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俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
10章 勇者《魔王》として
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204 矛盾する姉妹

 謁見の連絡を待つキューラ達。

 しかし、彼らの寝泊まりする宿に貴族の娘が直接現れた。

 警戒するキューラだったが、話を聞くと姉の方が怪しいとすら思えるものだった。

 はたして、真実は?

「話を聞いていますか?」


 俺が混乱しているとやや苛ついたような声が聞こえた。

 声の出どころはヘレンだ。

 彼女は俺からの返答を待っている様だ。

 だが……。


「それは出来ない」


 俺はそう答えた。

 いや、それしか答えが無い、そう思ったんだ。


「何故ですか!?」


 だんっ! と一歩前へと踏み出た彼女にイリスはびくりと身体を震わせる。

 そう、彼女が居る……彼女が居るからこそ、俺達は――。


「この子は戦える訳じゃない、一人でエルフの里から来たとは言えこれからの長旅に耐えられるか分からない……」


 俺はそう告げる。

 するとヘレンは腕を組み溜息をつく……。


「だから置いて行くと言うのですか? だったら、貴女達だけでも……」


 出て行け、と言う事だろう。

 だが、それも出来ない、俺は首を振る。

 そうするといよいよ怒ったのかヘレンは瞼を半分だけ降ろし俺を睨む。


「この街にアンデッドが居るのはもう知ってる、そんな所に置いて行けない……これを解決しないとな」


 俺はそれだけを口にした。

 本当の事ではあるしな。

 だが……どうする? 姉と妹の主張が違う……。

 どっちかが本当の事を言って、どっちかが嘘をついている。

 ただ二人の主張で唯一一致しているのは姉の方は家族から良く思われていないという事だ。

 それ以外はあべこべだ……兵士を殺す妹は何故か好かれている様で同じく兵士を殺す姉はその家族と一緒に居た。

 どういう事だ? 全く分からない。

 だが、もう一つ分かった事がある。

 安易な手に出なくて正解だ……もし暗殺なんて事をしていたら確実に今ここに居るあの老人に切られていた。


「…………そうですか、なら勝手にしてください」

「ああ、そうさせてもらう」


 貴族は自分の意見が通じないと分かったのだろう、部屋の外へと向かい。

 老人はその後を追う……。

 二人のいなくなった部屋で俺はしばらく時間が経ってから大きくため息をつくとクリエは俺の顔を覗き込んできた。


「あの、言わなくて良かったんですか?」


 恐らく姉の依頼の事だろうと思った俺は首を縦に振る。


「黙っておいた方が良い」


 姉も妹もお互いに敵同士、なら……片方の依頼を受けたなんて事は言わない方が良い。

 もし口にしていたら危険だと判断され襲われかねないからな。


「でも参ったね、どっちが本当の事を言っているのか……アタシは今の方だと思うけどね」


 流石のトゥスさんも確信には至らず困ったのだろう腕を組み首を傾げる。

 彼女の言う通り、どちらが本当の事を言っているのかが分からない。

 情報屋の話では妹が問題児でアンデッドを作り出しているような事を言っていた。

 だが、その情報屋がすでに買われていたら?

 そもそも貴族なんだ酒場一つ押さえるくらいは訳ない。

 最初から誘導するように仕掛けられていた場合は? 逆に兵士やあの老人。

 二人が金や何かで妹に買われているという可能性だってある。


「くそ……ややこしくなってきたな」


 妹の方はクリエを心配してくれていた様だが、それだって俺達を騙す手だったとしたら? 疑い始めたらキリが無いとはいえ、これじゃ……どっちの方が良いかなんて分からないな。


「情報を集めるしかないんだが……」


 金で買われている可能性を考えると酒場は駄目だ。

 とすると屋敷の兵士も駄目だ。

 住民から聞き出すしかないのか……それも恐らくあのスラムにいる者達は駄目だろう。

 下手に探りを入れればすぐに報告されてしまう可能性もある。


「双方の人達に聞くのはどうですか?」

「相手の情報を得るって事か……」


 うーん、確かにそれなら下手に警戒される事は無いのか? だが、それはそれで……。


「妹の方は出て行けと言っているだけだからいい……だけど……」


 姉の方はそうはいかない。

 彼女の目的はあくまで妹を殺す事だ。


「…………」


 妹は姉に対し何かをしろとは言ってこなかった。

 ただ、出て行け……と……。


「…………はぁ」


 本来なら何も言わず妹の方に着きたいんだが、噂がある以上……。


「仕方ない、街の人達から妹の方の話を聞き出そう」

「姉の依頼を続けるのか?」


 俺の答えに対し質問を返して来たのはトゥスさんだ。

 彼女に俺は首を横に振る。


「いいや、姉の方に悟られずに妹がどんな人物か調べ上げる。少しでも信じられるようなら姉を止めるしか、ないだろ……」


 今すぐに出て行くのは無しだ。

 イリスを連れて行くことはできないからな。

 だからこの街に起きている問題を解決しなければならないのは変わらない。

 なら、まだ出て行けと言っている妹の方を信じたいというのは俺のわがままだろうか?

 それでも姉よりはましだ……そう考えたい。

 少なくとも俺はそう思った。


「分りました! じゃぁ、早速……」

「いや、今日の所はもう遅い……寝よう」


 外を見てみると真っ暗になっている。

 だから休もう、そう言ったはずだったが……。

 なんとなく……いやな予感がした。


「……俺はちょっと散歩してくるよ、頭を冷やしてくる」

「え? キュ、キューラちゃん!?」


 だから、そう言って一人部屋を出て行った。

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