217 警護
領主はゴーレムではない。
だが、彼が寝込んでいるのは事実だ。
そして、キューラはある疑問を感じた……何故か血の色が薄く、変なにおいがするのだ。
もしかして、毒ではないか? そう考えたキューラはライムの生成したポーションを彼へ、飲ませるのだった。
俺がこの部屋の警備についてから早数時間は経ったのだろうか?
時間の経過は時計が無いから分からないが、太陽はかなり傾いて来た。
「…………」
その数時間の中で分かった事は一つある。
母親ソアラはかなり疲労していた事……そして……。
「父親ルーシェはやっぱり毒か……」
最初の方は時折苦しそうにしていた表情が今は穏やかに寝息を立てている。
ライムの薬が効いてきた証拠だろう……。
とすると……。
「ライム、一応この部屋にある飲み水を浄化してくれ」
俺はそう言いながらライムを樽の中へと入れる。
この世界のスライムの特徴はどんな液体も真水に変えてくれるという事だ。
つまり、沸かさなくても冷たい水のまま飲めるというだけじゃなく、毒物も浄化して飲める。
だから例えばこの部屋に毒水があったとしても関係はない。
そう、もしもの時を考えて俺がここに来た理由がそれだ。
水と言うのは生活に欠かせないものだ。
だからこそ、毒を仕込みやすい。
「とは言ったものの……」
本当に姉の方がやっているとして、実の親を殺そうとするって……どれだけ外道なんだろうか?
「……やっぱり、許す訳にはいかないな」
殺すのは嫌だ……そうは思っても、このままではいずれ俺達に火の粉が降りかかるだろう。
なら、先にその災いの種は取り払っておくのに越した事は無い。
とは思うんだが……問題は何処に居るかだ。
まだ調べていないから分からないが、最初に会ったあの路地裏……あそこにいるのだろうか?
もしそうであれば早速行ってみたいが、此処を離れる訳にはいかない。
まぁ、こっちから動く必要はないだろ、寧ろそれが悪手になる可能性がある。
毒を盛っていたという事はこの人が居たら困るという事だ。
なら……この人達を守るのが敵にとって不利益になるって訳だ。
「……ぁ……」
「ん……?」
かすれた声が聞こえ、俺は振り返るすると眠っていたルーシェが起きていたようだ。
「大丈夫か?」
「…………君が……」
俺の質問にどうやら質問で返している様子のルーシェ。
多分、君が助けてくれた……とでも言ってるのか?
「スライムのポーションを飲んでもらったんだ……まだ本調子には程遠いだろう? しっかり休んでくれ」
大丈夫か? と聞いておいてなんだが、どう見ても大丈夫ではないよな。
「…………」
彼は俺の話が聞こえてないだろうか? 手招きをしてきた。
そんな彼に対し俺は溜息をつきつつ近づくと……。
「寝てろ……って言ったはず……」
「あり……う……た……」
……相変わらず、かすれた声だ。
だが、それは確かに礼だった。
「……そういうのはちゃんと治ってから言ってくれ」
俺はそう言うと再び彼から離れ椅子へと腰を掛けた。
いつの間にか眠ってしまったみたいだ。
目を覚ましたら外はどっぷりと暗くなっていた。
参ったな……警備としては失格だ。
そう思っていたのだが、ふと気が付いた事がある。
いつの間にか誰かが俺に毛布を掛けていてくれたようだ。
辺りを見てみると、部屋には誰も居ない。
マズイ! そう思い血の気が引いて行くのを感じつつ俺は慌てて部屋を出る。
「うわぁ!?」
すると近くから人の声が聞こえ、俺は思わず振り返ると……。
そこに居たのは一人の兵士。
「おい! 領主達は何処に行った!? まさか誰か来たのか!?」
俺は慌てて彼に尋ねると……。
「ルーシェ様にソアラ様は職務室に居ます……それに貴方が起きたら連れてくるようにと言われて……」
「……無事、なのか?」
俺が訪ねると彼はこくこくと頷き始め……俺は身体から力が抜けていくのを感じた。
「良かった……」
「とにかく、ついてきていただけますでしょうか?」
兵士の後をついて行く事にした俺はふと疑問に思う、
無事なのは良かったが……こいつにこのままついて行って良いのだろうか?
ま、まぁ……確かめる事は大事、だよな……?
暫くついて行くと大きな扉の前で兵は止まり、ノックをすると……。
「誰ですか?」
女性の声が聞こえた、先程も聞いたソアラの声だ。
「例の少女をお連れ致しました」
「…………通してください」
暫くの間の後ソアラの声は再び聞こえ、俺を通すように告げる。
そして、俺は部屋の中へと入っていくと……そこには大した装飾が無い大きな椅子に座り込んだ二人の姿が見えた。
彼らは大量の書類を前にしており、どうやら仕事中だったみたいだ。
「……話は聞きましたよ、小さな従者さん」
俺が部屋へと入るのを確認してからソアラは優しげな声で語る。
「我が夫、ルーシェを助けてくれたそうですね? 感謝いたします」
「いや……物は試しだってやってただけだ、それにその薬を作ってくれたのはライムだ……俺は飲ませただけ」
自分でもやけにひねくれた言葉だと思った。
だが、信用しきる訳にはいかない……そう思い告げた言葉に彼らは笑みを浮かべる。
「それでも助けてくれたのは貴女です……」
そうは言ってもな……。
「まだ事態が解決した訳じゃないぞ? 暫くは俺が貴女達の警護に着く……」
「あら、可愛らしい騎士さんですわね」
ころころと笑うソアラ。
そして、その横に居るルーシェは声こそは発しないがやはり笑っている様だ。
くそ……何がおかしいんだ?
そう思いつつも、俺は何故かこの二人に自分の両親の姿を重ねてしまった。




