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俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
10章 勇者《魔王》として
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202 貴族の屋敷に

 兵士たちを殺している貴族の娘。

 彼女をどうにか止めるためキューラ達は情報を求めた。

 しかし、大したものはなく……。

 彼らはロクタの事を理由に実際に貴族の元へと話をつけに行く事にしたのだった。

 俺達はまだ日が高い内に貴族の屋敷へと向かう。

 目的は妹の方……確か名前はヘレンだったか? 彼女を止める事だ。

 しかし、どうしたものか……?

 俺達にある手札は少ない……その上切り札が無い。

 姉の依頼は受けたものの殺すのはリスクが高すぎるからな……。


「だ、大丈夫でしょうか?」


 クリエはそう呟くが、彼女が心配するのは最もだ。


「なんとかするしかない」


 俺はそう口にしたが、正直……今の策も苦し紛れだ。

 ロクタの事から斬り込むとしても相手は貴族だからな。

 魔物は動かなかった、だからこそ閉鎖することで被害を出さないようにした。

 そう言えば済むことだ。

 実際そうしていたんだし間違いはない。

 だが、それでもあのヘレンと言う女性は俺との口論に負けた。

 つまり何かしら引っかかる部分があったんだろう。


 それさえ分かれば……。


「キューラ、そろそろ着くよ」

「あ、ああ……」


 考えていると時間が過ぎるのが早い。

 まだ何も思いついてないというのに屋敷に辿り着いてしまった。

 ここに来たのは早計だったか?

 そう考えるもそんな事は無いはずだと俺は首を横に振った。


 姉のカミアの依頼を受けている以上、のんびりはしていられない。

 彼女が別の暗殺者を雇わないとは限らない。

 そして、その時俺達に飛び火する可能性だってある。

 やるって言っているし、なによりそれを聞いている商人が多い。

 最初からそのつもりなのかも……っとまた疑い始めてしまった。

 今はそれよりも妹の方だろ! そう言い聞かせ俺は皆の数歩前へと出る。


「待て! 何の様だ!」

「勇者一行のようだな? 別に呼んだ覚えはないが?」


 二人の兵はそう口にしながら槍を互いに斜めにし扉の前で交差させる。

 理由を話すまでは通す気は無い、そう言っているのだろう。


「近辺にある鉱山の事で話がしたい。すぐにとは言わない後日でも時間がある時に顔を見られないか?」

「「…………」」


 クリエではなく俺が答えた事は気にしていないのだろうか? 二人の兵は顔を合わせると黙り込み。


「分かった、必ず伝えておこう」

「宿は取っているな? 何処だ?」


 以外にも返答は早く、俺は宿の場所を伝える。

 すると、二人の兵は頷き。


「では、すまないが今日は引き取っていただきたい」

「領主様は機嫌が悪いんだ、ヘレン様のお蔭で今のところは暴れていない様だが……」


 そうこっそりと告げられ……俺は首を傾げる。

 ヘレン様が……? なんだ? 恐れられてるならともかく、彼からはそんな感じはしない。


「ああ、本当立派な方だ……。そうだ、洞窟の件だったら旦那様には勿論、あの方にも話を通した方が良いな、勇者ご一行は構わないな?」

「あ、ああ……」


 俺は頷き答える。

 うーん? 何処か尊敬の念も感じるような……?

 操られている? いや、そんな感じはしない……一体どういう事だ?


「では後日……」

「宿には伝えに行く、もし居なかったら店主にでも伝言を頼もう」

「あ、ありがとうございます」


 やけに丁寧な扱いにクリエも驚いたのだろう。

 少し引きつった様な笑みを浮かべる。

 二人の兵は彼女の笑みを見て顔を赤らめていたが、まぁ……勇者うんぬんよりも美人だからだろう。

 とにかく俺達がここで立っていても意味はない。

 大人しく返事が来るのを待つとしよう……。

 そう思い、宿へと戻る事にした俺達は後ろへと振り返る。

 すると、老人が一人こちらへと向かって来るのが見えた。

 彼は腰に一本の剣を携え、傷だらけの鎧を身に纏っていた。

 俺達の横を通り過ぎた老人は――。


「ちょいとすまんな」


 そう呟きながら兵へと近づく……。

 何かあるのだろうか? そう思って再び屋敷の方へと目を向けた。

 すると、兵士達は敬礼をしており……。


「お、お帰りなさい! ロッシュ様」

「様は要らん、ワシはただの爺だ」


 彼はそう言うと二人の兵の間を通り扉を潜る。

 そして、此方へと目を向けると……。


「そこの黒い小娘、良い目をしているな……まだ、甘い……が、成長が楽しみだ」


 歯をむき出しにして笑う爺さん……黒い小娘って言うのは間違いなく俺の事だな。

 そう思いつつ彼の目を見ると――。


「――っ!?」


 一瞬だ……だけどあの混血の剣士と戦った時と思い出してしまった。

 いや、寧ろ彼の方が強いのだろう……戦おうなんて考えてすらないのに脳内に流れてくるイメージは俺が腰にある剣で斬られる瞬間だ。


「――っ!? ――っ! ……」

「キューラちゃん!?」


 俺の様子がおかしい事に気が付いたクリエは慌てて支えてくれる。

 だが、そんな彼女に大丈夫だとすら言ってやることは出来ず。

 俺に出来たのは爺さんが去るのを見つめている事がやっとだった……。

 そんな俺を見て二人の兵士は此方へと近づいて来る。


「なんの用だい」


 それを警戒したのだろうトゥスさんは俺の目の前へと割り込んだようだ。


「すまない、どうやらあてられたようだな……」

「あの爺さんは見込みがある者にいつもこうなんだ……大抵は見つめ返す事すらできず。その場でぶっ倒れるんだけどな」


 彼らはそう言うとトゥスさんの脇を通り俺の様子を見て来た。

 マズイ……か? そう思い慌ててクリエから離れると……。


「おっと、すぐに動けるのか……その様子なら送る必要はなさそうだな」

「本当に珍しいな! とにかく水があるなら飲んでおきな、少しは落ち着く」


 そう言うだけで彼らは持ち場へと戻っていった。


「な……」


 何もされない? いや、あの爺さんは一体……と、とにかく……。


「戻ろう……」


 俺が判断できたのはそれだけだった。

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