそう告げるカミア。

 一方ロッシュはケタケタと笑い……。


「ああ、そうだな躾ける必要がなきゃ安く済む……それにごみ同然の勇者を殺る必要が無いなら、死体処理の代金も浮くからな……」


 ああ、分かった……こいつらは屑だ。

 そして、俺はその屑に負けた……負けた?

 いや、何で俺は諦めているんだ? 確かに人質は取られている。

 クリエとヘレンは今にも殺されそうだ。

 だが、今こいつは言った商品だって、死体処理の代金が浮くともだ……。

 つまり、こいつらにとってクリエもヘレンも殺すと不利益になるって事だ。


「………………」


 人質は取られてる……だが、さっきと状況は変わった! 相手にとってもそれは弱点だ!!

 ここで……何もせずに掴まる義理はない!!

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