171 バザー
銃を作る型を手に入れる為、特別な砂を求めたキューラ達。
しかしルードの鍛冶屋にもその砂は無かった。
だが、鍛冶屋の店主はバザーならあるかもしれないとキューラ達に教えてくれるのだった。
目移りしてしまう……バザーに来たら皆そうなるだろう。
現にクリエもあっちこっちに視線が泳いでいた。
「ああ、あの服キューラちゃんに似合いそうです……」
そしてその視線の向こう側には服と言うには無理がある布……だからそれはきっと下着かなにかだろう?
「あれで……夜……うへ、うへへへ……」
駄目だこの勇者、ただの変態だ。
勇者の皮を被った変態だ!?
幸いなのは想像するだけで買いに行こうなんて事を言わない事だけだな。
まぁ、今回はその余裕がないんだろう……なにせ俺達が求めてるのは武器だ。
武器はそのまま命に直結するものでもあるからな……。
「それにしても……」
俺は目の前にある人垣を見てため息をつく……。
「人多すぎないか?」
「確かに、歩くのもやっとだ……」
店を見ようにも人の隙間からやっと見えるって感じだ。
これじゃ探しようもない。
なんて文句を言う前に探せってなもんだが……。
「武器屋らしいのは奥に見えますが……あそこもいっぱいですね……」
クリエは現実に戻って来たのかまともな事を口にしながら辺りを見回す。
するとなにかを見つけた様で、嫌な予感を感じつつ俺はクリエに尋ねてみる事にした。
「どうした?」
「いえ、あっちの方は人が少ないですよ? でも……武器があります」
人が少ないけど武器がある?
何だ……それ……? 武器があるなら冒険者が見に行きそうな物だけど……。
「粗悪な商品でも扱ってるのか? 一応見に行ってみるかい?」
トゥスさんの発言には突っ込みを入れたい所だが、よく考えなくても人気が無いという事ならそうなんだろう。
だが、ここはバザーだ。
何か掘り出し物があるかもしれない……。
そう思い俺は頷いた。
人混みをかき分けなんとかその場に辿り着いた俺達はその店を見て驚いた。
出ている剣は刃こぼれでボロボロ、防具は傷だらけ、粗悪も良い所だ。
だが――。
「……なるほどね、これじゃ売れない訳だ」
「いらっしゃいませぇ~」
にこにことしているのは店主であろう肌の黒いエルフの女性。
彼女は俺達を目にするなり……。
「これ! これおすすめですよ!」
とボロボロの剣をすすめてくる。
だが、相手はドヤ顔と言う感じだ。
「お安く提供です! なんと! 300ケート!!」
うん、ある意味破格も良い所だっと言いたい所だけど、彼女の様子、そしてボロボロの剣には見覚えがあった事から……俺は確かに良い意味での破格かもしれないと考えた。
そして、隣に居るトゥスさんへと……。
「なぁ、これもしかして……」
と尋ねると彼女は頷き……。
「間違いない……」
と言いつつ溜息をついた。
そして、黒エルフの目の前まで行くと彼女を見た黒エルフは目を輝かせ……。
「ね? ね? 破格!」
っと訴える様に剣を差し出してくる。
そんな様子を見てうちの勇者様は――。
「うへへへ……必死な様子が可愛いです……」
うん、確かに可愛い可愛いが……何故だろうか? クリエが言うと危なく感じるのは……。
「アンタ馬鹿かい?」
っておい!?
俺がクリエに気を取られている内にトゥスさんはいきなりなにを言いだしてるのだろうか!?
店主も目が点になり固まってしまっているじゃないか!?
「これは500でも安いぐらいだよ? それを300なんて……馬鹿げてるそれに借りにそれで良いとしても商品の説明もせずに売れるとでも思ってるのかい?」
うわぁ……確かにあの子のおすすめの仕方ではぼろい剣を押し付けられている気がするけどさ……。
それを磨いて手入れすれば使えるなんて誰も思わないだろうが……。
「えっと……」
黒エルフはしどろもどろになりながらもトゥスさんを見る。
すると怯えた様子で助けを求めるように俺達の方へと目を向けた。
そう、トゥスさんが怒っている理由は簡単だ。
商品が精霊石で加工した剣……つまり、俺のと同じと言う事だった。
だが、逆に言えばこれは幸運でもある。
「トゥスさん、そこまでにしておこう……どっちにしてもその剣は買った方が良い」
武器屋に行けば新しいのは手に入る。
しかし、精霊石で加工してある剣の使いやすさは身を持って体験済みだ。
道具さえあればトゥスさんにやってもらう事も出来るが最初からされているなら手間が省ける。
そう思っての発言だったのだが、黒エルフは途端に表情を明るくし――。
「本当!?」
笑みを浮かべたのだが……。
「だから値段を考えなって言ってるじゃないか!? そんな安値でそれを売られちまったらアタシが困った時に売れなくなる!!」
「困った時ですか?」
トゥスさんの言葉にクリエは質問をする。
するとトゥスさんは深く頷き……。
「例えば賭けで負けた時、流石に裸じゃ寒いからね、精霊石でチャラなんて事もある」
「……おい、それが怒ってた理由か?」
全くこの白エルフは……。
いや、この世界はエルフの肌の色なんて関係ないのだけど……はっきり言おう……駄目だこのエルフ。




