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173 逃げる強盗!

 精霊の道具は通常エルフの里の外には出ない事を知ったキューラ。

 しかし、目の前のエルフは自分の家族の為に法を犯した。

 家族の為なら大丈夫ではないか? そう思うキューラだったが、どうやら話は簡単な物ではない様だ。

 そんな中、突然現れた男は精霊石の道具を不良品だと言い、金が入っているであろう布袋を奪っていってしまう。

 それを見たキューラは思わず動くのだった。

「待て!!」


 布袋を持った男を追いかけ走り出してしまった俺は小さい体を生かし人混みをすり抜ける。

 相手は上手く進めず人を押しのけながら進んで行き――追いつくのは簡単だった。

 しかし――。


「――っ!!」


 あろうことか男は懐からナイフを取り出すとそれを振り回し始めた。

 理由は恐らく俺が近づいたからだろう……。

 危うく切られる所を躱せた俺はそのまま足払いをし、相手を地に倒すと手放したナイフを拾う……。

 そして、男の持つ布袋へと手を伸ばし――。


「た、助けてくれ! 強盗だ!!」


 と叫ばれてしまった。


「どっちがだよ!?」


 俺は思わずそう突っ込みを入れてしまったが、今の状況を見ている人はどう見ても俺が強盗だと思っても仕方がない。


「それは……お前が店から盗んだ金だろ!」


 だからこそそう叫び、周りへと知らせると……。


「そいつはいけない事だよなぁ……しかもまぁあんな小さな女の子にやられるとは情けない」

「本当……この市場は冒険者の方が居るからそんな事無いと思ってたのに」


 と言う声が聞こえた事に俺はほっとした。


「それにしてもあの子可愛いな……」


 うん、その反応はいらないぞ? 確かに見た目は最初から女の子だし可愛いとは自分でも思う。

 いや、だからって可愛いでしょ? とかは言わないぞ? あくまで昔から男だった俺の目から見ても可愛いと思うというぐらいだ。


「うへへへ……凛々しいキューラちゃんもまた良いです」


 そして、最後の声は間違いなくあの勇者だろう……。

 こんな時も揺るがないな!?

 などと思い布袋を取った俺はクリエへとそれを渡した。


「ほら、持ってってやれ」

「はい!」


 笑みを浮かべて布袋を受け取ったクリエを見て辺りは息をのんだ。


「勇者、様?」


 そう、クリエは勇者だ……だからそれに気が付いた人々が彼女に釘付けになったのだ。

 寧ろさっきのエルフが気が付かなかった事に俺は驚いたが……まぁ、ほわほわしてるし多分その所為だろう。

 とは言え、今は注目の的……クリエは苦笑いをしつつもエルフの元へと戻っていく……。

 盗人本人と言えば相手が勇者と知り合いだと知るや否や……。


「何してるんだ?」


 その場に座り込み頭を地面へと擦り付けていた。

 所謂土下座だが、この世界にはそんな言葉はない……ただの謝罪であり、目上の者に対する失礼のない謝り方だとはされているが……。


「も、申し訳――」

「謝る相手が違うな、それにお前のやったことは許されない事だ……あの子の元に金が戻っても盗みは盗み、憲兵に突き出すのは変わらない」


 そうはっきり言ってやると騒ぎを聞いて誰かが通報してくれたのだろう、憲兵が現れ……。

 男は焦った様に――。


「こ、こいつの仲間に金を奪われたんだ!!」


 憲兵にそう告げるが……俺は従者の証を見えるようにすると……。


「こいつがある店の売り物に文句をつけ売り上げを盗んだんだ……迷惑料だってな、その商品に価値があるのはもう分かってる……」


 俺の方へと歩いて来た憲兵にそう告げると、彼は一瞬固まり……すぐに男の方へと向き直る。


「さて、従者殿の言う事だ……勇者の手足となる者が嘘を言う必要はないだろう?」


 彼はそう言うと男へと一歩一歩近づき、男は俺の方へと目を向け――。


「お、おお、お前! 許さないからな!! 絶対に――!!」


 立ち上がった男はその場から逃げようとするのだが、周りは人垣ができており、それも叶わない。

 あっさりと掴まった男は憲兵に連行されていき……俺はその様子をしっかりと確認しほっと息をつくとエルフの店へと戻るべく振り返った。

 すると……。


「凄いな! お嬢ちゃん……一歩も引かないなんてな!!」

「可愛いのにしっかり従者さんなんだね!」

「どうだ? 今夜食事でも‥‥…」

「え? あ……お、おい!?」


 何故か囲まれる事になり、その場から抜け出すのには苦労をする羽目になった……こんなはずじゃなかったのにな。







 暫くその場に居た者からの質問攻めに女性にはマスコットにされ、一部の男にはナンパをされつつも何とか逃げ出せた俺はエルフの店へとどう戻ろうか悩んでいた。

 と言うのも逃げ出すのに時間が掛かり、今は人気が無い所で隠れている。


「参ったな……あっちに戻ったらまた囲まれるかもしれない」


 正直質問攻めはまだ良い。

 あの怪しい目で迫りくる女性はある意味怖い。

 それよりも面倒なのがナンパだ……あれはしつこいからな……かと言って人を殴る訳にもいかないし逃げの一手だ。


「悪者と言ったら悪者なんだが……」


 しつこい場合はまぁ強硬手段に出ても良いのかもしれないが、俺がそれをやったら立場が危うくなるのはクリエの方だからなぁ……。


「さて……どうするか?」


 俺はそう呟きながら近くに居るライムとレムスに問う。

 だが、二人は魔物……答えてくれるわけがなく……。


「参ったなぁ……」


 俺は一人途方に暮れ辺りを見回していると……。


「ん?」


 一軒気になる店を見つけ、ふらふらとそっちへと歩き始めた。

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