18 王都クリード
スライムに懐かれたキューラ……
彼はチェルの言葉を受け、スライムにライムと言う名をつけた。
新たにライムという奇妙な仲間を得た一行は王都クリードへと向け再び足を動かすのだった……
「あれがクリードですよ」
クリエが指を向ける場所には壁の中に目立つ大きな白い城がある街。
俺達が住む神大陸にある王の住まう四つの都市の一つだ。
それにしても、近くで見ると凄いな……あの城は……
もしかして、もっとまじかで見られるんだろうか? いや、勇者が居るんだきっとそうなんだろう……
「それにしても……」
俺は視線を下げ、門の方へと目を向ける。
「凄い人だな……」
「王都ですからね、商人や騎士になりたいといった方が多いんですよ……さ、行きましょう」
いや、行くって……
まさか、あの列に並ぶのか? そうだよな……街の中に危険人物を入れる訳には行かない。
検問は大切だよなぁ……
「ってクリエ?」
俺が最後尾へと並ぶとクリエは歩いて行ってしまい、慌てて追いかける。
「クリエさん何処に行くんですか!?」
チェル達も俺の後を追いながらクリエにそう問うと彼女は此方を振り返り首を傾げる。
いや、何を言っているのか? みたいな顔をされてもな……
「あ!」
俺達も同じような顔をしていたのか、クリエは俺の顔を見るなり一瞬考えるそぶりを見せ、すぐに彼女は何かに気が付いたのか両手を合わせる。
「私は勇者ですから、並ばなくても良いんです。勿論門兵に何が目的で来たのか話さなければいけませんが」
「そ、そうか……じゃぁ、俺達は並んでるよ」
流石勇者特権だな。
そんな事を考えていると再びクリエは首を傾げ……
「キューラちゃんは従者ですし、二人は私が危険性はないって伝えますから入れますよ?」
「…………そ、そうか」
「いいのか!? だって他の人は並んでるんだぞ?」
そう満面の笑みで言うカインはもう少し表情を押さえた方が良いな……
さっきから俺達の話を聞いていて、穏やかではない視線を送って来てる人達が居るぞ。
「そ、そうですよ……だって皆さん……」
チェルもその視線を感じたのだろう、チラチラと列を見ながら口にする。
だが、クリエはそれを見ても――
「並んでも良いですけど、この人数ですと最悪一日かかる場合もありますよ? そうなると宿が取れない可能性も……」
そう言われると途端にチェルの顔が引きつった。
そりゃ、そうだよな……今の彼女は泥だらけだ。
理由は勿論、カインの所為で3日も彷徨う事になった訳で身体を綺麗にしたいだろうし、柔らかいベッドの上で寝たいだろう……
「だが、そうは言ってもなぁ……やっぱり俺達はなら――」
「クリエさんお願いします!」
そして、手の平を返した。
「はい! 任されました」
クリエは満面の笑みでそう言うと何処か嬉しそうに門兵の所まで歩いて行く……俺達は慌ててそれについて行くが、何か嫌な予感がするな。
「何から何まで悪いと思うんだが……」
「そうは言っても私は早くお風呂に入りたいの!!」
チェルはカインにそう強めの口調で告げた。
そうだよな……街の外だと何時魔物に襲われるか分からないから大した護衛も無しで水浴びなんて危なくてできない。
いや、本当ライムの件で嫌って程味わったよ……
「あそこに居るスライムを連れた可愛いくて抱きしめたい子が私の従者のキューラちゃん……ですぐそばに歩いている可愛い女の子がチェルちゃんです、そしてそのチェルちゃんの仲間のカイン君ですよ」
っておい……俺が一人で街の外に危険性を考えている中、お前は何て紹介をしているんだ……
やっぱり頼りにされて浮かれてたか……両親に合わせた時の事が蘇ってくるぞ……
百歩譲って従者である俺は証拠見せろと言われれば見せられるから良い。
しかし、それでは二人が安全な人だとは分からないだろう……後その紹介ってカインがおまけっぽくないか?
「そ、そうですか……」
ああ、門兵が困った様な顔で俺を見て来た……しかも、すぐにその顔を落胆させやがった……
確かに俺は15で見た目は更に子供だけど一応生きてきた年数だけで計算するなら32だぞ? って言っても仕方が無いか……
「すみません、俺は勇者クリエの従者です……こちらの二人はカインとチェル、ベントの街から少し歩いた所で出会い、ここまで行動を共にしてきました。短い距離ではありましたが、この二人には助けられました。したがって安全は保障いたします」
そう言いつつ俺は何時も魔法を使う時の様に魔力を練ってみる……実はクリエに証拠の見せ方は聞いておいたんだ、すると、首筋がじんわりと温かくなってきた。
恐らく従者の紋章も浮き上がっている事だろう……
「そ、そうでしたか、ご丁寧にありがとうございます……お待たせして申し訳ございませんでした。そちらの方々もこの街へ来た目的を言っていただければすぐにお通しします」
門兵は一瞬驚いたような顔を浮かべたが、まぁ……うん、一つ分かった事がある。
「キューラちゃんって可愛くて魔法が得意ってだけじゃないんですね!」
「そう言いながら抱きつこうとするな……というか、もっとましな説明は無かったのか?」
あれじゃ何一つ分からないだろうに……
少なくとも俺が門兵だったら、この勇者は意味も分からない3人組に騙されているんじゃないか? と心配になるぞ……
ましてや一人は魔物を連れているんだ……怪しく思っても仕方が無い。
「では、クリードへいらした理由は?」
門兵は何故か俺に問い、俺は思わずクリエの方へと向く……
目的は魔王を倒す事、仲間集めは勿論だが情報も必要だ……しかし、魔王が牙を剥いたと言う事は此処で伝えない方が良いだろう……
大混乱になるからな……だから、ここは勇者であるクリエが当初の予定を言うべきだと考えたんだが……
「キューラちゃん、お願いします」
その言葉に俺は盛大にため息をつきながら――
「勇者クリエの旅の途中です。幾日か滞在をさせていただきたいのと王への謁見の許可をいただけますか? そして勇者の気に入る人材が居ればその斡旋なども……」
思いつく理由を並べていくと門兵は引きつった様な笑みを浮かべ――
「か、畏まりました。今日中には王の耳に届けます……大変ですね」
ああ、本当これから先が不安になって来るよ……
コボルトと戦った時のあのカッコイイ勇者様は何処に行ったんだか……というか、クリエは決して頭が悪いという訳ではない。
だが、浮かれると駄目だ……たった今俺は理解したよ……
「それでそちらの方は?」
「俺は冒険者になる為に来た!」
「カ、カカカカカイン君!?」
「………………」
カインの言葉にチェルは顔を真っ赤にし慌て、門兵は先程の笑みの形からぴしりと固まった……
それもそうだろう、冒険者とは酒場や組合から依頼を受ける。
だが、冒険者ってのは特別な許可は要らない……つまり名乗ったらそこから冒険者であり……
「ん? どうした?」
「カイン、お前はもう冒険者なんだぞ……」
顔を覆ってはいても耳まで真っ赤になってしまっているチェルを気の毒に思いつつ、俺はカインへと事実を告げた……
やっぱり、俺はチェルと気が合う気がするよ……主に手のかかる相棒の所為で……
「では、街に入るその前に従者様はそちらの魔物の登録証をお願いします」
っと、そうだった……
「実は懐いたばっかりなんだ、それでその初めて使い魔になってな?」
「そうですか、でしたらすぐに登録証を発行いたします。こちらへどうぞ」
門兵はそう言うと詰所のような場所へと案内をしてくれた。
門は大丈夫なのか? と思ったんだがなにも兵士は彼だけじゃない……それよりも――
「皆ついて来なくても良かったんじゃないか?」
クリエは当然としてカインもチェルも先に入っていればいいと思うんだが……
「ちゃんとしたお礼もしてないので……私もカイン君もついて行きます」
「そ、そうか……」
早く身を綺麗にしたいだろうにチェルは律儀だな……