199 スリ? の少年
キューラ達は情報を聞きどうにかしなければと考える。
イリスを残す街に不安は残したくなかったのだ。
そして、件の貴族はどうやらキューラ達が出会ったあの貴族の様だ。
どうしたものか? そんな事を考えているとキューラはスリの少年に会い、どうやらその少年は盗むことが目的ではない様だ……。
スリの少年を追いかけていくとやはりおかしい事に気が付いた。
彼は確かに早い、俺達では簡単には追いつけない様にするすると進んでいく……のに、不思議と視界からは消えない。
そして、時折此方を向くと何かを確認するように立ち止まったり、また走ったりし……距離を保つ。
本当に盗むのが目的なら……さっさと逃げていくんじゃないだろうか?
そう思いつつ追いかけていると彼は路地の裏へと入っていく……。
「チッ! あのガキ!!」
そして、トゥスさんは大変ご立腹だ。
それでも俺達が止めたからだろう、銃は撃たないでくれているが何かのきっかけで発砲しそうで怖いな。
俺はそう思いつつ、少年が曲がった路地裏へと入る。
「……意外と広いな」
入った感想は口にした通りだった。
「……」
クリエとイリスは黙り込み、辺りを見回している。
その理由は簡単だ……。
「貧民の寝床、だね」
周りにいる人々はやけに痩せている。
だというのに不思議と食事を取り、服は思ったよりは汚れていない。
中には女性や子供……男や老人ばかりでない事も疑問だった。
こういった場所に居ると襲われてしまうだろうに……。
そう思いつつも俺はあの少年を見つけると彼へと近づいて行く……。
すると少年は不貞腐れた態度で俺の財布を投げつけてきた。
「ボーっとしてるから盗まれるんだ!」
そう乱暴な言葉を使いつつちゃんと返してくれたって事はやっぱり連れてくる事が目的だった訳か……。
「何を言ってるんだい? このクソガキ……」
俺達の中で唯一切れかけていたトゥスさんは今の一言で銃を引き抜き、俺は慌てて手で制し彼女を止める。
「キューラ……」
呆れた様に俺の名を呼ぶ彼女だったが……。
「俺達をここまで連れてくる事が目的だったみたいだ。それにぼーっとしてたのも事実だしな。銃を引っ込めてくれトゥスさん」
そう告げると舌打ちをした彼女は銃をしまわないものの下げてはくれた。
「で、俺達に何の用だ?」
それを確認した俺は少年に問う。
すると少年は物陰の方へと目を向け……そこから現れたのはフードで顔を隠してはいるが綺麗な服をまとった女性。
彼女は俺達へと目を向けるとゆっくりと頭を下げた。
「…………っ」
そんな礼儀正しい彼女を見て息を飲んだのはクリエだ。
そう、彼女は間違いなく……。
「貴族? 何だってこんな所に?」
トゥスさんが声を低くして尋ねた通り、何処からどう見ても貴族そのものだ。
「…………それは、これから説明いたします」
彼女はそう言うとフードを取り払い、その顔を露わにする。
俺は彼女を見て何処かで会ったのでは? と思ったがすぐに何処で会ったのか、いや何処で彼女に似ている人を見たのかを思い出した。
「アンタまさか、姉……の方か?」
尋ねてみると彼女はゆっくりと首を縦に振った。
「はい、その通りです……私はカミアと申します……勇者ご一行」
何だってこんな所に? 疑問に思う俺達は黙り込み……それを察したのか彼女はゆっくりと語り始めた。
「実はここは犠牲者が住む集落です。見た目はスラム……ですが、出来る限り食料は提供しています」
「犠牲者ねぇ……あんたの家族がやった事だろ? 何だってそんな面倒な事をしてるのかね」
トゥスさんは睨みつつそう言うと彼女は悲しそうな顔を浮かべて答えた。
「…………あの子は、確かに家族です。ですから責任を取る必要があります……」
なるほどな……家族がしでかした事だからこその責任か。
だけど……その犠牲者は戻って来やしない。
「あの子を止めたい、でも、私にはどうする事も出来ません、力無く、継承権もない私では……何も……」
継承権が無い? つまり……。
「兄でも居るのか?」
俺の言葉に首を振る貴族……じゃぁ、どうして? 兄が居ないなら姉か?
だけど、話で聞いたのは姉と妹二人だけだ。
つまり、この人が一番上と言う事になるんじゃないか?
「私は以前、父上と母上に無礼を働いたので……その時に継承権を失いました」
彼女はそう悲しそうに言うと、此方へと目を向け……。
「お願いします、あの子を止めてください……このままでは民に犠牲が出てしまいます! それに……もうあの子は新たな犠牲を生むために色々と!!」
必死な様子で懇願する彼女。
しかし、相手は貴族……そう思うと……裏では何かを企んでいるんじゃと俺は思ってしまった。
そして、それは俺だけじゃなく……。
「確かに死人が出るのはくだらない事とは言えないね、だけど魔王が居る今それで勇者の命を使えって言うのかい?」
その言葉にびくりと身体を震わせたのはクリエと貴族。
やっぱりそうなのか……そう思っていると彼女は――。
「いえ、そんなことしなくて良いです。私はただ家族を止めていただきたいだけです」
そう真剣なまなざしで告げてきたが、貴族は信用できない。
俺はついつい疑うような視線を送ってしまうと彼女はその視線を真正面から受け止め……。
「お願いします」
頭を下げたのだった。




