212 服屋を後に……。
屋敷に寝泊まりをすることにしたキューラ達。
彼らはヘレンの両親へとあいさつを済ませ、早速服を選びに行く事に……。
だが、キューラの不安は的中しクリエは服とは呼べない物を持ってくるのだった。
「ふぅ……堪能しました。うへへへ……」
「俺は疲れたよ……」
俺は胸元の空いたワンピース? の様な服を身に纏いがっくりと項垂れる。
一方クリエは同じように胸元が開いてはいるが、軽装の鎧を身に着けている。
勿論彼女の服は俺が料金を払った。
何とか服選びは終わったのだが……。
「クリエ、頼むからちゃんとした服を持ってきてくれ……」
「ちゃんとした服でしたよ? キューラちゃんに似合いそうな!」
やけに艶々とした顔で言われると反論が出来ないな。
そう思いつつ……俺はクリエへと目を向けるが……すぐに顔を逸らす。
「キューラちゃん? 怒ってるんですか?」
すると不安そうな声が聞こえ、俺は慌てて首を振る。
「いや、怒ってはいない、怒ってはいないけど……」
大事な事なので二回繰り返したが、何故顔を逸らしたのか……理由は簡単だ。
以外にも胸元が開いた服と言うのは刺激が強かった。
服なのだから大丈夫だ……そう思っていたのだが……これは俺にはきつい。
しかも、お金を払った時の彼女の何ともいない笑顔。
『うへへ……また、買ってもらっちゃいました』
それにあの嬉しそうな声……あれは卑怯だ。
「……それに良い案だとは思ったが、こっちが持たないな」
勿論、この世界には下着同然の姿で戦う人も居るには居る。
クリエが普通の服と口にしたのはその所為だろう。
そうは分かっていても、俺はそう言った人とは一緒に旅できないな。
多分その内ぶっ倒れるんじゃないだろうか?
「それにしても……遅いな」
俺達は会計を済ませ外で待つことにしたのだが、先に待っていたのはトゥスさんだった。
彼女は俺達が出てくるのを確認すると――。
「酒を買って来る」
と一言を残し去って行ってしまった。
勿論指定通り胸元の空いた服でパーティー会場に居る女性の様だったが……彼女はいつも通り何故か台無しにするな。
そこで俺達は残る二人を待っているのだが……。
「服を選ぶのは時間が掛かるんですよ? キューラちゃんが早くしろって言うからそれにしましたけど……」
「そう言う割には俺が選んだのですんなり決めたじゃないか」
不貞腐れるクリエに俺はそう告げる。
さっき堪能したって言うのは一体なんなのだろうか? そして、選ぶのに時間が掛かると言ったのに俺が彼女にと持って行ったらすぐに首を縦に振ったのは君じゃないか……。
「キューラちゃんが選んでくれたのでこれで良いんです!」
そ、そうか、そんな力説のように言われるとは思わなかったぞ。
まぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいけどな。
俺は彼女の方へと微笑むと、クリエは顔を赤くしゆっくりと視線だけをずらす。
いつもと反応が違う彼女に俺はびっくりし、どこか恥ずかしさを覚え、俺もまた視線をずらすとその場には沈黙が流れた。
クリエは一体どうしたんだ。
急にしおらしくなった気が……いや、なったよな……。
「「…………」」
微妙な空気が流れる中、俺はふと彼女の事が気になり視線を戻す。
するとクリエもまた此方の様子を窺っていて……目が合うと……。
「うへへ……」
いつもの笑い声だったが、照れくさそうに笑う。
「……っ」
ただそれだけだったが、釘付けになる。
今のはずるいだろ……そう思いつつ、その笑顔を守ってあげないとという気持ちが溢れてきた。
「……本当にずるいな」
俺は今の自分の気持ちを胸の中に感じ、小さくつぶやく。
その声は聞こえなかったのか……。
「キューラちゃん? 何か言いました?」
クリエは訪ねてくるが、俺はただ笑みを返し。
「なんでもない」
そう告げた。
彼女を守ると決めたのはもう随分と前の事だ。
定期的にはその気持ちと意志を確認してきたが、その都度彼女に守ってやるなんて言わなくても良いだろう。
余りにもしつこいと気持ちの押し付けにしかならない。
幾らクリエに俺に対する行為があっても以前ナンパをしてきたあの男の様にしかなってしまう……。
「あら、早かったんですね」
俺が一人そう考えていると貴族のお嬢様、ヘレンはようやく店の中から出てきた。
横には黒肌のエルフの少女イリス。
「遅かったな……って……イリス、どうした?」
俺達が買いに来たのは服だったはずだ。
だが、そこには服から靴、アクセサリ迄一新された少女が居り、彼女は気恥ずかしそうにキョロキョロとしている。
「こんなに可愛い子なんですよ? おしゃれをしないと勿体ないです……欲を言えば貴女もそうですが、どうやら勇者様の方がご執心用ですから」
「…………」
いや確かに可愛い、可愛いが……なんだろうか? もしかしてこの貴族ヘレンも百合?
いや、そんな気は無かったよな?
そう思いつつ、俺はイリスの事が心配になり、彼女を見ると……。
「…………キューラちゃん、もしかしてこの姿……変?」
不安そうな声と表情で尋ねられ、俺は慌てて首を横に振る。
変なんてとんでもない、寧ろ似合っている。
「変な訳ありません、これできっと殿方もいちころですね」
横でそう微笑むヘレンを見て俺はようやくほっと息をついた。
なんだ、ただ着飾らせたいだけだったか……。




