198 情報通からの情報
アンデッドの情報を求め酒場へと訪れたキューラ達。
そこで情報通の客から聞いた話は……。
貴族の仕業だという……しかも、その貴族は女性でうっぷん晴らしのため、殺しを楽しんでいるとの事だ。
悲しくも殺された者達は物を探し、街を守るために徘徊する……。
キューラは憤りを感じつつ、とんでもない街に来てしまったと考えるのだった。
「でも、なんで旧商店街なんですか?」
クリエが訪ねると彼は酒を一口含み喉をうるおす。
「さっきも言ったが探しているものがあるらしい……毒を盛られてはいるが元々それの所為でアンデッドになったとも言えるのか、それとも魔物を操る術を持つのか分からないが、とにかくあそこからは動いていない」
うーん、それは良く分からないな。
いくらアンデッドが後悔を糧に動く魔物だと言っても、それなりに行動範囲は広いはずだ。
となると、考え付くのは結界。
だが、結界なんてたいそうな魔法……この世界ではクリエ以外には使えない。
つまり、勇者だけの魔法で今となっては誰も使えない魔法だ。
「…………」
いや、結界の方法はもう一つある。
魔法陣だ……だけど、魔法陣の本は俺の手元にある。
これは託されたものだし、そう簡単に真似できるものではない。
じゃぁ、何故アンデッド達はあそこから動かない?
「まぁ、俺が持ってる情報はこんな所だな」
そう告げた彼は再び酒を煽る。
「分かった、ありがとう」
俺は礼を告げると彼はニヤリと笑みを浮かべ……。
「いやいや、勇者一行、それも美人美少女と酒を飲めたんだ得をしたのはこっちだ」
うん、俺は男だけどな?
そう言いたいのは山々だったが、此処でそれを言っても何の意味もない。
それに彼を満足させておけばまた情報を貰えるかもしれないからな。
俺は笑みを浮かべるつつ、考える。
アンデッドは倒したが、貴族が絡んでいるのであれば進展がないか現場を必ず見に来るはずだ。
そうなると、厄介だな。
どうにかしてその貴族の娘を止めないといけない。
被害者はまだ兵士だけ……なんて悠長な事を言っている訳にもいかない。
もう、すでに兵士達は殺されているんだからな。
「まさか、やり合うって言うんじゃないだろうね?」
トゥスさんは声を低くして忠告するように言って来たが、まさにその通りだ。
「どっちにしろ、貴族がやってることは悪質だ……罪もない人に罪をかぶせて殺してるんだ……許す訳にはいかない」
勿論、理由はそれだけじゃない。
「ここにはイリスも住むんだ、この子に被害が行くようじゃ折角仕事を考えたのに意味がないだろ?」
「――っ!?」
俺がそう言うとイリスはびくりと身体を震わせる。
そして、何故か俺の目を悲しげな眼で見てきた……どうしたんだ? 住む以上、何かあるかもしれないんだ。
もしかして、置いて行かれるのが嫌なのだろうか?
でも、旅は危険だしな……。
「うへへ、流石キューラお姉様です……凛々しいです」
「お姉様は止めろ!?」
クリエはおちょくっているのか? いや、多分あれは本気でそう言っているのだろう。
ああ、なんだこの恥ずかしさ……こんな事になるなら歳の事は言うんじゃなかった。
「っておい、お嬢ちゃん達やり合うとか悪質とか……相手は貴族様だぞ?」
情報通にそう言われたが、勿論理解している。
だが、そんな事は関係ない……。
人としてそのお姫様とやらはやってはいけない事をしているんだ。
貴族となれば例えまだ統治する立場でなくとも街に影響を与える存在。
顔も知らないが、その貴族は許すことはできない。
そう言えば、姉が居るとの事だが、もしかして俺達があった方だろうか? それとも妹? だが、あの貴族はもしかしたら姉の方なのかもしれないな……。
とにかく、予想は予想どちらだか分からない事には……対処のしようがないな。
「それで、そのお姫様ってどんな奴なんだ?」
「ん? ああ……見た目はそりゃ本物のお姫様みたいだ。丁寧な口調だが、口は悪い。姉の方はさっき言った通りまぁ普通ではあるが、口と頭がよく回る。その為良く妹は黙らされて顔を真っ赤にするらしい」
…………。
それを聞いて俺とクリエは顔を見つめ合う。
「それって……」
「ああ……多分」
多分、俺達があったあの貴族のお嬢さんだ。
参ったな、あっちが妹なのかあの兵士さんは無事だろうか? そこは心配だし彼の為にも事は急がせた方が良さそうだ。
とはいえ、どうやって更生させる?
「……本気なら止めないが、気を付けろよ」
情報通は俺達へと真剣な表情を向け、そう身を案じてくれた。
俺は頷き……。
「ああ」
とだけ答えると、彼は再び酒を煽った。
外へと出た俺達は街の中をぶらつく。
するとなにかがどん、とぶつかり俺はそれを確かめるため視線を下に向けた。
「ん?」
どうやら俺は少年にぶつかったようだ。
孤児……貧民だろうか? ボロボロのフードローブとも言えない布切れを被った彼は何かを手に持っていて、それを俺へとわざと見せつけるようにしてきた。
「っておい!? それ――!」
俺の財布、そう言おうとした瞬間、少年は走り出し……。
「チッ! 待ちな!」
何が起きたのか気が付いたトゥスさんは腰から銃を引き抜こうとしている。
「待て、トゥスさん待て!?」
俺は慌てて彼女を押さえると少年の方へと目を向けた。
確かに早い……早いんだが、どうにもおかしい。
「普通スリならもっと早く逃げるはずですよ?」
クリエも様子がおかしい事に気が付いたのだろう、そう呟き……。
「追いかけて欲しいのかも?」
「ああ、追いかけてみよう」
イリスの言葉に俺は頷いた。




