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172 エルフとエルフ

 バザーで武器を探すキューラ達。

 だが、意外にもそこにはエルフの少女が出している店があった。

 そこに置いてあるものは見た目こそ粗悪ではあったが精霊石の道具で……。

 俺が呆れていると目の前の黒エルフは暫く目をぱちくりさせていた。

 それから少し経つと可愛らしい笑みを浮かべ……。


「お姉さん面白い冗談好き?」


 と笑い始めた。

 彼女は冗談だと思ったみたいだが、おそらくトゥスさんは本気だ。

 その証拠にこめかみ辺りがぴくぴくと動いている。


「でも、安いって言うのは本当……でもでも、お金稼がないと村が……」


 対する黒エルフの少女は沈んだ表情へと変え、がっくりと項垂れてしまった。


「村? 村って君の村か?」


 俺は訪ねてみるが、他の村だったらこんなに落ち込みはしないだろう。

 それは正しかったみたいでこくりと首を縦に振った。

 しかし、そんな彼女にかみついたのは他でもないトゥスさんだ。

 彼女は一歩前に出ると――。


「村が大変ね……じゃぁその道具の数々は村長から売ってこいなんて言われたのかい? そんな訳ないだろう?」


 彼女の言葉を聞くなりびくりと身体を震わせる黒エルフ……恐る恐ると顔を上げた彼女はトゥスさんを涙目で見つめる。

 どういう事だろうか? 俺は疑問に思いつつも何も言わないでいると……。


「やっぱりね、アンタそれで食材とか買っても犯罪者扱いで殺されるよ、だってのに村の為に売るのかい?」

「……だって……パパもママも……それに……」


 両親の事が心配なのか……そう思うと俺もこの世界の両親の顔が思い浮かぶが……。

 今頃は両親の所には立派な護衛も居るんだ気にする事は無い。

 だが、目の前の子は違うだろう……。


「家族を守る為なら流石にそんな罰は無いんじゃないか?」


 俺はトゥスさんにそう言うが彼女は静かに首を振った。


「そんな訳ないだろう? エルフの里って言うのはきつく縛られていてね、精霊石も粗悪な物しか外に出しちゃいけない。良い物は里から出さないんだよ……」


 そう言って見つめた先には先ほどのボロボロの剣。

 いや、待てよ? っていう事は俺の剣も……そう思い、俺は視線をずらすとトゥスさんは溜息をつき……。


「そうだよ、それも良質な精霊石を使った道具だ。だが、それはあたしが作った奴で勇者の護衛の為に作った物だ。戻るつもりなんてないけど、例え戻っても文句は言われない」


 なるほど……エルフにとっても勇者は特別って事か……。

 しかし、目の前の子は両親の為という立派な目的があるというのに駄目なのか? それもなんだかおかしい気がするぞ……。


「私は死んでもいい、でも……パパとママ……それにあの子の為なら……」


 なるほど、つまりこの子は妹か弟それか大事な人が居るって訳だ。

 だから禁忌を冒してまで……いや、待てよ? 勇者に対する物が良いというなら……。


「持ち出したのは勇者を見つけたからその人に支援として武器を持って行ったとかじゃ駄目なのか?」

「…………は? 何を言ってるんだい?」


 俺の言葉にトゥスさんは表情を歪めていた。

 それもそうだろう、俺もそう思う……だがいくら後付けだとは言え……。


「クリエ、この子は最初からクリエに武器を売るつもりでいたって事にしよう」


 それでも、クリエ(勇者)がそう言うなら問題は無いはずだ。

 それに、もう一つ俺は気になる物を店で見つけたのだ。

 隠すようにおいてはあるが確かに売り物の中に混じっているそれを……。


「そして、そこにある銃も売ってくれるか?」


 俺はそれを指差し彼女に伝える……すると彼女はびっくりした様に隠していたそれへと目を向ける。


「……これは……」


 どう見たって銃だ。

 銃の種類は分からないが銃身の長い物で恐らくはトゥスさんが最初に使っていたものとそう変わらないだろう。


「確かにあるね、それがあればこっちは助かる」


 にやりと笑みを浮かべるトゥスさんは銃へと手を伸ばし……。


「ん?」


 その手が止まり、どうやら銃が別の意味でも気になる様だ。

 なにか問題でもあったのだろうか? そんな事を考えていると黒エルフの少女はおろおろとしだした。


「それは売り物じゃないんですか?」


 そんな彼女にクリエは確かめるように問う。

 すると少女は首を横に振り……。


「売り物、だけど……」


 何処か寂しそうにその銃を見つめている。

 そんな時だ――。


「おい! 女!!」


 怒鳴り声と共に男性が俺達の目の前に割り込みエルフの少女へと詰め寄ったのは……。


「え? あ……いらっしゃいませぇ」


 一瞬驚いていた彼女だったが、すぐに接客をし始める。

 だが、男はそれが気にくわなかったのかさらに詰め寄り……。


「良くもこんな不良品売りつけてくれたな!? 何だこれは!!」


 彼が取り出したのは一本の短剣。

 だが、刃はボロボロだ……と言ってもアレも恐らく……。


「ふりょう……? 違うそれは――!!」

「ふざけるな!! 金を返せ!!」


 精霊石の短剣……恐らくは何らかの効果があるはずだが、短剣じゃ軽くするなんて事は無いだろう……。

 多分、頑丈になってるとか切れやすいとか……そんなもののはずだ。

 だが、それも聞いて見ないと効果が分からない。

 それに見た目が見た目だ……不良品を売りつけられた。そう思っても仕方がないだろう……。


「最初からおかしいと思ってたんだ! ボロボロの剣をお勧めなんて言って来るし……お前、こんな事してただで済むと思うなよ!?」


 とはいえ、彼女は本当に不良品を売りつけた訳じゃないだろう。

 仕方がない……。


「おい……」


 俺は男に声をかける。

 すると彼は振り返り……。


「なんだよ?」

「それは確かにぼろいが、精霊石の道具だ……どんな効果があるのかちゃんと聞いたのか? この子は不良品何て売りつけてないぞ」


 俺がそう言うと彼は赤い顔をますます赤くし……。


「そんな嘘を信じるかよ!!」


 短剣を投げつけると女の子の脇にあった布袋をひっつかみ――。


「あ!? それ私の!!」

「ウルセェ!! 迷惑料だ!!」


 と怒鳴り、その場から去って行く……。

 おいおい、これは……いくらなんでもおかしいだろ? そう思った俺は――。


「キューラちゃん!?」


 勝手に体が動いていた。

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