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176 戻るキューラ

 本を受け取ったキューラ。

 彼はこの狂った世界を変えてやるとその場で誓いを立てる。

 そして、クリエ達の元へと戻るのだった。

「キューラちゃん!」


 店へと戻った俺を羽交い絞めしてきたのは言うまでもないクリエだ。

 彼女はうへへへへへと笑いながらもどうやら介抱してくれそうにもない。


「ク、クリエ!?」

「心配したんですよ!? 捕まってあんなことやこんな事……そんなことまで!?」


 何故微妙に嬉しそうなのかは聞かないでおこう……だが、せめて抱き着くのだけは何とかしてほしい。

 俺は困りつつも懐から布袋を出し……。


「ほら……」


 黒エルフの目の前へとそれを置く、すると彼女は大きな瞳をぱちぱちとさせ……。


「え?」


 と呆けた声を出す。


「え? ってこれは必要なんだろ? そうじゃなくても君の金だし、アイツのやったことは許されない事だ……ちゃんと受け取ってくれ」


 そう言うと彼女は大きな瞳を更に大きくし、大粒の涙を流し始め……。


「あ、ありがとう、ございます……その……」


 慌てて近場にあった剣と銃を差し出してくる。

 つまり、ただでくれるという事だろうか?

 いや、それは……。


「いくらなんでも大金すぎる……銃の方はアタシが買うよ、ただクリエお嬢ちゃんの武器は貰ったらどうだい?」


 とトゥスさんがまともな判断を下してくれた。

 俺はそれに頷くも……。


「わ、私も買いますよ!? だってこの子……」


 そう言えばそうだ。

 村を救う為にお金を稼ぐ目的で来ている。

 そんな子にただで武器を差し出させる訳にはいかない……そう思い直したが……。


「いや、銃の代金だけで十分だ……それに、この子は村へと戻らせない」

「……は?」


 何を言っているのだろうか? 疑問に思いつつ俺はトゥスさんを見つめる。

 すると彼女は呆れた様な顔で煙草を咥えて指をさす。


「フレイム……」


 いつも通り火をつけてやると一度大きく紫煙を吐き出し……。


「言っただろう? エルフの道具はそう簡単に持ち出しちゃいけない……しかもこいつは高品質、クリエお嬢ちゃんの声を借りればどうにかなるかとも思ったけど冷静に考えたら駄目だ」

「ど、どうしてだよ!?」


 俺は彼女に問うともっともな答えが返ってきた。


「この子がお嬢ちゃんに会ったのは何時だい? それまでは何処に居た? 何故急に勇者を探し始めた? そして、どうしてこの街に来るって分ったんだい?」

「うぁ……」


 返す言葉もない。


「それを問い詰められた瞬間この子は終わりさ……」

「じゃ、じゃぁ……どうするんだよ!? この子は自分の……」


 自分の故郷の為に禁忌を犯した。

 だけど、それが報われないのは違うだろ!? そう思い言い放った言葉だったがトゥスさんは一つ大きく息を吸うと再び紫煙を吐き出し……。


「見捨てるのは簡単さ、でもキューラ達はしたくないんだろ」


 呆れ声でそんな事を言い、俺とクリエは同時に頷いた。 

 すると、トゥスさんは「甘いね……」なんて事を呟き、彼女が身に着けていたリボンを取ると……。


「全く、アタシにまで甘さが移っちまったみたいじゃないかい」

「は?」


 トゥスさんは腰に身に着けていたナイフで自身の腕を切り血を流し始めた。


「「「!?」」」


 突然の事に驚いた俺達3人……いや、レムスやライムも驚いた様だ。

 何をしているんだ!? そう思っているとその血をリボンに染み込ませていき……。


「これと一緒に金を送る……アタシ達は最後の頼みを聞いてやった。分かるね?」

「つ、つまり、その子は死んだってことにするのか?」


 俺の言葉に満足そうに頷くトゥスさん。

 確かに、それならいい方法かもしれない……幸いこの世界に血液を調べる技術は無い。

 血液を移すという技術は禁忌としてあるが、何故他人の血を分け与えると死に至る者が居るのかまだ分かっていない……だが……。


「それじゃこの子はこれからどうするんだよ」


 残る問題はそれだ。


「そうですよ、お金がないんじゃ生活も……」


 続くクリエの言葉に俺は何度も頷く……それでは助けた事にならない。

 餓死するぐらいなら、いっそとも思ってしまう。

 それに両親を助けたいからこんな事をした子だ両親が好きなんだろう……会えないというのもかわいそうだ。


「簡単さ……身体も売らず、この子が生きていける方法がある」


 そう言うと彼女はニヤリと笑みを浮かべ、その悪人染みた笑みにエルフは怯える。

 うん、おかしいなトゥスさんが白エルフで店の子が黒エルフ……ダークエルフってどっちかと言うと悪側だったはずなんだが……。


「何か、トゥスさんが怖いです」


 クリエの言う通りなんだが、彼女が何かを言わないって事はこっちはあまり関係なさそうだ。

 それにしても……。


「た、助けて?」


 助けを求めるほど、彼女はどうやら怖かったらしい……俺は溜息をつきながら彼女とトゥスさんの間に割って入る。


「この子が生きて良く上で必要な事を教えるのは良い、だけど……一体なにを教えるつもりだ?」

「簡単さ……まず男に声をかける」


 おい……。


「道具はこいつ」


 取り出したものはサイコロが数個と木札……そこには数字が書かれていてまぁ、簡単な話トランプだ。

 主な使い方はサイコロを振るい出た数字ぴったりに木札を集めるという物。


「って賭けじゃないか!?」

「ああ、この娘は幸い男が好きそうだ……なら誘惑して嵌めればいい」


 待て待て待て……。


「そりゃ詐欺だろう……」


 何を言ってるんだこの人は……駄目だ、トゥスさんに任せたらこの子はエルフとしての大事な何かを失うだろう……。


「仕方がない……俺がなんとかするよ」

「さ、流石キューラちゃんです! トゥスさん、キューラちゃんが何とかしてくれるらしいのでそれをしまってください!!」


 クリエもそれは良くないと思ったのだろう、いや、思わない方がどうかしてるが……。

 とにかくこの子のこれからの生活は俺の手に重くのしかかってしまった様だ……まぁ、放って置く訳にはいかないよな。

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