17 スライム
湖で休息を得る事にしたキューラ達。
そこにある水は驚くほど美味しく、スライムでも居るのではないか? と冗談交じりに話していた。
クリエはその可能性を考えすぐに去る事を告げたのだが――キューラが林檎を冷やそうと準備をしているとスライムに出会ってしまう……絶体絶命……そう思われたのだが、スライムは襲って来ないようで……?
「懐いてるな」
「懐いてますよね」
「懐いてます」
俺の太ももの上に乗っかるスライムを見て3人は同じ言葉を発する。
当のスライムは周りに居るのが俺の仲間だと判断しているのか暴れる様子が無く、大人しく林檎を消化している。
なんかこう……大人しいと不思議と可愛く見えてくるのは何故なのか?
動物の様に暖かくはない、寧ろ冷たいんだが……まぁ気持ちが良いのは変わりない。
それに服を溶かされたりとか薄い本的な展開はなさそうだ。
いや、誤って飲んだ場合は腹を食い破って出て来ると聞いたし、ホラーやグロになりそうだな……ってそうじゃない……
「何で懐いたんだコイツ?」
「そもそも魔族に懐くって言っても、キューラは純血ではないよな?」
カインはそう言うと俺の顔を覗き込んでくる。
恐らくは目を見てるのだろう……その理由としては純血の魔族はあの幼女の様に両方の目が赤い。
両親共々混血の魔族、人間の血も当然俺には流れている……だが、俺は――
「一応は混血だ……」
「混血でも魔族の血は流れているんです。稀にその才能を開花させる人は居るでしょう、ですが……スライムは今まで懐いたという前例がありません」
「そ、そうなんですか?」
近づいても大人しいスライムが珍しいんだろう、チェルはスライムを突っつきながらクリエへと問う。
「はい、その昔魔族がスライムを捕らえ薬を作ろうとしたのは知っていますか?」
「ああ、そう言えば授業で習った……確か、一人を残して壊滅だったんだろ?」
スライムがどのぐらい恐ろしい魔物か、それを先生は教えてくれるために丁寧に教えてくれた。
俺の知識とまるで違う事でもあったからな忘れるはずが無い。
「はい、キューラちゃんの太ももの上に乗っかってる羨ましい子はセージスライムという名前の魔物です」
「う、羨ま……?」
チェルは其処が気になったのだろう、繰り返すがクリエは気にせずに会話を続ける。
セージというのはこの世界でも賢者などの事言う、彼らは研究以外にもポーションなどを作るのも仕事の内だ。
早い話、セージスライムとは薬草や香草など主食とするスライムでその体内で高品質のポーションを作り出す魔物だ。
その為、昔は討伐体が組まれるほどだった。
そう、その事件が起きるまでは……
「捕獲に向かった討伐隊は今までない数のセージスライムを相手にしました……ですが、スライムは単体でも打撃を逸らし、一部の魔法……氷の魔法以外を無効化すると言う性質を持った魔物です。ですので倒すには凍らせるしかありません、ポーション自体は凍っていても問題は無いので溶かすだけなのですが……」
「凍らせるって私達には無理ですよね?」
「ああ、だから魔族……古代魔法が使える奴が必要なんだ……」
俺の言葉に頷くクリエ――
「なるほど、でもなんで討伐なんだ? 魔族なら懐かせれば良いだろ!」
笑いながらそう言うカインだったが、それが出来なかった……といいたい所なんだが、今回は彼と同じ意見だ。
現に懐いてるしな……しかし――
「先程も言いましたが前例が無いんです……誰がやっても懐かなかったんですよ、それで討伐……捕獲をしようとした……ですが、スライム達は身を寄せ合い一つの大きな塊になったんです」
現実はクリエの言った通り前例がない。
「結果魔族の魔法で凍らせるのに時間が掛かり、接近戦や新たな魔術師を手配しようとした……だけど、そうこうしている内に何人もの魔術師が喰われて、たった一人を残して皆スライムに溶かされた。以降、魔大陸は勿論、神大陸でもスライムの捕獲は危険視されてる」
確かそんな内容だったはずだ。
にしても水を真水に変える力を持つスライムは、今やっている様に何かを取り込み溶かす事も出来る。
太ももの上のこいつは小さいが、形が自由自在だから俺なんか丸のみ出来るだろう……
つまり、あの時何故か懐かなかったら今頃俺はこいつの腹の中で苦しみもがいている訳で……
「……な、懐かなかったらと考えたら……ゾッとするな……」
「全くです、早く去る様にしましょうって言ったのに……」
そ、それには何も言い返せないな……
「でも、カイン君達が戻って来た時に何をしてたんですか?」
「えっと、林檎を冷やそうとしたんだ……それで、こいつに誤って触れて……びっくりして林檎をひっくり返してな?」
そう言うとチェルはほっと息をつき、もしかして俺呆れられたか?
「助かったのは本当に偶然? でも――そうするとこの子もしかしてキューラちゃんが林檎をくれたと勘違いしたんじゃ……クリエさんが駆けて行ったのに大人しいですし……」
「へ? ひっくり返してばら撒いただけだぞ?」
いや、でも他に何も思い当たらないな……だとするとチェルが言ってる通りなのか?
「だとしたらこいつは相当な馬鹿だな! ばら撒いた物をくれた! なんて勘違いをしてぇぇ!?」
賢いからか馬鹿という言葉を理解できたのだろうか? それとも侮辱は何となく分かるのか理解はできないがスライムは俺の太ももの上から跳ねあがるとカインへと体当たりをかました。
「カ、カイン君!?」
突然の行動にチェルは驚くが――
「な、何をするんだこのスライム!?」
どうやらカインは無事の様だ……スライムの方はというと再び俺の方へと寄って来て太ももに落ち着いた。
そこが定位置なのか? というか変なこと本当にしないよな? 若干不安にはなるが――
「多分、馬鹿にしたから怒ったんですね?」
「クリエ……俺に問わないでくれ」
俺にも良く分からないんだからな……
「それよりも、だ……こいつ離れそうにもないけど街は大丈夫なのか?」
稀に懐く事はあるとは言ってもスライムだ。
街に入れた後に被害が出たんじゃ笑い事じゃない……
「うーん……懐いた魔物……使い魔は手続きさえ済ませれば街に入れます。ですが、使い魔は基本的に主人にしか従わないので……」
「…………なるほど」
なら問題はなさそうだ……そう思いつつ俺はスライムを両手に乗せ持ち上げる。
「おい、お前良いか?」
「あの……」
命令をしようとした所チェルに止められ俺は首を傾げた。
「どうした?」
「お前とかコイツじゃなくて名前を付けて上げたらどうですか? その、私達も呼びにくいですし……」
確かにそうだな……えっとスライムで……緑色……何か見た目がライムの色っぽいし、スライムともかかってる。
うん――
「じゃぁライムで」
「スを抜いただけじゃないかってうぉぉぉ!?」
俺が決めた名前に突っ込みを入れるカインは再びライムによる体当たりを受け、驚きの声を上げる。
「ライムちゃんで良いみたいですね……」
クリエは引きつった笑みを浮かべそう言うが当然だろう……
ライムは酸こそは出してはいないが、なぜか敵意を持ってるしなカインにだけは……
これは忘れないうちに言っておかないと駄目だな。
「良いか、ライム」
俺は戻ってきたライムに指を向け伝える。
「これから俺達は一緒に行くことになる……だから、人に対して攻撃をしたら駄目だ。特に酸は俺が良いと言わない限り使うな」
そう言ったはいいがライムはちゃんと理解しているのだろうか?
一応言葉は理解出来てるかを確かめた方が良いな……
「今の話が分かったか? 分ったら俺の肩に乗れ」
そう言うとライムはプルプルと震えた後にピョンピョンと飛び跳ねると腕を伝って肩へと昇り始め、辿り着くと頬にその身体を摺り寄せてきた。
つ、冷たい……
「言葉はちゃんと理解してるみたいですね」
クリエの言葉に俺は頷き――
「これなら大丈夫だ……多分」
さっき言った事がちゃんと理解されている事を願った。