19 クリエの異変?
魔王を倒すべく旅立ったキューラ達。
彼らは二人の冒険者カインとチェル、そして懐いた魔物スライムのライムを一行に加え、クリードの街へと辿り着いた。
チェルに頼られ浮かれたクリエに変わって街に入る理由を告げたキューラのお蔭で無事入国が認められたが、使い魔の登録証を求められたキューラは懐いたばかりだと言う事を告げたのだった。
「では、こちらをご覧ください」
そう言われて俺が目を向けた木の板には早い話、規則が書かれていた。
まず、使い魔を街で暴れさせてはいけない……当然だな。
次に書かれているのは登録証は再発行にお金がかかる……20ケートはちょっと高いが街の安全を保障する証だし仕方ないか。
最後にやむを得ない場合を除き使い魔と主人は別れて行動をしてはいけない。
やむを得ない状況というのは以下の場合を含むっと……
えーと、依頼により使い魔の方が行動をしやすいと判断した場合。
人型の魔物、尚且つ異性に限り風呂やトイレ、または着替えなど……
……ライムのやむを得ない場合ってなんだ?
「スライムはその――」
「前例が無いので……詳しくは分かりません、ですが汚水を真水に変えるなどの依頼の際に井戸などに入る場合、主人が一緒に入る訳には行きませんので……」
まぁ、そうだよな……
「それと人型の魔物ではないので入浴時などは……」
そこまで言いかけた門兵を手で制し俺はふと考える。
スライムは水の魔物だ。
酸などを持っているけど生息地からしてそれは間違いない……と言う事は風呂は不味いんじゃないか?
「風呂は一緒に入れない、後トイレもだ……」
というか、うん……突然ライムが襲って来ないとは限らない。
薄い本展開はやめていただきたい……元男の俺がそんな風になっても誰も特はしないだろう……クリエ以外は――
「そうですね、その方が良いでしょう」
門兵は頷き、何やら羊皮紙を取り出しペンと一緒に俺へと差し出して来た。
「こちらに貴女の名などを記入してください」
「ああ……」
俺は言われるがままに書いていき……
門兵はそれを受け取るとぴたりと固まってしまった。
ん? 俺なんか書き間違えたか?
「えっと、性別を間違えておられますよ?」
はははっと笑い声が聞こえ、慌てて羊皮紙を見るが……
男と書いてある……何も間違っては……いない。
「男性っぽい話方ですが、一応は正式な書類ですので――」
申し訳なさそうに告げて来る門兵には俺は男だ! と言いたい所だが、クリエの時みたくなっても困る。
「もう、キューラちゃんったら、そんなに可愛いのに男なんて書いたら駄目ですよ?」
そして、お前は何を言っているんだ? 俺の主人たる変た……勇者様は理由を知っているじゃないか……
「すみません、父に男性として育てられたのでつい……」
この場にふさわしいだろう言い訳を告げると俺は複雑な思いで男の部分へと横線を引く――
「え? お父様はそんな事言ってませんでしたよね? 寧ろご両親嬉しそうに――」
だが、空気を読まない勇者の言葉に俺は思わず――
「お前はもう黙ってろぉぉぉおおお!?」
そう言わざる終えなかった……
「キュ、キューラちゃん?」
「なんだよ……」
街の中を歩いているとクリエが声を掛けてきた。
先ほどの事で怒っていると思ったのだろう、何処か遠慮がちだ……
「その、さっきの事……」
「もう良い、それよりも宿だ宿」
実はあの後、俺の声に焦ったクリエは要らん事を言い始めてしまった。
そう、魔王が神大陸に刺客を送り混血を襲ったということだ。
その所為で詰所の中は当然混乱……
「その、私……」
「だから気にするなって……お蔭で時間が掛かりそうだった謁見が明日になったんだ」
そう、例え勇者でも王の謁見までは融通が利かないらしく、待たなければならなかった……
しかし、事が事、緊急事態という訳で偶々そこに居た王国兵が明日の謁見を許してくれた訳だ。
とはいえ、これで魔王が牙を剥いたのがばれてしまった……
いずれ神大陸にある他の王国にも話が行くだろう……って事は討伐を急ぐ必要があるかもしれない。
まぁもともと早めに倒したいとは思ってはいたが、仲間を探すのに時間をかけられないのは辛いな。
「……魔王…………」
チェルは青い顔をして俯きながらその言葉をぼそりと呟いた。
それを聞きクリエは泣きそうな顔を浮かべ――
「あのなクリエ、どうせ数日後には謁見でしゃべる事になってたんだ……それが早まっただけの事だ……確かに焦って言ってしまったみたいだが、俺も悪い、あんまり自分を責めるな」
「でも、私は勇者で……皆の暮らしを……」
はぁ……何言ってるんだコイツ……
「例え勇者だろうが何だろうが、世の中に居る全員助けられるのか? 違うだろ!」
「でも……私の所為で……」
ああ……もうキリが無いな……
「私が口を滑らせなければ……きっとこの街の人はすぐに事実を……」
「…………あ、あのさ、そんなに悪い事なのか? 寧ろ知ってた方が対処のしようがあるんじゃないか?」
クリエの落ち込む様子を見て流石にカインも心配しているみたいだ。
「カインの言う通りだ、対処が出来る分、何も知らないのと知っているとじゃ大違いなんだ。さっきも言ったが謁見後にはばれる事だろ? クリエが罪悪感を覚える理由が無い! そんなに気になるなら早く倒せば良いだけだろ?」
実際倒すとなるとそう簡単には行かないだろう……だが、勇者ならそうではない。
変態ではあるが彼女は本物だ……それはその瞳や従者の契約、実際の戦闘で判断は出来るだろう……
それに嘗ての勇者は魔王を倒したんだ……だったら、不可能ではないはずなんだからな……
「…………早く……倒す……」
だが、クリエは何故か身体をびくりと震わせた。
もしかして怖いのか? それはそうか、いくら勇者と言ってもクリエは女性だ。
いや、相手は魔族の王なんだから、性別関係なしに怖いよな……・
俺はまぁ、魔王に感じている感情はこんな姿にされた『怒り』しかないから怖がってる暇はないんだが……
「……心配なら仲間をもっと集めよう、とにかく今後の事は後で考えるぞ」
「…………そう、ですね……」
なんなんだ……? 何でクリエはそんな怯えた表情を浮かべる。
何か引っかかるな……そう言えば面接の時も表情が変わった事があったな? 何かが引っ掛かる……
いや、待てよ、俺はなにか忘れてるんじゃないか? 確か学校で聞いた覚えが……クソッ! なんだったかなぁ……
何かを思い出せない、その事に憤りを感じていた俺だったがそれを思い出すのはそう時間が掛からなかった……