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俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
10章 勇者《魔王》として
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210 非道な貴族

 少年は催眠ではなくゴーレムではないか?

 キューラはそう疑った。

 いや、本にその様な魔法が書かれていたのだ。

 そうじゃない事を祈るキューラだったが、現実は非情な物だった。

「そ、そんな……」


 がくりと座り込んだヘレンはその瞳から大粒の涙を流す。

 だが、慰めてやることはできない。

 何故ながら俺が言った通りこの子はゴーレムだ。

 それは変えようのない事実であり、現実。

 俺は胸元に描かれた魔法陣の一部を持ってきていた筆とインクで潰す。

 すると、悲鳴を上げる事もなく少年は人の姿を崩していき粘り気のある土塊となった。

 その中を探ると動かぬ証拠でもある小さな骨が見つかる。


「………………ひ、酷過ぎます……こんなの」


 形の無くなった少年を見てクリエは涙声で呟く。


「作った本人はこう使う事を望んでなかった……無念な死を遂げた人の願いを聞き入れた結果、生まれた魔法らしい」


 俺は本を読みえた知識を口にするが、そんな事はこの場では何の意味もない。

 死んだ人の願い……それは最愛の人にずっと愛しているという言葉と幸せになる様にと告げる事だった。

 その為に生まれた魔法……最後の言葉を伝えるための魔法。

 だが、悪用すればこんな非道な魔法へと変わる。

 いや、寧ろ自分は傷つかず有能な兵を生み出せるという利点からこの使い方の方を思いつくのは簡単だ。


「…………こ、こんなことする人と戦うの?」


 イリスは実際に戦う訳ではない。

 だが、俺達の事を心配してくれているのだろう……俺は頷き答える。


「ああ、これで姉の方……カミアは嘘をついている……って事だな」


 もし、ヘレンと彼女を気遣うロッシュが嘘をついているなら役者だな。


「………………」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔を俺へと向けたヘレン。

 彼女は歯をむき出しにし……。


「許せません……この子は本当にいい子だったんです……親を殺したのが私の姉だと知っていても……それでも……! 血のつながりがある私を憎んだっておかしくないのに……!!」


 彼女はゆらゆらと立ちあがると……。


「ロッシュ、カミアを討ちます……じゃなければ、私は民が――民がこれ以上傷つくのは耐えられませんっ!!」


 叫びながらそう口したヘレンに感心しつつ俺は一つ思い浮かんだことがある。

 こいつが嘘をついていないなら、クリエに犠牲になれと言わないなら……ここで手を貸すのはありだ。

 だが、今のままでは分が悪い。

 何故ならゴーレムは材料さえあれば作り出せる。

 ロッシュと言うあの爺さんが強いのは分かる、だが……彼女の知らない場所で少年がゴーレムにされていたという事を考えると……。

 他にもこの屋敷に紛れ込んでいる可能性だってある。

 最悪の場合……両親も本当に人間なのか分からないからな。

 彼女には信頼できる手駒が必要だ……。


「俺達も手を貸す、異論はないな?」


 俺はそれだけを口にし、トゥスさんへと目を向ける。

 すると彼女は頷き……。


「ここまで胸糞悪いのは私も同意見だね。でも相手は本物そっくりの人形を使うんだ……当然条件があるんだろう?」


 と確かめてきた。

 だが、彼女とは別にヘレンの方は驚き……。


「で、ですから早く勇者様を安全な所に!!」

「条件は簡単だ。保険が欲しい……事が終わるまで胸元が開いた服を身に着ける。幸いこの魔法陣は必ず胸元に残るんだ……」


 相手が本物でこれを知っていれば見せろって言うのも簡単だが、まぁ……見えるようにすればそれは言わないでも良い。


「代わりに俺達も偽物じゃないって証明する為に同じような服装をする」

「え!? じゃぁお買い物ですか!? キューラちゃんの服を買いますか!?」


 そこに食いつくと思ったよ……まぁ、今回はクリエのセンスが役に立ちそうだ。


「俺の服じゃなくて爺さん以外の全員の服だ……」

「うへ、うへへへへへ……皆の服をですか……うへへ」


 なんとも嬉しそうな表情を……理由は不純だが……。


「ワシは自前で用意しろって事か……」


 というのだが……爺さん……今になってよく考えてみれば服を着ているものの胸元は開いてるんだよな……筋肉の所為で……。

 それに騙される以外では彼は倒されることはなさそうだ。

 それも昨日の事があるし大丈夫だろう。


「まぁ、その格好のままなら平気だ」


 俺はそう伝え、クリエの方へと向くと軽く悲鳴を上げそうになった。

 何故なら彼女は女性らしからぬ表情を浮かべていたからだ。


「うへへへへへへへへ」

「だ、大丈夫、ですか?」


 そんな彼女を見るなり、ヘレンは不安そうな声を出す。

 己の身に危機が迫っていると本能で感じているのか分からないが、その身を守る様に抱いている彼女に対し俺は……。


「た、多分、な?」


 絶対とは言い切れなかった。

 するとクリエは崩れた表情のまま。


「大丈夫です! 絶対に似合う服を見つけます!」


 何故だろうか? 俺は下着同然の服しか着せられないような気がしたのは……。

 いや、それでもましな方かもしれないと思った位には毒されてしまったような気もするな?

 とにかく、変な服を選ぶようだったら全力で止めよう、うん……絶対にそうしないと後で後悔する。

 どうせこの後暫くはその服を着なければならないんだからな。

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