203 宿で休息
貴族の屋敷に行きロクタの話がしたいというキューラ。
だが、意外にも門兵達は快く話を聞き入れてくれた。
後日宿に連絡をくれる事を約束してもらい、キューラ達は帰ろうとする。
そんな時がすれ違いに老剣士が屋敷へと入っていく……。
キューラは彼に睨まれると、混血の奴隷商を思い出すのだった。
宿に戻り休んでいると……何やら外が騒がしかった。
何だろうか? 疑問に思っていると部屋の外で声がする。
「こ、こちらにいらっしゃいます!」
声は宿の店主の物だ。
一体……何があったんだ? 俺達は顔を見合わせると立ち上がり外を覗き見ようとする。
すると……部屋の扉が開き、入ってきたのは一人の女性と老人の剣士だった。
二人には見覚えがある。
老人はさっき屋敷の前ですれ違った男……今はあの目をしていないからだろう多少マシとはいえ、俺は後ろに下がりそうになる足をその場にとどめる。
もう一人は……。
「アンタは……」
「ヘレンです!」
ぶっきらぼうに言った彼女はその言葉遣いとはまるで正反対の丁寧な礼をする。
そして、クリエへと目を向けるがその瞳はやけに鋭い。
その為かクリエはまた俺の後ろへと隠れてしまった。
「……はぁ」
それを見てため息をついた彼女は今度は頭だけを下げ……。
「まずは洞窟での非礼を詫びさせていただきます。この度は私共が手を焼いていた魔物を退治していただきありがとうございます」
「いや、俺達にも目的があったしな」
そう言うと彼女は複雑な表情を浮かべ、装飾がされている布袋を取り出す。
「本来ならもっと出るのですが、今回は洞窟が潰れてしまった事があります。ですので出せるのはこれぐらいです」
と言って横に居る老人へと手渡すと、それは俺へと手渡される。
中身を見てみるとその中には……。
「おいおい、一体……」
「手を焼いていたのは事実です。それとその袋も売ればお金になるでしょう、多少ですが」
それだけ言われたけど、目の前にあるのは一体幾らあるんだ?
流石にクリードで貰った物よりは少ないだろうけど、重い。
「それで……貴女は何を話しに来たのですか? 私もすでに父様には報告をしました」
「あ、いや……」
うーん? 何だろうか? 確かに口調は乱暴だ。
態度も良いとは言えない……だけど、この子が人を殺している? とは思えない……。
「それは領主と話をしようと思ったんだが……」
「駄目です。あそこには今は姉様がいらっしゃいます……ただでさえ父様達を貶めようとしているのです。今回は貴女達が運が良かったお蔭で父様は助かった様なものですから」
ん? どういう事だ?
領主を貶めようとしている?
「……ちょっと待った、キューラ達の運が良かったお蔭ってどういうことだい?」
「………………」
彼女はトゥスさんの質問に暫く黙り込む。
しかし、意を決した様に表情を変えると……。
「あのロクタは姉様があの洞窟に導いたと聞いています。宝石を食べさせたのも彼女……それで自分の兵を調査に出し故意的に死なせた。その上討伐体を父様の名を借り派遣し……何らかの手を使い失敗させようとしてたのです」
「……は? じゃ、じゃぁ……閉鎖をしてたのはどういう事なんだ?」
俺が問うと彼女は俺達を睨み……。
「当然、父様を守る為です! 例え勇者であろうと通す気は無かったのですが、姉様の息がかかっていた兵に気が付けなかった私の失態です……ですが、本当に運が良かった」
つまり、この子は親を助けようとしていた?
でも、自分の兵を派遣し死なせた? どういう事だ?
「その上、姉様は兵を誘惑し、貶め何らかの手段で命を奪っています。アンデットにしてあれを探させているみたいですが……あれはあの人には渡してはならないのです」
「あ、あれって? それを知ってるんですか?」
クリエが問うと彼女は頷く。
「何かは言えません、ですがあれの一部を使って兵を操ったのは事実……すぐにその術を知る男を逃がしたのですが、彼はご年配でしたし、この世にはいないでしょう」
魔法陣の事か? じゃぁ……ヘレンは魔法陣を使っていた男を知っている?
「貴女達にこんな話をしても意味はないですが……とにかく、それは私からの謝礼金です。洞窟を壊されてしまったのは私が悪いのです……父様は関係ない」
そう言う彼女からは何処か決意をしたような表情が見て取れた。
俺はトゥスさんの方へと目を向ける。
すると彼女は……。
「こっちが本当の事を言っているように聞こえるね」
「ああ、俺もそう思う」
それなら納得がいく……例え勇者でもあの洞窟に入った事を咎められた理由。
あの場で何も言えなかった理由……。
それはあの姉の方が黒幕だったから……と言う事か……。
「話は終わりです。貴女達はすぐにこの街を去ってください。あまり人には言えませんが隠すの下手ですよ?」
「……ん?」
何の事だ? 疑問を浮かべると彼女は初めて笑みを浮かべ……。
横に居た老人の方が答えた。
「勇者とは尊き者、護るべき者……ここの領主もこの爺も領主も古い学友でなお前達がそう考えているのでは? って嬢ちゃんは思ってるのさ」
「そういう事です。本来なら屋敷に向かい入れ、本心と今後の話を聞きたい所ですが……今はあの姉にだけは貴女達の考えを悟られてしまうのは避けなければなりません、ですから早くこの街から去ってください」
えっと……どういうことだ? つまり、この貴族達はクリエの事を人として扱ってくれているのか? あああ、何が本当で何が嘘だ? 頭が痛くなってきたぞ……。




