213 トゥスを迎えに行こう
ようやくまともな服を手に入れたキューラ。
クリエと二人でイリスとヘレンを待つことにした。
すると二人はようやく表れ……。
そこにはヘレンによって着飾らされた少女の姿があった。
「っと後はトゥスさんを迎えに行くんだが……この辺で有名な酒を取り扱ってる店は何処だ?」
俺はヘレンへと尋ねると彼女は訝しげな表情を浮かべる。
そして……。
「もしかして年齢はともかく見た目で買えないから、お使いに行かせたんですか? それもロクに調べもせずにですか? とにかくこの街のお酒は有名な物は――」
「あー……」
年齢の事は俺が嘘をついたから仕方がないとして……ってこの街は酒に年齢制限があるのか? そんな所もあるんだな。
それにしても……やっぱりエルフは本来酒を習慣的に飲まないんだろうな。
まぁ、あの人にその常識とういう枠は意味がないが……。
「トゥスさんはお酒が好きなんですよ」
「そ、そうなのですか? へ……不思議なエルフですね」
ああ、今絶対変なエルフと言いかけたな。
とは言え、変なのは否定できない。
「とにかく、何処だか知ってるか?」
俺の質問にヘレンは片腕で肘を抱き手の平を頬にあてる。
そして、暫く考えると……。
「そうですね……この街には有名なお酒はありませんが……他から取り寄せて扱っているお店なら一件あります」
「そこだな……案内してくれるか?」
俺の言葉に疑問を感じつつ、ヘレンは案内をしてくれるようで首を縦に振る。
「お酒を飲みたいなら、素直にそう言ってくれればいいのでは?」
いや、だから俺じゃなくてダナ……。
そう言いたいのは山々なんだけど、絶対に信じてもらえないやつだなこれ。
「キューラちゃんはお酒飲まないですよ?」
「そ、そうなんですか?」
クリエの言葉は信じるのか、驚いた表情を浮かべるヘレン。
なんか俺信用あるのかないのか分からないな……。
俺がそう思いながらヘレンの方へと向くと慌てた彼女は前へと振り返り……。
「と、とにかく、向かいましょう! 一人だと危ないかもしれないですし!!」
「それはないな……」
女性っと言っても……トゥスさんだしな。
爺さんより強いとは言えないとは思うが……トゥスさんはそう簡単に負ける人ではない。
ましてやオレのやろうとしてることを面白いと言ってついて来てくれるんだ。
なら、生きてついて来る事が最低条件だって事は分かってるはずだ。
無茶をする訳がない。
「とはいえ、心配じゃないって訳じゃない……さっさと迎えに行こう」
俺の言葉に頷いて賛同してくれたのはクリエだ。
「はい! そうですね!」
彼女は笑みを見せ俺の横を歩き始めた。
店についた俺達は目的の人物へと目を向ける。
「…………う、嘘、ですよね?」
ヘレンは彼女を見て呆然としているが、そこまで驚く事か?
店の中を物色するエルフ……つまりトゥスさんは俺達に気が付くと……。
「駄目だね」
といきなり酷評を口にする。
「え? 服……変、ですか?」
するとイリスは戸惑ったような表情と悲しそうな表情を混ぜた様な顔を浮かべた。
だが、彼女の言う駄目とは……。
「イリス、服の事を言われてるわけじゃない、その服はイリスに良く似合ってるよ」
俺はすぐにフォローを入れ、トゥスさんへと向き直る。
「で、好きな酒が無かった訳か……」
「ああ、この店の品ぞろえは悪いね……どれこれもこう……くる物が無い」
ははは…………服を買うのが早かったのは面倒くさくなってその辺のをひっつかむ様に適当に選んでるのかもしれないな。
だけど酒選びはじっくりか……。
まぁ、酒なら何でも良いとかいう呑兵衛とは違うから良いのだろうか?
とにかく……。
「気に入ったのが無いなら適当なのを買って出よう、服も選び終わった訳だしな」
「馬鹿な事言うんじゃないよ! 酒ってのはね、酔えば良いって訳じゃないんだ酒自体の味を楽しむ物なのさ! ったくこれだからお子様は……」
お子様……まぁ、間違っちゃいないが……。
「エルフが……お酒? お酒を……エルフが……」
そして、ヘレンお嬢様は随分とショックを受けているみたいだな。
「だ、大丈夫ですか?」
クリエも心配になったのだろう、お嬢様の方へと近づくと彼女はクリエへと掴みかかり。
「きゃあ!?」
流石の百合勇者もそれにはびっくりした様で可愛らしい悲鳴を上げる。
するとヘレンはわなわなと震え始め。
「おかしいですわ!! エルフがお酒ですよ!? 何故そんな平然としていられるのですか!? エルフとは清楚で美しくて俗世など知らない種族ですよ!?」
そう叫びながら言い切ったヘレンはぜぇぜぇと……息を切らす。
「せ、清楚で……」
その言葉を繰り返したのはクリエだ。
「美しい……」
続いてエルフであるイリスが続き……。
「俗世など知らないか……」
最後に俺続きトゥスさんへと視線を向ける。
「……トゥスさんは色々な人を傷つけるんだな」
「なんのことだい?」
そして、その自覚は本人にはないのか……。
「いや、最初出会った時に酒と賭けがこの世の全てのような事を言ってたような気がするなってな……」
俺が正直に言うと――。
「へ、ヘレンさん!?」
クリエの叫び声が聞こえ振り返ると倒れかかっているヘレンの姿とそれを支えるクリエの姿が見えた。
ああ、言わない方が良かった……な……。




