186 動かぬ強敵
宝石を見つけるために鉱山の中を進むキューラ達。
そこに入口で聞いた魔物……宝石喰いに遭遇した。
火を吹きまるでドラゴンの様な魔物は道を塞ぐほどの大きさで……?
「ま、真正面からではどんな魔法も難しいですね」
俺があれこれ考えているとクリエはそんな事を口にした。
「真正面からだと難しい?」
「はい、キューラちゃんの魔法で有効そうなのは氷ですが、真正面からだと溶かされた上に蒸発しそうです。もし私が魔法を使えても同じだと思います」
なるほど、確かにそうだ。
クリエが魔法を使えたとしても蒸発してしまったら最後、水の魔法として操ることが出来ない。
ってことは……。
「あれが出来ないと……」
俺の頭に思い浮かんだのは自分の意思で魔法の出現場所を決める技。
まだ正式な名称があるのかさえも分からないあれを成功させないといけない。
「……あれ?」
「……いや、なんでもない」
駄目だ、冷静に考えろ見えない場所に空間が広がっているとは限らない。
それに下手な事をして洞窟が崩れるのはマズイ。
「何か手は……」
とは言え、あの魔物はあそこから動けないだろう。
ん? 動けない……?
確かにあの魔物は強力だ。
まるでドラゴンの様な息吹を持ち、近づくのは困難を極める。
だが、大きくなりすぎて動けない。
戦うとすれば道も一つしかなく、勝つには俺がピンポイントで口元に魔法を出現させ叩き込むしかないだろう。
幾らクリエでも火を噴いている間に近づいて切り倒すって言う芸当は出来ない。
つまり、無詠唱かつ、迅速にそして正確に魔法を使うしかないが……逆に口元を狙わないならどうだ?
相手は動けないんだ無理に戦う必要はない。
だが、近づかなければあの宝石は取れない……相手を無効化する方法があれば倒す事だって――。
いや待て、その前に気になる事がある。
「なぁ、アイツってどうやって餌を取ってるんだ?」
「……さぁ? ロクタは舌が長い事と聞いた事がありますし、舌で取ってるんじゃ? じゃないと生きながらえるなんて事は――」
出来ない。
クリエの言っている事は確かだ。
どんな生き物でも食事は必要のはず……冬眠する動物だって食料はため込むんだ。
なら……奴もそうしているか、それとも今クリエが言った通り舌で餌を取っている事になる。
クリエも言っていたじゃないか、成長し過ぎたみたいだって……つまりあれは異常だ……。
だとしたら、あの場から動けない可能性は高い。
現に今も動いていない……。
「ライム!」
俺は一つの方法を思いつきライムの名を呼ぶ。
疲れた様子のライムはプルプルと震えているし、かわいそうだけど作戦にはライムの力が必要だ。
俺は水袋の水をライムへと与え――。
「頼みがある、俺が魔法を撃ち続ける間守ってくれ……」
「キュ、キューラちゃん!? 撃ち続けるって何をするつもりなんですか!? 流石にあれは無理です。他にも宝石はあるかもしれませんし探してからでも」
クリエの言いたい事は分かる。
だけど……。
「いや、あいつは倒す。このまま外に出られても面倒だ」
動け無さそうだけど万が一って事もあるからな……。
俺はそう言うとライムへと作戦を伝え、それを聞いたクリエの顔はみるみるうちに表情を変えていく……。
「無茶です! 無理です! 危ないです!!」
「でも、このまま放置してたら、いずれ外に出る今俺達以外誰が居るんだ?」
強い奴と言えば奴隷商の混血だが……かといってあいつが何の目的もなくこんな所に来るはずもないからな……こいつはこのままここで放置される。
そして、先ほど口にした通り下手をしたら出てきてしまう……あの街にはイリスも居る。
知り合いがいるんじゃ……。
「可能性があるのに逃げる訳にはいかないだろ……」
何も対処せずに去るなんて出来っこない。
俺はそう思うとライムと共に再びロクタの前へと躍り出る。
「レムスはクリエを守ってくれ!!」
そして、もう一人の使い魔にそう告げ、魔物を睨む。
「キューラちゃん!?」
クリエは俺の方へと手を伸ばすが、今度は追って来る事はしなかった。
いや、出来なかったと言った方が良いかもしれない。
レムスによって邪魔され、クリエはその場にとどまるしかなかったのだ、
「ちょ、ちょっと退いてください!! キューラちゃん! 戻って来てください!!」
そうやって怒ってはいるが、我慢して欲しい。
今回はクリエが居るとライムの負担が増えてしまう。
「よし、行くぞ……ライム!!」
『……………………』
ぷるぷると震える相棒に俺は声をかけ、目を閉じる。
落ち着け、魔物は狙わなくていい……狙うのは――。
「天井だ!!」
叫ぶようにそう口にした俺は奴の目の前の天井を睨み――。
「我願うは――」
――詠唱を始めた。




