180 お店を開こう
黒エルフ、イリスに新たな商売を始めさせようとするキューラ。
商売は簡単精霊石の修理屋だ。
早速準備をするのだが……。
果たしてうまくいくのだろうか?
店のうたい文句はこうだ。
精霊石の修理と調整承ります!
それだけを書いている理由としてはイリスは作ることもできるらしいが、何でもできるエルフはよく金儲けを考える連中に狙われてしまうらしい。
護衛をまだ雇えない現段階では修理と調整だけの方が無難だという事だ。
それだけなら狙われないという訳ではないが、確率はぐんと下がる。
精霊石を作れるというのはそれだけ特別だという事だ。
まぁ……トゥスさんの話なら器用不器用はあれどエルフなら修理は出来るし大体作れる、との事なんだが……そこは俺達は知らなかった情報だからな。
それはともかく……。
「「……………………」」
急遽作った物ではあるが、それなりの看板は用意した。
呼び込みもした。
しかし、客が来ない。
下手をしたら道具や武器を置いていた時よりも来ないかもしれない。
よくよく考えてみればこの商売精霊石が壊れていたり、長年使っていて不安じゃないと客が来ないんじゃないか?
もしかして、いや……確実に俺の案はしくじったのかもしれない。
そう思い恐る恐るとイリスの方へと目を向けてみる。
すると彼女は気にする事もなく笑みを浮かべてその場に座っていた。
「イ、イリス……?」
名前を呼ぶと彼女は笑みのままこちらへと向き……。
「初めてお店開いた時と同じ!」
と言う事を教えてくれたけど……それがまずいんだと思うんだ。
だが、客が来ないんじゃどうしょうもない。
かと言って適当に精霊石の道具を持っている奴をひっ捕まえて無理矢理調整をとはいかない。
この街にもエルフはいるだろうし、それが詐欺だと言われてしまえばこっちが不利になってしまう。
さて、どうしたものか……。
現状閑古鳥が鳴いている……この状況を打破しなくてはならない。
とすると……やっぱり……。
「仕方がない……」
俺は椅子から立ち上がり、こっそり作って置いた小さめの看板を手に取る。
こうなる事はある程度分かっていたという訳ではない。
精霊石の修理が出来る人は貴重だ。
そう思っていたからな。
俺は自身の考えの甘さを感じつつその看板を手に店よりも少し手前へと立つ。
「キューラ?」
イリスは俺の名を呼んだが、何をするつもりなの? とでも言いたいんだろう。
答えは言わなくても分かるだろうし、単純だ。
「精霊石の修理、または調整を請け負います! どなたか必要な方はいませんか!?」
そう、呼び込みは今まで目の前を通った人だけにしていた。
だが、小さいとはいえ目立つ看板を持ち大声で言えば何人かには目に留まる。
そうなれば一人に声をかけるよりも、大勢に聞いてもらえるし、なにより噂になる。
ただ、これをしたくなかった理由は――。
「なになに!? あの子可愛い! 小さいのにお店のお手伝いかな!?」
そう、注目されてしまうからだ。
何故か……可愛いと言われるからな、まぁ可愛いのは十分わかっている事だが、言われて構われるのは勘弁だ。
「後3年……いや、待たずに先に手を……」
あそこでぶつぶつと不穏な事を言っているナンパ男のような奴には特にな。
俺はそんな奴にも笑顔を振りまきつつ、集客をしようと声を張る。
すると……。
「精霊石の修理ねぇ……そう言えば壊れたのがあったな……」
と言う声が聞こえ俺はそちらの方へと走っていく。
声の主らしき男を見つけるとすかさず声をかけ……。
「安くしておきますよ、腕は確かです!」
と告げる。
すると彼は――。
「安くって他の所でも言われたけどな、高くて高くて……おたくもそうなんだろ?」
俺は無言で首を振る。
実際にはエルフであるイリスが交渉をするが、先ずは――。
「ところでどの位の値段で修理と言われたんですか?」
これは重要だ。
向こうよりも安ければ当然有利だからだ。
だが、相手は修理を一回断っているんだろう……それほど重要な物じゃないとしてもここで値段が安いと示すのは悪手ではない。
「ああ、1000ケートだったよ」
なるほど結構な値段だ……。
だけど、少しなら……安くできるだろう。
「1000ケートよりも安く直して見せますよ」
それだけを告げる。
道具や材料、その他もろもろを抜いての儲けがどの位になるかは分からないが……。
一応今日出る前にトゥスさんに聞いていた事がある。
『精霊石の修理はキューラ達が思っているよりも安く済む、高いって言う客が居ても値段を下げてやることはできる……だが、下げ過ぎるんじゃないよ……』
と言う物だ。
そう考えるとエルフって欲深いのか? などと考えてしまうが、恐らくは技術が外に出すぎないようにわざと高くし流通を減らしているんだろう。
「本当か?」
「詳しい話は店主の方がしますが、その金額よりは安くできるはずです」
俺は自身を持って彼に伝える。
すると彼は疑うような視線を俺に向け――。
「まぁ話だけなら……」
と言うと店の方へと目を向けた。
「ではこちらへ」
俺は彼を案内しつつ辺りへと目を向ける。
すると興味がありそうな人々がついて来ているのが見えた。
一人来れば、その後は……。
ここでは他の所よりも安いって事が知られればいい。
最悪この人に依頼をされなくてもこれだけの人が聞いてくれればいい宣伝だ。
「それで、保存するために使ってたんだが」
男が直そうとしていたのは冷蔵庫、のような効果がある精霊石だった。
イリスはそれをうんうんと聞きながら頷くとこちらへと目を向けてくる。
「前は1000だったらしい……」
そう告げるとイリスは考えるそぶりを見せ……。
「900ケートでどうですか?」
と告げる、すると辺りには「おお……」という声が聞こえた。
決して安いという値段ではないが……効果は十分のようだな。




