179 開店準備っ!
店の準備を始めるキューラ達。
彼らは5日は滞在することを伝える。
エルフの少女イリスを心配するキューラ……そんな中、クリエは暴走をしているようだが?
翌日、昨日の続きで店の準備を進めるイリス。
そして、銃の修理に取り掛かったトゥスさん。
最後は……。
「ほ、本当について行ったら駄目ですか!?」
「よ、横で剣を振るつもりか!?」
どうしてもついてきたい様子のクリエ。
だが、彼女には剣に慣れるという以前に武器を直すという大事な目的もある。
俺は貸していた剣を受け取り腰へと身に着けながらため息をつき……。
「鍛冶場は別に市場から遠い訳じゃないだろ?」
それは先程地図で確認したから分かることだ。
しかし、うちの勇者様は……。
「でも、でも私の目の保……心配なんです!」
「まて、今なんて言いかけた?」
明らかに心配したという様子はないだろ!?
黙り込むクリエを俺はじっと見つめると……明後日の方向を見ていた美人は真面目な顔になり……。
「キューラちゃんが居ないなんて耐えれません、それにキューラちゃんとイリスちゃんの二人でお店番なんて天国じゃないですか! 目の保養をさせてください!」
「やけにはっきりと言い切ったな!?」
この勇者は本当に勇者なのだろうか? 俺が突っ込みを入れるとイリスの方は苦笑いを浮かべて一歩後ろへと下がる。
「ああ、昨日は色々考えてあまり眠れなかったんです……」
うへへ、と笑う彼女の妄想はきっと聞かない方が良いんだろうな。
聞いたらきっと後悔するだろう……それにしてもクリエ、脳内がドが付くほどピンクなんだが……前より酷くなってるのか?
「…………だから、キューラちゃん?」
「だからじゃない……とにかく駄目だ。そのままじゃ武器は使えないだろ? それに俺達の勝手な都合とわがままでイリスの今後を決めたんだ。何もしない訳にはいかない」
「じゃぁ! じゃぁ! 武器を預けたら!」
うぐ……それは何も言えないな。
「分かった、その後は自由にしろ……ただし、ちゃんと鍛冶屋に依頼をしてからだ」
精霊石の武器はエルフにしか直せないという訳ではない。
元々出来上がっている武器にエルフが後から加工する……要するに作り方は俺の剣と同じと言う訳だ。
武器そのものは鍛冶師が作ったままなのだから、鍛冶屋に直すこともできる。
精霊石自体はいじくったらだめなんだが……まぁそこは面倒な分、御金を積めば何とかなるそうだ。
トゥスさんが言っていた事だ……精霊石の事だし嘘はないはず。
「分りました! じゃぁ待っててくださいね!? 私が行くまで特別な事はとって置いてくださいね!?」
「何も無いぞ? 少なくともクリエが考えているような事は何もな!?」
それにしても、イリスはもしかしてクリエがドツボにはまってしまう何かを持っているのだろうか?
確かに可愛い、それは間違いない……だが、何となく……俺は俺で面白くない気もする。
そんな事を考えていると突然クリエは俺を抱き寄せ……。
「うえへへへ……キューラちゃんが一番ですから安心してくださいね」
「何を言っているんだお前は!?」
慌てて離れるとトゥスさんは大きな笑い声を上げ……イリスはうわぁ……とでも言いたげな顔で2歩ほど後ろに下がった。
だが、俺はなんでか分からないが……どこか安心してしまった。
「と、とにかく! 俺達はもう行くからな!」
そう言って再び抱き着こうとするクリエから逃げた俺はイリスと共に宿から出る。
「あ……行ってらっしゃい……」
残念そうなクリエだったが、止める気は無いらしく見送りの言葉をくれた。
俺はそれに振り返り……。
「ああ、行って来る」
それだけ答えるとイリスと共に市場へと向け歩き始めた。
「凄い人だな」
市場へと着いた俺が呟いた言葉。
それはそのままの意味でまだ朝だというのにそこは人がすごく多かった。
「準備があるから……皆早く来る」
なるほど、しかし……これだけの人数とは、商人だけでもすごい数だ。
「ところで場所って決まってるのか?」
俺はイリアへと尋ねると彼女はこくこくと頷き、歩き始める。
辿り着いた場所は昨日と同じ場所だ。
もしかして、この市場予め場所を決められているのだろうか?
「なぁこの場所って買ったのか?」
疑問に思った俺が訪ねると彼女は首を横に振り……。
「早い者勝ち、私ここが好き」
な、なるほど……しかし、此処が好きとは言っているもののはっきり言ってこの場所は良い場所とは言えない。
見れば中心部から外れており周りにはあまり人が居らず。
ましてやイリスが店を開き始めた所なんかは誰も選ぼうとしていない。
振り返れば場所取りで喧嘩をし始めている商人が見えた。
うーん……確かに昨日人通りが多かった場所だ喧嘩をするほどあっちの方が良いというのは分かった。
けど、確かにイリスが場所取りで優位に立てるとは思えない。
彼女が喧嘩をしたら間違いなく負けるだろう……なら、このままの方が良いかもしれない。
人は集めれば良い、彼女が危険な目にある必要はないからな。
そう思いつつ俺は彼女の開店作業を手伝った。
これで後は人を呼ぶだけだ……うまくいくと良いんだが……。




