219 ロッシュの行方
何故か両親と領主を重ねたキューラ。
彼は彼女達に話をし客人にも胸元の空いた服を着せるよう告げる。
話を終えてから数日。
彼は戻ってこないロッシュを心配するが……同時に不安も感じたのだった。
朝食の時にヘレンに悪い事をした。
そう思いながらも俺は彼女の両親二人の護衛に着く。
まぁ、悪い事をしたとは思ってもロッシュの事は疑わざるを得ないよな?
事実あれから姿を見せてない訳だ。
あの爺さんの強さは実際には見ていない。
俺は腰を抜かしかけたが、本当に強いのかも分からないんだ。
そう考えると爺さんなら大丈夫と考えていたのは失策だったな。
だが、それでも俺はあの爺さんが殺されるはずがないという思いもある。
だからこそ気になるのは……。
最初から敵だったって言う可能性だ。
痺れを切らしたカミアは両親そしてヘレンを殺すために爺さんを雇った。
そうなれば、ヘレンが今何処に居るのかというのも大体分かるだろう。
あの子供のゴーレムを待ち伏せさせておくのも簡単だ。
もう一つの可能性は……。
ヘレンも嘘をついているという事だ……。
ヘレンとカミア、二人がぐるで俺達を捕まえるための策というのも考えたが……。
これはないだろう、まず勇者であるクリエ……彼女を捕まえて置く理由がない。
確かに魔王は此方の地方を狙っている。
だが、その被害はまだ知られているだろうが、まだ少ない。
焦る必要もないんだ。
そうなれば洞窟の魔物ロクタの事で奇跡を使わせる? それもおかしな話だ。
魔物は俺が倒した。
そして、なにより……。
「あれが演技だとは思いたくない」
俺は小さな声でそう口にした。
それは子供を殺されたと知って、怒り、涙していたヘレンの事だ。
領地の主……いずれはその立場になる人間。
しかし、そんな人達は一人一人の命を重んじるという人は少ないだろう。
だが、彼女は泣いた……。
ただの一人の子供の為に怒りを覚えた。
そんな彼女を信じたい……疑っておいてなんだが、そう俺は思っている。
「演技とは何だ? と聞いておりますが?」
俺が考えごとをしているとソアラは急に尋ねてきた。
その声に慌てて俺は……。
「いや、アンタの知り合いのロッシュ……って爺さんの事だよ」
「……はい?」
ソアラは首を傾げ、それと同時にルーシェは怪訝な表情を浮かべる。
なんだ? そう疑問に思っていると……。
「ロッシュは確かに主人の親友でした……ですが……」
でした?
何だ……この嫌な予感は……?
「ですが、数年前に魔物との戦いで命を落としたはずです」
告げられた言葉は……信じがたい事だった。
「え? 死ん……だ?」
俺が訪ねると彼女達は頷く……どういうことだ?
「だって事実あのロッシュって爺さんは……」
生きていてゴーレムでもなく、つい数日前までこの屋敷の中にいた。
「貴女が嘘を言っているとは思いません、ですが、私は彼につきっきりでしたから実際には会っていません、これはおかしい事です……もし本物のロッシュであれば主人に顔を見せない訳がありません」
ロッシュなら顔を見せるはずだけど、顔を見てない?
つまり、あいつは……偽物って事か? いや待て……。
「その口ぶりだと死体は?」
「……無残な姿でしたが、なんとか誰か分かる位だったと……」
おいおい、しかも死体はあったのか……とすると生きていたって訳じゃない。
じゃぁ他の兵士達がロッシュと呼んでいたのは?
それにヘレンも……騙されていた?
いや、まさか本当にカミアとヘレンはグルだったのか?
クソッ! 混乱してきたぞ……。
「ヘレンがロッシュと呼んでた爺さんは何なんだ……」
俺の呟きは彼女達に聞こえたのだろう……。
「ヘレンが?」
「ああ……確かにそう呼んでいた」
俺がそう答えると二人は目を合わせ……。
「ヘレンはロッシュを知らないはずですよ、カミアの方は何度か会った事がありましたが……怖がってましたので、彼が悲しむからヘレンには会わせないようにと……ただ、名前は知っていたはずですが……」
「は? だって事実――!」
いや、待て……ヘレンは顔を知らない?
もしかして、それを利用した? だとしたらまさか――?
「まさか、ヘレンはロッシュが死んだことを……」
「知らないはずです、主人の親友の一人が無くなったとは告げましたが……あの子は顔を知らないのですから……」
それ以上伝える理由がない。
つまり、あのロッシュが偽物でも関係が無い……何故なら兵士は脅して従わせるかゴーレムにしてしまえば問題はないからだ。
そうなれば騙すのはヘレンだけ、目の前のソアラは領主ルーシェにご執心だったし、領主は寝込んでいた。
彼らにさえ会わなかったらそれで良い訳だ。
変身魔法なんてものがあったらそれを使うという手もあっただろうが、この世界にはない。
いや、あるにはあるが高度過ぎてそうそう簡単に使える手段じゃない。
つまり……ヘレンがゴーレムに襲われたあの道を歩くであろう事は最初から分かっており、俺達が裏切っているのも……。
「もうばれている……それに……」
勇者を……クリエに奇跡を使わせないようにしようとしている事もきっと……。
「……まずい……なんであの爺さんを最初から疑わなかった!?」
こっちの情報は筒抜けだった。
間抜けも良い所だ……! それにヘレンがこっちの味方だとしてもだ。
彼女はあの爺さんを信頼している。
自分を守ってくれると信頼しているはずだ……殺すのなんて簡単だ。
「っ! ヘレンの所に行って来る!!」
俺は焦り、彼女の元へと走り出す。
きっと……仕掛けてくるなら油断をしきっている今しかない!




