175 受け継がれるもの
店には本がたくさんあった。
そんな店でキューラは一冊の本と出会う。
その本はやめて置け、そう言われたキューラだったが、頑なにそれを選ぶ。
やがて店主の方が折れ店の奥へと行ってしまう。
キューラは彼を追いかけるのだが、そこには誰も居らずただ屍だけがあったのだった。
「し、死骸?」
俺はそれを見て思わずつぶやいてしまった。
骨は所々砕けており、纏っているボロ布は見覚えがあった……。
さっきの老人だ……って事はあの老人アンデッドに!?
いや、そんなはずはない……ここに居るんだから……もし、アンデッドになっているなら骨のまま出てくるはずだ。
だとすると幽霊? いやまて……それこそありえない。
この世界に居るのはアンデッドであってゴーストじゃない! それに魔物って感じもしなかった。
一体なにが起きてるんだ……?
そう思いつつ、部屋の中を見回してみるとある事に気が付いた。
「これは……、なんだ?」
床に描かれた大きな魔法陣の様な物。
だが、不思議でならない……この世界において魔法陣は存在しないはずだ。
何せ魔法って言うのは人間や魔族であれば使える物でクリエの結界でさえ魔法陣は使われていない。
つまり魔法は魔法陣を使って作る物ではない……。
「はず……だが、これはどう見ても……」
魔法陣だ。
俺は首を傾げつつも部屋の中を捜索してみる。
仏様には悪いが、これが本当に魔法陣であれば何かの役に立つかもしれないからだ……。
そう思い、部屋の中を探していると怪しい床を見つけた。
なんだろうか? 疑問に思いつつ床を調べていると手に持っていた本から光が漏れる。
「な、なんだ?」
今度は本へと目を向け光ってるページを開くと其処には……。
「ま、魔法陣?」
そこにも魔法陣がある。
なんなんだ!? 理解が追い付かないぞ!? 一人頭を抱えていると俺が気にしていた床に隠し扉の様な物が見えてきた。
幻影の魔法? それとも結界か? まるでこれじゃ……この本がマジックアイテムの様な物じゃないか!?
俺はそう心の中で叫びつつも扉を開ける。
そこには一冊の本が入っていた。
なんだろうか? 俺は気になりその本へと手を伸ばし、中を見てみる。
「………………は?」
そこに書かれていた言葉に俺は思わず惚けた声を出す。
「ちょ、ちょっと……まて……」
そこには……。
「前世の記憶? この爺さん……!?」
そう俺と同じ転生者らしい、爺さんは以前の世界にあった技術を使い独自にマジックアイテムを作っていた。
だが、それを表に出すことはしなかった……あくまで人助けをする時にだけこっそり使ってたそうだ。
そして、この爺さんは王に認められ王宮魔術師と言う地位まで行った。
しかし、その王が勇者に放った一言が気に入らなく……ここでひっそりと暮らしていたみたいだ。
「…………この本を受け継ぐ者よ、勇者とは何たるかを知る者よ……我が技術を託す……人は人である……等しく、そこに勇者も王も貴族も民も関係ない」
つまり、この爺さんは自分が持つ前世の記憶から再現したこの世界とは違う魔法……つまり、マジックアイテムそれを使って意思を伝える為に意識だけを残した。
恐らくだが多分、この家自体が巨大なマジックアイテムだったんだ。
きっと……だからここに引き寄せれられる人間は限られているんだろう……普通ならこの家に寄り付こうなんて考えない。
何故なら、此処には看板何て物は無かったし、よくよく思い出せば家もボロボロだった……ただ一人例外が彼を殺した人物だ……だが、それは彼が目的で来たんだ。
だからこそ、この家に目を付け入り彼は殺された……だが、本が無事だったのはきっと彼の計算の内だったんだろう……誰かが自分の意思を告ぐことさえも……。
「ゴーストになって意思を伝える魔法か……」
俺は使わないだろう、だけど……。
「……この本はありがたく使わせてもらうよ」
この本に記されている魔法はきっとクリエを救う為に必要だ……俺は老人に感謝をしつつ、骨を一つ拾い上げ袋へと入れる。
出来れば骨を全部持って行ってあげたい所だけど、流石に量が多いし、怪しくなる……せめてこれだけでも静かな場所に弔ってあげよう……。
「っとそうだ! そろそろ戻れるだろう」
いくらなんでももう騒ぎは収まってるはずだ。
クリエ達も探してるだろうし、さっさとあの黒エルフの店へと戻ろう……。
「お金も取り返したって言ってあげないとな」
そう呟いた俺は二冊の本を鞄へとしまい込み店から出ようとし入口で振り返ると……。
「…………」
こちらへと視線を送る半透明な老人の姿が見えた。
何て言ったら良いのだろうか? でも、不思議と口にした言葉は――。
「アンタの意志を継ぐという訳じゃないが、俺は元々そうするつもりだった」
勇者をクリエを守る……俺の目的はただそれだけだ。
どんな手を使ってでも良い、魔王にだってなってやる。
そう思っていたが……世の中には意外と多く今の勇者に疑問を持っている人は多かった。
なら……。
「絶対に仲間を集めて、この狂った世界を変えてやるよ」
たった一人の犠牲……だけど、避けられることの無い犠牲だった物を俺は馬鹿げてると思う。
やりもしない内から諦め安全策を取るなんて事はしない。
俺は俺の意志であの子をクリエを助けたいんだ。
「じゃあな……クリエ達が待ってる」
老人へとそう言うと心の中で後で弔ってやるからなと告げ、店の外へと足を踏み出した。
振り返ると其処には看板もない店が一つ……。
ボロボロの家に入っていたことが少し不思議でならない。
「……戻るか」
俺は足を進め、エルフの居た店へと急いだ。




