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200 カミラの依頼

 スリの少年はやはりどこかに連れて行きたいようだ。

 彼を追いかけていくと貧困街につく……。

 そこには一人の貴族がおり、そこに住まうものは被害者だという……。

 自らを姉の方だと名乗る彼女は妹を止める事を頼むのだった。

 躊躇なく頭を下げる貴族カミア。

 彼女の言葉は本心か、それとも策か……分からない。

 こんな時相手の気持ちを読める力があれば良いんだが、そんな魔法はこの世にはない。


「…………」


 俺達は顔を見合わせる。

 この依頼受けるべきか、受けざるべきか……本来は迷うべきだろう。

 だが、俺はイリスの顔を見て、答えが決まった。


「分かったその依頼を受けよう」

「キューラ!?」


 相談もせずに決めた俺に詰め寄るトゥスさん。

 当然だ、彼女と俺の本当の目的……それはクリエを守る事。

 敵である貴族の話なんて聞く必要はない! そう言いたいんだろう。


「このままにしてたらイリスが危ない、ただそれだけだ」


 だが俺は言った言葉を変えるつもりはない。

 そう意志を見せるとトゥスさんは納得いかない様子で腕を組む。


「だけどね……行ってみればこれはこいつらの自業自得だ。妹をちゃんと躾けなかったね」

「そ、それは……」


 カミアは目を逸らし言いよどむ。


「継承権が無くとも姉は姉……違うかい?」


 確かにトゥスさんの言う通りではある。

 だけど……彼女の立場ではそれが言えなかった?

 理由は分からないが、姉としても何も注意出来ないという事は継承権だけが剥奪されたとは考えにくい。

 つまり大ウソをついてるか、もしくは……本当に彼女の立場は何も出来ない飾り物の様なモノなのかもしれない。

 それでも貴族として生きられる理由。

 恐らくそれは……美貌と実家の権力を武器にした政略結婚という手段の為か……。

 まぁ、貴族のやる事には興味がない。

 だけど、イリスはもう仲間と言っても良いだろう、あの武具店の店主にも世話になってる。

 なら、やる事は一つだ。


「それなのに――」

「トゥスさん、これは俺が決めた事だ」


 俺はそう言って彼女の前に手を出す。

 すると彼女はまるで面を食らったような顔をして俺の方へと目を向けた。


「それは……つまり、そういう意味かい?」


 その言葉に主語は無かった。

 それでも分かるだろうという意味が込められてるのだろう、つまりは未来の魔王として部下の彼女に命を下しているのか? とでも言っているに違いない。


「そうだ……」


 俺達のリーダーはクリエ。

 そう思い込んでいた……いや、そう思って当然の貴族もまた驚いているが、俺は彼女に話を切り出した。


「それで、俺達は何をすればいい?」

「……え? あ、そ、それは……そのですね」


 暫く沈黙を保っていたカミアは慌てた様に口を動かす。

 さて……味方か敵か分からない貴族と手を組む、本来ならやりたくはないが……仕方がないか。


「妹を止める……それは……」


 それは? 一体なんだというのだろうか? 彼女はどうも口に出しづらそうにしている。


「妹を……ヘレンを殺す事です」

「……え?」


 驚いた声を出したのはクリエだ。

 彼女は瞳をぱちぱちとさせた後固まってしまった。

 そうなるのは仕方がない。

 事実俺だって声が出なかった。


「妹を……ころ……」


 確かに彼女の言っている事は分かる。

 止めると言っても、方法が分からない……。

 性格の所為でそんな事をしているなら、その性格をどうにかしないといけないからな。

 それを俺達でどうにかするのは無理だろう。

 ならそうなるのは仕方がない。

 そう、仕方がないのは分かる……だけど、本当にそれで良いのか?

 この人にとっては家族じゃないのか?

 それを簡単に殺せ? 何を言ってるんだ……!


「……そうしなければあの子はとまりません、これからも犠牲者を出していく事でしょう」

「で、でも……そんな事いけないです」


 イリスも反論をするが、貴族カミアは聞く耳を持たない。

 それどころか睨まれると小さな声で「ひっ」と怯えてしまった。

 やっぱり手を組むんじゃなかったか? いや、今更だな。

 だが、参ったな……方法としては納得が出来る。

 しかし、俺達には立場的にそれが出来ない。

 貴族はちゃんと理由があって裁きをしている訳だ。

 俺達が手を出し、ましてや命を奪おうものならいくら勇者といえど犯罪者になってしまう。


 悪いけどそう言う事なら他を当たってくれ……。

 そう言いたいのはやまやまだが……イリス達の為と言うのは本当だ。

 なら、放って置くことはできない。

 だが……。


「……方法は俺達に任せてくれないか?」


 殺すのが簡単な方法……十分に理解している。

 しかし、だからって「はいそうですか」何て言える訳がない。

 何かしら方法はあるはずだ。

 そう信じ俺は彼女にそう告げると黙り込んだカミラは暫く考えるそぶりを見せた。

 しかし、俺達以外に頼る人が今のところは居ないのだろう、首を縦に振った彼女は。


「分りました、では方法はお任せします」


 俺の案を承諾してくれた。


「じゃぁ、俺達は一度戻って策を練る……」


 俺はそう言うと仲間達に目を向け、路地の入口の方へと歩き始める。

 言った通り一度戻ろうとしたのだが……。


「キュ、キューラちゃん!?」


 突然の行動にクリエは驚いていた。

 どうしたのだろうか? 気になってみてみるとどうやら俺は無意識のうちに彼女の手を取っていたみたいだ。

 まぁ、だからと言って離す訳にもいかないし、このまま引っ張っていこう。


「こ、こここ転んじゃいます!?」


 何処か声を弾ませた彼女を連れ俺達は来た道を戻っていく……なんというかあのカミラっていう貴族は良く分からないな。

 家族を殺せなんて普通なら簡単に言えるはずないのにな。

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