183 赤い宝石
クリエに連れられ、辿り着いた場所はドワーフの店だった。
イリスが依頼を受ける中、キューラは自身の事を尋ねられたが、答える事は出来なかった。
その理由は彼が……心の中に誓っている事が原因だった。
そんな彼を屑と呼んだドワーフだったが、どうやら依頼はしてくれるようで……。
イリスは早速、修理をしようと試みるのだが材料が足りないらしい……。
俺は騒ぐクリエに困りつつもドワーフのおっちゃんに目を向ける。
「それで、その山は何処に?」
俺は地図を広げ、訪ねる。
近くにあるとは言っても山は色々あるからな……。
もしかしたら数ある山の中では遠いが鉱山としては近くにある、なんて事もあり得る。
「ここだ」
ぶっきらぼうにそう言ったドワーフが示した場所は本当に街の近くだった。
ここなら上手い事行けばその日のうちに帰って来れるかもしれない。
そう思っていたのだが……。
「キューラちゃん……」
がっくりと項垂れる女性が一人。
彼女はこの世の終わりの様な表情を浮かべると……。
「駄目です、可愛い女の子が一人でそんな所行ったら……山賊なんかに襲われて、挙句の果てには!」
そして、俺の肩を掴むと揺さぶり始め……。
「ちょ!? ク、クリエ!?」
俺は思わず叫び声の様な声を上げてしまう。
だが、それに構わずクリエは――。
「もし、もしそうなったら責任は取ってくれるんですか!?」
「は!? ゆ、勇者殿はなにを――」
「取ると言われてもあげませんけど!!」
あーうん、クリエが暴走していらっしゃる。
なんというか、ここまでだったか? なんか随分と依存をされてしまっているような気がするな……。
と、とにかくこのままじゃマズイ。
「分かった、分かったから……なぁ、イリス」
俺は最早止まらないクリエを嗜めようとイリスへと声をかける。
「なに?」
彼女はクリエの暴走に驚きつつも必死にお姉ちゃんを演じているのだろう。
近づいて来ると頭を撫でてきた。
「頼みがある、修理の金額から剣を一本貰いたいんだ……じゃないと……」
「キューラちゃん……ああ、かわいそう……そうなる前にっ!?」
俺が危ない……。
それは言わなかったが、イリスは引きつった笑みを浮かべ……。
「だ、大丈夫」
とだけ答えてくれた。
「助かる」
俺は彼女の好意に心底感謝しつつドワーフのおっちゃんへと伝える。
「すまないが、剣を一本クリエにもらえないか? その、報酬の前払いとして……」
「わ、分かった……それ位なら安いもんだ」
彼もまた引きつった顔を浮かべ、答えてくれると一本剣をクリエへと差し出す。
「ほら、持っていけ……」
「……クリエそれを持ってならついて来て大丈夫だぞ……」
俺はクリエに恐る恐るそう言うと彼女は満面の笑みになり……。
「はい!」
嬉しそうに答えたが……なんというか、うん……これからは単独行動がしづらいかもしれないな。
武具店から出た俺達は一旦、宿へと戻った。
理由は勿論、トゥスさんに黙って出掛ける訳にはいかないからだ。
「とまぁ、クリエの武器を直すにはまず金槌と金床を直さないといけないらしいんだ」
俺は戻ってきた理由を彼女へと告げる。
するとトゥスさんは一切こっちを向くことなく作業をしていた。
「それで、それを探しに行くってのかい?」
「ああ……」
トゥスさんは銃の修理をしながら、俺が伝えた事に答え……。
近くにあった石を手に取るとそれを投げてよこした。
「おお!?」
何とか無事それを受け止め、危ないなっと文句を言いかけるとトゥスさんは気にする様子もなく――。
「恐らくその宝石は熱に反応して光る。そいつが役に立つはずだ」
それならカンテラに火を灯せばいいだけじゃないか? とも思ったが――。
「カンテラで近くを探すより、そいつで広範囲を探した方が手っ取り早いからね」
と言われてしまった。
「な、何で考えてる言葉ばれたんですか!?」
クリエは俺と同じ事を思い浮かべていた様で驚いている。
そんな中、トゥスさんはようやく此方を向き――。
「よく素人が、そう言うのさ……まっ大体の奴は探し方が分からなくて結局、見つからないなんて事も多いからね」
な、なるほど……。
やっぱり宿に一度戻ってきてよかったな。
そのまま行っていたら何の収穫もなく戻って来ていたかもしれない。
「それじゃ気を付けて行ってくるんだよ」
彼女はそれだけ言うと悪人っぽい笑みを浮かべた。
何か裏があるのだろうか? そう思ってもおかしくはないのだが、これか彼女の素だ。
俺とクリエは共に頷き――。
「「ああ、行って来る」」
声をそろえ、宿を後にした。
目指すはドワーフのおっちゃんに教えてもらった鉱山。
そこにあるという赤い宝石を手に入れる。
そして、後はイリスに任せると……武器は直せるし、イリスはこれを始めとして徐々に認知されるだろう。
「よし! 気を抜かずに行くぞ?」
「ええ、気を付けましょうね」
失敗は許されないな……そう思いながら俺は歩き始めた。




