1 ターグとの特訓
夢を見ていた少年キューラは同室の少年ターグに起こされる。
どうやら剣の練習に付き合えとの事でキューラはしぶしぶ了承をするのだった……。
「ったく……」
「ぅぉ……」
俺はターグの奴に呆れつつ、着替えを済まそうと服に手をかける。
「おい……」
今なんか、変な声が聞こえたよな?
俺はそう思いターグの方へと目を向ける。
すると彼は明らかに目を逸らしやがった……。
「な、なんだ?」
「いや、なんだ? じゃないなんだ? じゃ! うぉってなんだよ」
そう聞くとターグの奴は顔を赤く染め上げ慌てて首を振る。
何やってんだこいつ?
「いや、変な意味じゃないぞ? ただ女の子が脱ごうとしてるって――」
「だから俺は男だって言ってんだろうが!!」
こいつは何を言っているんだ?
こいつと相部屋になってからもう随分と経つはずだってのに……。
そりゃ、最初はこいつは女の子と相部屋だって勘違いしたからこの容姿と声を利用させてもらって悪戯したけどな。
「いい加減慣れろよ……」
そう言って俺は鏡の前へと立つ。
そこには男としては背が小さく肩より少し長い黒髪。
左の目は赤く、右の目が黒い。
そして小顔で可愛らしい少女の姿が映っている。
いや、正確には少年で少女ではないんだけどな……。
「本当見た目だけは美少女だよな? どうだ一回女の子の服を――」
「やめろ! やめてくれ!!」
それだけは嫌だ。
何故かって? もうすでに両親にやられているからだ。
両親は俺が女の子として生まれると信じて疑わなかった……。
地球の様な機械や技術があったとしてもたまに見間違える事があるってのに何を根拠に女の子だと思ったのかは謎だがとにかくそう思っていたらしい。
その所為で男だった俺にがっかりしたそうだ。
とはいえ、それでもちゃんと育ててくれた事は感謝してるし、何か不自由があった訳じゃない。
そう……たまにさせられていた女装と他に思いつかなかったと言うキューラと言う名前以外はな!!
「お、おい……そんなに怒るなよ」
「え? ああ……悪い」
ターグに指摘され俺は慌てて顔を和らげる。
鏡を見たら凄い顔になってたな……。
この顔で今の表情はヤバい……ある種の人物が変な性癖に目覚めそうだ。
「とにかく気になるんなら外でてろ」
「ああ、そうする……いつもの場所に居るからな! 木剣忘れて来るなよー?」
ターグはそう言うと部屋の外へと走って行く……その時の顔は心底嬉しそうな物だった。
たく、アイツは……世話のかかる弟みたいな奴だ。
歳は俺と同じ15のはずなんだけどな。
「っとあまり遅いとまたグチグチ言われるな……」
そう呟いた俺は着替えを済ませ、木剣を手にいつもの場所へと走る。
この時、俺は夢にも思わなかった……これが俺の人生を狂わせる選択になるなんて……。
「遅いぞ! キューラ!」
いつもの場所へと着くともうすでにターグは素振りをしていた。
「悪い、始めるぞ!」
俺は軽く謝ると木剣を構える。
するとターグも同じように構え、大地を蹴り俺へと向かって来た。
流石は戦士、騎士科専攻だけあって速い――だが、小手調べって所か、俺は打ち込んでくるだろう場所に合わせ剣を振る。
が――。
「へ!?」
来るはずの衝撃は来ず、俺の剣は空を切り呆けた声を出す。
「貰った――!!」
ターグはそう口に俺の脇腹目掛け剣を振っていた。
昨日までの彼とは段違いの速度だ……。
予想もしなかった出来事に俺は驚くと彼はニヤリと笑いすんでの所で木剣を止める。
「よし、まずは一本だな……」
「待て、ちょっと待て……」
なんだこれ、勝負にならないじゃないか……。
「なんだよ?」
「いや、それはこっちの台詞だって今の動きはなんだよ?」
俺がそう聞くと彼は「ああ」っと呟いた。
「昨日習った疾風の型だ。ワザと受けやすい一撃を放ち、すぐにそれを変える技だよ」
おいおいおいおい……やってることは単純だがまるっきり対応できなかったぞ!? つまり、格下相手ならほぼ勝ち確ってことじゃないか!?
「つまり、型の練習をしたいがために俺を起こしたんだな?」
「へへへ、そう言う事! じゃ、身体に馴染むまで頼むぜキューラ」
「はは、はははは……」
打たれる方はかなりひやっとするんだが?
クソッこんな事なら惰眠を貪っておくんだった……。
それからかなりの時間をターグの練習に費やしていた。
俺はひたすら冷や汗をかく一撃を放たれてただけだったが……というかターグよ……。
君は一体、どれだけ俺を虐めれば気が済むのだろうか?
「ふぅ……大体出来上がってきたな」
「ぜぇ……はぁ……ターグゥゥ……げほっ……」
こ、この野郎……人をこき使いやがってぇ……。
「お、おい……キューラ……お前運動不足すぎじゃないか?」
何を言う、これでも以前の5倍以上は動いているんだぞ!?
まぁ1から5になっただけだが……。
「と、とにかく休憩だ……」
俺はそう言うと近くにある井戸で水を汲もうと思いそちらへと向かう――。
「あ、俺が用意するよ」
「そうか、悪いな……」
そんな何気ない会話を交わし、俺はターグの持ってきた水を一気に飲み干す。
喉を流れる冷たい水はやはりうまい……そんな事を思いながらようやく息を整えた所だ。
「キャァァァァァァ!?」
聞き覚えのある女の子の悲鳴が聞こえ、俺達は目を合わせる。
俺達が居る街ベントでは冒険者学校があり、教師として腕利きの冒険者が居るせいか事件は少ない。
だが、今聞こえた悲鳴はただ事ではないのが分かりった。
まさか、魔物でも入ったのだろうか?
いや、でもそんな事が起きるはずがない。
「ターグ、早く先生達を!」
「ってお前はどうするんだよ!?」
「俺は先に女の子の無事を確かめて来る! なに、俺には短縮魔法もある。真剣が無いなら俺が行った方が良い!」
真剣さえあればターグに任せたい所だが、木剣じゃ心もとないからな。
俺がそう言うと彼は頷き――。
「分かった、すぐに呼んでくる無理だけはするなよ!!」
そう言って走り去っていく、それを見送ると俺はすぐに悲鳴の聞こえた方へと駆け始めた。




