188 貴族の少女
宝石を手に入れるため、キューラ達はロクタと戦う。
無事、宝石は手に入れたのだが……。
どうやら厄介な相手に掴まってしまった様だ。
「管理って……別に入って物を取っちゃいけない訳じゃないだろ?」
俺はそう言うと彼女は地面をダンっと勢いよく踏みつけ――。
「ええ、此処は確かに開放しております! ですが、貴女方は兵が止めたにもかかわらず入り、そこまでは良いとしても洞窟を潰したのです! これが許されることだとはお思いですか?」
いや、まぁ……そこは確かに悪かった。
こっちもやり過ぎたというか……言い訳はできないな。
だが――。
「それでも、あのロクタが表に出ないのは良い事じゃないのか? 潰れる所はこの目で見た」
いくら貴族とはいえ内部での事を一部始終伝えた方が良いだろう、そう思ったんだが……。
彼女はクリエへと目を向けるとどこか冷たい、いや隠そうともしない冷たい視線と共に口を動かす。
「勇者様? この非常識極まりない従者を黙らせたらどうですか? それに、いくら勇者と言えどなんでもゆう事を聞けるわけではございません……寧ろ、被害を出したくないならそうできたはずですが?」
「え……あ……」
普段ならクリエがデレデレとしそうな位の女性ではあった。
しかし、貴族は貴族と言った所なのか、言葉を聞くなりクリエは一歩後ろへと下がる。
「なんとか――!」
それを見て苛立ちを見せた貴族とクリエの間に俺は入り込み。
「とにかく、洞窟が潰れたのは確かに俺達の失敗だ。だけどロクタはもう居ない、宝石もまだある時間が掛かっても掘り進める価値は残ってるぞ」
そう、塞がってしまったのなら掘り返せばいい。
それに幸いけが人は誰も居ないんだ。
ならこれで――。
「その労働力、時間、それがいくらかかるかご存知ですか? お嬢さん?」
そうは言ってもな。
あのままじゃいずれ――。
「それで、勇者様ともあろう形は何故こんな子供の後ろに隠れようとしているんです? 情けない、それで危機に立ち向かえるのですか?」
「っ!?」
俺の後ろでクリエが息をのむ声が聞こえた。
危機――つまり、それは……奇跡を使う時の事だろう……。
こいつもやっぱり同じか……薄々、というか最初からそんな感じはしたけどな。
それにしても……やっぱり、こうなってくるとクリエのストレスが酷いな……どうにかして……いや、まてよ?
勇者の条件、それは金色の髪と同じ色の瞳。
そして、奇跡を扱えるという点だ……。
金色の瞳は珍しく勇者以外は居ないとされている……。
だが、クリエが勇者だと判断するには見た目だけの問題なんじゃないのか?
と言う事は……見た目さえどうにか出来れば、特に瞳の色さえ変えれれば……クリエは勇者として見られない?
なら、その方法は案外簡単なんじゃないか? 出来るかどうかは分からないが……。
「勇者ならいい加減に――!!」
さっき考えてた事から早速勇者じゃない……そう口にしたかったが、此処で何を言っても駄目だ……。
「俺は子供じゃない」
「は?」
なら、こっちで行くべきだろう……。
「これでも俺は30を越してる……呪いの所為で子供にはなってるが、子供じゃない……訂正してくれないか?」
「キュ、キューラちゃん?」
嘘は言っていない……とは言っても、これにはちゃんと目的があり言った事で予想通り――。
「え? の、呪い……? そんな呪い……いえ、ですが、ないとは……」
「キューラちゃんが……30? つまり、お姉さんって事ですか? えと……ああ……でも、それもありかもです……うへへへ」
混乱をしている。
余計な人も巻き添えにしてしまったが、そこはまぁ……放って置こう。
「いくら勇者とはいえ、まだ子供……とまではいかないが、女の子には変わりがない、これからの危機に対する不安や恐怖はある。君が勇者だったとして全く怯えずにいられるのか? 出来ないだろ?」
「それは……そう……いえ! 勇者は――」
「その時までにしっかりと覚悟を決めてもらわないといけないんだ。余計な事で茶々を入れないでほしい……これは俺達従者が決めた事だ」
俺がそう言うと貴族は口をパクパクとさせ――。
「で、ですが! ここは――」
「いい加減しろ!! ここに魔物が居たら、何時這い出てくるか分からない!! あの魔物を倒せば時間はかかっても掘り直すことはできる! 人の命は一つしかない回復魔法も命までは取り戻せないんだぞ!!」
怒り狂ったようではなく、あくまで冷静な大人の様に強い口調で貴族へと伝える。
ここで感情的になるのは簡単だ。
だけど、重要なのはクリエから話題を逸らし、洞窟での事を言いくるめてしまう事だ。
「それは……」
「強い冒険者を派遣すればあの程度すぐに倒せたはずだ。そうしなかったのはなんでだ? 洞窟が潰れる事は既に分かっていたんだろ? 奴が居る事で支柱となり崩れないと分かっていたんじゃないか?」
あくまで予想だ。
はっきりとは分からないがこういう時は自信を持って言うに限る。
その証拠に――。
「そ、その……」
「だが、そんな状態でも魔物は魔物、さっきも言ったがいつか出て来ていたかもしれないんだぞ!? それはちゃんと計算に入れていたのか? もし入っていたとしてもその後の事は考えていなかったんじゃないか?」
「――っ!」
貴族の少女は瞳を丸め、表情を変える。
図星……だったか……計算の内には入っていただが、言った通り魔物が出てきた時の事は考えてなかった様だ。
「……こ、今回の件は特例を持って許して差し上げます! ですが、二度とこの洞窟には足を踏み入れない事を条件です! 良いですね!!」
青い顔をしながら少女は兵を連れ去って行く……何とか、なったか……。
「うへ、うへへへ……キューラお姉様も捨てがたいです……」
しかし、このクリエはどうしようか……。
「おーい、戻ってこーい?」
クリエにそう言うと彼女ははっとし――。
「な、なんですか? キューラお姉様」
猫なで声でそんな事を言い始めた。
うん……やめてくれ。
「いや、あいつを騙すための嘘だって……俺に掛けられた呪いは効果が無かったクリエも分かってるだろ?」
「そ、そうですか、ちょっと残念です」
いや、残念がる事なのだろうか?
「とにかく、戻ろう」
俺は彼女にそう提案すると笑みを浮かべたクリエは頷き。
「はい!」
と答えてくれ、一緒に街へと戻り始めた。




